お買い物①
『……と、現地の報道によりますとイタズラであった可能性が非常に高いという事で、厳戒態勢は緩まりつつあるようです。
以上、ハワイからでした』
『ありがとうございます。
やはりイタズラと言う事ですが、今回の件、いかがでしょうか? 危機管理の専門家でありフランス外国人部隊に所属していた経験もある、ジューク西郷さんにスタジオにお越しいただいていますので、その辺りのコメントをいただきたいと思います。よろしくお願いします』
『よろしくお願いします。
さて、今回の事件なのですが、日米首脳のゴルフ会談と言う半ば恒例化された行事を狙って行われた、つまり、イタズラとは言えかなり計画的な犯行であることが窺えます。
そして、市販品のドローンが使われた事から必ずしもテロに高額な兵器が必要で無いと示したとも言えるでしょう。
ですが、事件の瞬間を捉えたと言われる映像からわかるように、要人警護を専門とするSPは相当に訓練をされており、仮に今回の事件が実弾を用いるような改造が成されていても問題なく対処していたと私は考えます』
テレビの中で、超望遠で撮られたであろう映像が流れる。
木々の間に、芝生の上を歩く二人の姿が見える。
よほどカメラが離れていたのだろう。
顔までは判断出来ないが、それは日米両国のトップの二人らしい。
そこに突然、黒い服にサングラスの人物が飛び込んで来る。
それに気付いた大統領に飛び掛かり、投げ飛ばし、横にいた首相を巻き込み二人まとめて地に転がす。
荒っぽいが、確実な仕事。荒っぽいけれど。
SPはすぐさま体勢を立て直し、銃を宙に向け発砲した様に見える。
その足で大統領を踏みつけながら。
俺が昨日、異世界に行っている間に起きた事件。
ハワイのゴルフ場でゴルフをするアメリカ大統領と日本首相の上空へドローンが飛来し、すぐさま撃墜された。暗殺未遂かと騒然となったらしいが結局はイタズラと言う事らしい。
これ、レオナルドが言ってた事と関係あるんだろうか。
まあ良いや。そろそろ出かけよう。
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なつみかん>起きてる?
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これは、夜間ハナの車で西へと爆走している間に来たLINE。
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御楯頼知>ちょっと今無理
御楯頼知>ごめん
なつみかん>りょ
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助手席でそれだけ返したのは由比を過ぎたあたりだったと思う。
そして、暫くブルブルと震えていたスマホ。
それを確認したのは少ししてから。
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なつみかん>大里に合格祝いを頼まれたんだけど
なつみかん>えっと、明日はちょっと予定があって
なつみかん>えっと
なつみかん>リンコと一緒にでも良いかな?
なつみかん>大丈夫?
なつみかん>寝た?
なつみかん>明日の朝でも良いので
なつみかん>返事ください
御楯頼知>りょかい
御楯頼知>三人
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浜松のSAで休憩中に返信を。
そして、三人のグループトークへと舞台が移る。
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やきりんご>やー
なつみかん>どこいこー?
やきりんご>ご予算は?
なつみかん>一万から一万五千くらい
やきりんご>ん!りょ
御楯頼知>あ、もうちょい増える
御楯頼知>四万増えた
なつみかん>え?
やきりんご>なんで?
御楯頼知>バイト先の上司とその同僚とその上司からだって
御楯頼知>預かった
なつみかん>あれ?
なつみかん>今、一緒?
御楯頼知>はい
なつみかん>どこ?
御楯頼知>浜名湖
御楯頼知>目的地はない
なつみかん>乙
なつみかん>明日無理ね
御楯頼知>何で?
なつみかん>どこまで行くか知らないけど起きれないでしょ?
なつみかん>と言うか帰れなくない?
御楯頼知>どこまで行くか知らないけど起きるよ
御楯頼知>帰れたら
やきりんご>よし
やきりんご>じゃちょっとちゃんと選ぼう
なつみかん>どこ行く?
なつみかん>渋谷?
やきりんご>原宿?
御楯頼知>町田でダメなの?
なつみかん>ない
やきりんご>ないない
なつみかん>ないわー
やきりんご>ちょっと正気を疑う
御楯頼知>ごめん
御楯頼知>任せる
やきりんご>銀座行くか!
なつみかん>大人の街!
やきりんご>ごめ、ちょっと上げすぎた
御楯頼知>あと任せた
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この辺りで俺は再び車内へ戻る。
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やきりんご>という訳で、14時に渋谷集合!
やきりんご>古風にハチ公前で
なつみかん>りょー!
なつみかん>御楯君も良い?
なつみかん>見たら返事しといて
やきりんご>みたてくん
やきりんご>みたてくん!
やきりんご>み・た・て・く・ん!
やきりんご>なんか卑猥
なつみかん>えっと、殴られたい?
やきりんご>ノン
やきりんご>おやすみ
なつみかん>おやすみ
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と言うのに目を通したのは夜明け前の諏訪湖。
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御楯頼知>りょかい
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そう一言返す。
睡魔は限界に近かった。
だが、フェアレディの助手席では寝れぬ。
怖い。運転が、では無くその後の惨劇が。
そして家に着いて泥の様に寝て、12時丁度のアラームで何とか目を覚まし、待ち合わせ五分前に渋谷に着いた。
俺、頑張ったと思う。
なんてのはまだまだ序の口なのだと、その時の俺に教えてあげたい。
本当の苦行はこれからなのだと。




