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闇を照らす

 それでもキャプテンは何度かレオナルドに帰還を促したが彼が首を縦に振る事は無く。

 力ずくで連れ帰る様な事はしなかった。

 レオナルドの憂いを含んだ様な笑みに送られ現実へ帰還。


 ────────────────


 なつみかん>ごめん!

 なつみかん>やっぱ先帰る


 なつみかん>また、改めて


 ────────────────


 スマホを確認して彼女を待たせておいた事を後悔する。


 ────────────────


 御楯頼知>遅くなってごめんなさい

 御楯頼知>お疲れ様でした


 ────────────────


 返信をしてから、椅子に身を預けレオナルドの言葉を反芻する。


『顔認証と連動させ指定の世界へ。

 やった事はそんなところでしょう』


 つまり、任意の誰かを決められた所へ送る仕組みは……出来つつある。

 どこへ送るのか。それも俺が置いた御識札と地図があればある程度はコントロール出来るだろう。

 G playを取り巻く環境は変わりつつある。

 それに加担すべきか否か……。


 そんな事を考えながらレポートを書き上げる。

 だが、その手は遅々として進まず。


 何とか仕上げたタイミングで大里からLINE。


 ────────────────


 大里優耶>戻った?

 御楯頼知>だいぶ前に

 大里優耶>あちゃ。もう帰った?

 御楯頼知>今帰る所

 大里優耶>飯食わない?

 御楯頼知>良いよ


 ────────────────


 そう言えば母親が留守なのだと思い出し大里の誘いに乗る事に。

 専用スペースから出てそのまま一階のビルの前で待ち合わせる。


「お待たせ」

「言うほど待ってないけど」

「夏実と帰ったかと思ったよ。丁度良かった」

「レポートに時間かかってさ」

「わかる!」

「で、何食べる?」

「ラメーン」


 伸ばす所がおかしい。

 気にせず歩き出す大里に付いて行く。

 そのまま赤坂見附駅近くのラーメン屋へ。


「部長さんに合格祝いを送ろうと思うんだ」


 カウンターへ座り食券を渡した後に大里が切り出す。


「あ、受かったんだ。どこ?」


 大里が告げた大学はここからすぐそばにある学校で、俺では到底無理そうなところ。


「まじかー。すげぇな」

「ずっと部室で勉強してたからね」


 来年は我が身……か。


「で、お祝いか。

 何あげるの?」

「何が良いだろうね。

 明日とか、夏実と探して来てよ」

「え?」

「予算は、一人……五千円くらい?」

「ちょま」

「安い? まあ、部長もそれなりに稼いでるだろうから難しいよね」

「違う。予算はまあ、それくらいで良いと思うんだけど」

「じゃそれくらいで」


 いや、問題なのは予算でなく、その前なのだ。


「三人で行けば良くね?」


 夏実と二人とか、ハードル高い。

 かと言って大里と夏実の二人きりで行かせるのは嫌だ。

 俺一人では、シャレオツな贈り物を選ぶ様な自信は無い。


「僕はちょっと向こうへ行きたいんだ。

 これ食べたら戻るつもりだし。

 そのまま明日もずっと行ってるつもり」

「ノルマ?」

「いや。ちょっと、気になると言うか、やりたい事が出来たんだ」


 いや、こちらとしてもいきなりそんなイベントをぶち込まれても何の準備も出来てないのだけれど。


「いや、しかし、夏実さんがなんと言うか」

「夏実が良ければ御楯も良いわけだね。

 じゃ後で連絡しておく」

「え、ちょ」


 と、そこでラーメンが運ばれて来て、反論のタイミングを失う。


 結局その話はそれっきりになり、何故か話は阿佐川は犬派か猫派かと言う話になる。

 騎士だから従順な犬を連れてる方が似合うだろう、いやいや、彼はダンボールの中でずぶ濡れになった猫に傘を差し出すタイプだなどと毒にも薬にもならない話をしながら溜池山王のビルへ戻る。

