ダンシングドール⑦
術で体を治しながらリコに抱えられ高層ビルの屋上へ。
作戦通りクドーとキングが御曹司を連れ門の前で待っていた。
「ボロボロね」
「油断すた」
術で作った布で鼻を押さえながら答える。
「じゃ、送っちゃうよ」
「ええ」
わざわざ俺達の到着まで御曹司を送らずに待って居たらしい。
ぽいと投げ捨てる様に御曹司の体を門へと投げるキング。
御曹司の体があっという間に搔き消える。
「はい」
キングから山なりに放り投げられたロキの指輪を回収。
「これで、ミッションコンプリート。
先、帰るわね」
余韻に浸る間も無くクドーが消える。
「僕も」
次いでキング。
「俺、とょっと用事あるから」
「用事?」
「ああ。レアーの極秘任務。先、帰ってて」
そして向こうで待ってて。
と言うのは、少し馴れ馴れしいか。
「すぐ終わるなら向こうで待ってるけど?」
「すぐ終わる」
「わかった。じゃお先」
リコが手を振りながら消える。
さて、ではすぐ終わらせよう。
鼻血も止まったし。
◆
飛渡足でマーカーの元へと飛ぶ。
ミタテの六。レオナルドの元へと。
「……やあ、ライチ! ようこそ!」
突然現れた俺を警戒する事なく笑みを浮かべるレオナルド。
風が吹き込む狭い室内で両手を広げ、旧知の友を歓迎する様な仕草。
「お久しぶりです」
「私を連れ帰れと指令が出ましたか?」
「いえ。見つけたら報告と言われただけです」
「よかったデス。
丁度彼等の戦いもクライマックスです」
そう言って彼は乱れる髪を押さえながら外を示す。
その先には暗闇の中、空母の甲板で戦う二人の姿。
宙を舞うキャプテン・フリーダム・ジャステイスと、その十倍はあろうかと言う人型ロボット。
振るわれる巨大な腕の一撃を全身で受け止めるキャプテン。
俺達は上空からその戦いを見下ろして居た。
ヘリに乗って。
「今回の誘拐事件は貴方が仕組んだのですか?」
「ノー。
実行犯は、今戦っているあの男デス。
アレン・モス。
顔認証と連動させ指定の世界へ。
やった事はそんなところでしょう。
以前は私の部下でしたがまさか彼がガラファリアンだったとは」
「悪の科学者だったと言う訳ですか」
「ノー。
悪なんて無いんデス。
マイクも、モスもどちらも自分の正義をぶつけているだけデス」
「マイク? キャプテン・フリーダム・ジャステイス?」
「そう。マイケル・スティールデス。会った事あるデショウ?」
あのレアーの責任者だと言う車椅子の男性がスーパーヒーローの正体だったのか。
「マイクはゾルタクスゼイアンの一人として、モスはガラファリアンの一人として。
それぞれの正義を貫こうとしているだけなのデス」
「ゾルタクスゼイアンとか、ガラファリアンとか、一体何なのです?」
俺の問いに彼は言葉を詰まらせる。
モスと呼ばれた巨大ロボットがキャプテンを甲板の上で踏みつけにする。
だが、キャプテンはそれをゆっくりと確実に押し返して行く。
「それは、知るべきでない。言うなれば世界の闇……いや、そんな大層な物では無いですね……とてもくだらないものなのデス!」
そう、彼は作り笑いを浮かべ言い切った。
その事について、それ以上食い下がる事をやめた。
こんな言い方をされ、本当にくだらない話だったらどうしようかとそう思ったからだ。
例えば、唐揚げのレモンはどう掛けるべきかとか、そう言った答えのない争い。そんな様な。
「この世界が何か。
その答えは見つかりました?」
問いを変える。
キャプテンはモスの足を押し返し再び空へ。
「エキピロティック宇宙論と言うものを聞いたことがありマスか?」
その問に俺は首を横に振る。
「宇宙というものはより高度の次元に存在する膜のようなもので、その膜同士の衝突がビッグバンを起こすという理論デス」
ふむ。
そういう考えがあるということだけはわかった。
俺は小さく頷く。
「この場所がそれなのでしょう。
宇宙の種。無数にある世界のうち、ほんの一握りだけがインフレーションを経てビッグバンへ至る。
そういう場所に立っているデス!」
「宇宙の種……?」
「何かに似ているとおもいませんか?」
「何か?」
考えるがレオナルドの問いに対する答えは浮かばず。
「生き物デス!
互いに内に無限の世界を持ち、そして、生き物と生き物が出会い新たな宇宙が生まれる。
生命の神秘デス」
そこでレオナルドは俺から窓の外へと視線を転ずる。
「マイクの宇宙。モスの宇宙。
そのどちらかが、今消えようとしていマス」
レオナルドが耳に手を当てる。
俺もそれを倣う。
静かなローター音の中に正義の叫びが木霊する。
『ジャステイス・パーアァァァァンチィィィィッッッ!!』
キャプテンのその拳は巨大ロボットを粉砕し、空母の甲板を叩き割り、その巨大金属の塊を真っ二つに折る。
巨大な水柱が上がる。
「信じるカ、信じないカは、アナタシダイデス!」
レオナルドの決め台詞をかき消す様な爆発音と真っ赤な炎。
その中から現れる不死身の男、キャプテン・フリーダム・ジャステイス。
真っ赤な爆炎を背景に青いスーツで夜空を飛ぶ。
そして、静かに俺達のヘリへ。
「おかえり。お疲れサマ」
レオナルドが彼に労いの言葉を掛ける。
「これで、秩序は守られた。
おや、少年。ゼイアンは無事に帰ったかい?」
「無事がどうかはわかりませんが門まで送り届けました」
「そうか!」
白い歯を見せサムズアップするキャプテン。
「まだだろ?
危機が半分片付いただけデス。
早く戻ってプレジデントを守る手筈を整えたらどうデスか?」
「そちらは問題ない。
既に手は打ってある。
盾の女神が動いた」
「オー。それは大事デス」
レオナルドが顔を押さえ、天を仰ぎながら笑い声をあげる。
「そう言う訳だ。君も向こうへ戻ったらどうだ?」
「ノー。
私はまだこちらで数多の世界を調べマス。
君達の世界には興味が無い」
「こんな所で一体何を探しているのか。一体何があると言うのか」
「スーパーボウルで私のパスから君がタッチダウンを決める世界を探してマス」
笑顔で言ったレオナルドと対照的に、キャプテンは肩を竦めた。
ヘリは静かに門のある高層ビルへと向かう。