 大里は再び異世界へ。

 俺は地下鉄の駅へ。


 そのつもりだったのだけれど、ビルの入り口でハナが待ち構えており。

 大里が御愁傷様と俺に両手を合わせながら去って行く。


「送るわ」

「あ、はい」


 今日は朝から車に乗せられっぱなしだな。

 でも、彼女の運転が一番安心できるか。


 ◆


 首都高を北上するフェアレディ。


「朗報よ。オペレーション・キマリスに正式なGOが出るわ」


 朗報と言うには面白くなさそうなハナの口ぶり。

 異世界教習所と言うべき物が出来る事になったか。


本国アメリカは、日本のG Playの展開に驚いている。

 向こうで軍人を送り込んだ以上の成果をこの国の民間人が上げているのだから」


 それは、今回の事件に限った話だけでは無いのだろう。

 嘘か本当か定かでない噂だが、向こうで手に入れた知識を製薬会社に持ち込み新薬開発の足がかりになったらしい。

 あるいは、新しい合金であったり、亡くなった歌姫の遺作であったり。


 つまり、向こうから持ち帰れないものは物質だけなのだ。


 知識や記憶。

 そういったものは、何の検閲を受けること無く持ち帰ることが出来る。

 まあ、それを活用できるか、ひいてはこの世界で価値をつけれるかは別問題なのだが。


 いずれオペレーション・キマリスによって教育を施された生徒の何割かはアメリカへ情報を貢ぐ兵士とされるのだろうか。


「レアー、いや、ハナさんはどう思っているのですか?」

「それで大した成果が上がるとは思ってない」

「なぜ?」

「軍人は仕事として行っている。

 この国のプレイヤーは、完全に遊びだと思って行った。

 だから、違った。

 稀有な力を持つプレイヤーは、この国の方が圧倒的に多い。

 特に、初期のプレイヤーに。

 本国は、母数の違いだと、そう思おうとしているようだけれど」


 静かにフェアレディを走らせながらハナが言う。

 今日の運転は穏やかだ。

 車は外環道に入り、方向を西へと変える。


「一から十まで教えられた。そんな中途半端な連中、大して役に立たないんじゃないかしら。

 どう思う?」

「……役に立つかどうかは、生きるのに必死な当人には関係ない事じゃないですかね」

「それもそうね」


 ただ、言わんとしている事はなんとなく伝わった。

 元々は軍人を送り込んでいた所に、損失が大きいからと、民間人に切り替えた所、予想以上の成果が上がった。

 それは、仕事として行ったかそうでないかの違い。

 ハナはそう考えた。

 では、学校で学んだ身、と言うのはどうなのだろう。

 両者の中間。

 なんとなく、そう思った。


 そして、そんな事は生きるのに必死な当人には全く関係のない事なのだ。


 俺は自分の言葉に気付かされた。


 行くところが指定出来ない。それがG Play。

 だからこそ危険なのだし、だからこそ面白い。

 そして俺はそんな世界で生き残って来た。

 だから、他人もそうすべきだ。

 どこかでそんな風に考えていたのだろう。


「向こうにマーカーを埋めてあります。それと地図。

 まだ大した数では無いですけど、レアーに提出します。オペレーション・キマリスで活用して下さい」

「……どう言う風の吹きまわし?

 何かの取り引きかしら?」

「安心、安全な異世界生活」


 少し前に、雑誌に踊っていた言葉。

 出来る事ならば、それを実現させてみたくなった。


「悪魔の囁きね」


 鼻で笑うハナ。

 俺は気付いたのだ。G Playの仕組みを受け入れ、そして生き残る事に優越感を持つ自分に。

 哀れにも帰らなかった弱者を弱者だと見下しながら手を差し伸べる事をしない。

 それは、モモ達がやってた事と根は一緒なのだ。

 心底嫌悪した彼奴らと。


 変えねば。自分の出来る事だけでも。


「オマエもそこで働くつもり?」

「阿佐川の後輩は嫌ですね」


 首を横に振った後に、適当な理由を付け加える。


 車は外環道から東名へ。

 やや遠回りはしたけれど、このまま帰宅できそうだな。


「聞いていると思いますが、レオナルドに会いました」

「戻らないそうね」

「ええ」

「一体あの世界にどれだけの魅力があるんだか」

「何があるんですかね」


 幻想的な美しい風景。心踊る冒険。刺激的な体験。

 取り繕えばそんな風にも言える。

 だが、ハナの欲しいのは、彼女が納得するのはそんな答えではないだろう。


「そう言えばハナさんに伝言があります」


 渡しそびれていた預かり物を思い出す。

 丁度良い機会だ。


「No pain, no gain.」


 前を見つめる運転席の彼女へ彼女からの言葉を伝える。


「誰から?」

「向こうで会った貴女です」


 そう伝えてから三秒後。

 車は一気に加速し、体がシートに押し付けられる。


 最寄りの横浜青葉の出口があっという間に後方へ。


 ああ……伝えるタイミング、間違えた。



 そのまま車は闇の中をひた走る。

 静岡の西の端、三遠JCTから南信自動車道を北上し長野県へ。


 諏訪湖SAで夜明け前の諏訪湖を眺める。

 震える体で缶コーヒーを飲みながらどうしてこんな事になったんだろうと自分の迂闊さを呪うが時既に遅し。

 今日の外出は……厳しいかなぁ……。



第六章完

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