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ダンシングドール⑥

 夏実と並んでネオン街を歩く。

 煌びやかなネオンは漢字混じりで何が書いてあるのかよくわからない。

 多分、中国語。


 人の姿は無い。

 敵も。


 目指すは通りの先に見える高層ビル。


 だが、その前に通りを塞ぐ様にバリケードが設置されて居る。


「あからさまに罠っぽいけど?」

「まあ、そうだろうけどそれにハマるのも囮の役目だし。派手に罠ごとぶち壊す」


 何も考えずに。

 ただただ暴れまわり全てを忘れたい。

 先程の慟哭シーンとか。


「相手は銃を使うけど……」

「こっちには術がある」

「動きも人並み以上」

「雷の如く動き回れる」

「頭を吹き飛ばしても倒れない」

「殺しても死なないのが俺の唯一の長所らしい」


 夏実の問いに前を見ながら返し、ふと気付く。


「弱気じゃね?」


 彼女の方へ顔を向け問う。

 らしくない。そう思ったのだ。


「確認。

 君が私より強いなら、それはそれで良い」

「は?」


 彼女は少し柔らかく笑う。

 それはこの先、戦闘民族となる者の物とは思えず。


「まあ、負けないよ。負ける気なんてこれっぽっちも無い」


 久しぶりに見た様な気がする夏実の笑顔に少し気恥ずかしさを覚え、それを誤魔化す様に前を向く。


 ネオンの煌めく細い通りはこの先で幹線道路にぶつかり丁字路になる。

 その手前に置かれたA型のバリケード。


「憎悪、怠惰、即ち影、外道

 飲み込み焼き払い

 天へ還る

 別れ身はそして一つに

 唱、陸拾壱(ろくじゅういち) 壊ノ祓(かいのはらい) 狩遊緋翔(かりゅうひしょう)


 術がそれを弾き飛ばし、その先へ飛び行く。

 それを襲う攻撃は無い。


 敵が居ないのか、術は攻撃対象ではないのか。


「先行する」


 俺の言葉にリコが頷きを返す。

 朧兎を纏い、丁字路の先へ。

 死角になる左右どちらかに敵が潜んで居る筈だ。

 敵は機械。気配というものが感じ取れない。

 だからこの目でその姿を確認するしか無い。


 一歩。

 幹線道路へと身を晒す。

 同時に左右から炸裂音。

 朧兎が迫る銃弾を宙で搦めとるが、面食らった俺は咄嗟に下がり身を隠す。


「……大丈夫?」

「ちょっと、びっくりした」


 左右、対角線上から同時射撃。

 同士討ちの可能性を秘めるそんな布陣を敷いて来るとは。


「両方に十から十五くらいだな。

 手にマシンガンの様な物を持っていた」

「囮になれる?

 その間に片方潰すわ」

「ん、了解」


 自信満々な顔をしたリコを信じ、再び朧兎と共に丁字路の先へ。


「マジカルベール・キャストオン モード・メリジェーヌ」


 炸裂音をかき消す様な夏実の声。

 左右から正確に俺を狙う銃弾を朧兎で受け止めながら走る。


「暮れない夜

 怠惰なる夢を夢と為せ

 羽落ちるその束の間

 唱、拾陸(じゅうろく) 壊ノ祓(かいのはらい) 赤千鳥(あかちどり)


 明後日の方向へ飛び行く術の鳥。

 だが、それを追いかける射線は一つとして無く。

 やはり、術は認識の外か。


「キューティー・プロミネンス!」


 通りへと躍り出たリコが右の一団へ向け、熱線を放つ。そして自らもそれに続く。


 もう片方は俺が潰そう。


 未だ銃弾の止まぬ方へ体を向ける。


「憎悪、怠惰、即ち影、外道

 飲み込み焼き払い

 天へ還る

 別れ身はそして一つに

 唱、陸拾壱(ろくじゅういち) 壊ノ祓(かいのはらい) 狩遊緋翔(かりゅうひしょう)

 つい


 上方へ放った火龍を機械人形の集団の上で方向転換。

 そのまま天より一団を喰らい火柱となる。



 亟禱きとう 終姫(ついひめ)

 祓濤(ばっとう) 金色猫


 銃声の弱まった束の間、偽御曹司をその場に投げ捨て一団へ。

 炎から逃れた一体の首をすれ違い様に刎ねる。

 術で完全に溶解し動きを止めたのが数体。

 表皮が溶け、黒い外骨格を露わにしつつ動くのが数体。

 そして難を逃れたのがそれらの倍以上。


 亟禱きとう 鳳仙華(ほうせんか)


 背後の死角へ爆破の術を放ちながら目の前で銃口を向ける一体の顔面へ刀を突き立てる。

 そのままそいつを踏み台にして跳躍。

 その奥の一体を袈裟斬りにしながら着地。

 そこへ襲い来る銃弾。

 引き金を引いたのは最初に頭を刎ね飛ばした個体。

 その狙いは違わず俺を捉える。

 その銃弾は朧兎が受け止めるのに任せ、爆破の術でそいつを吹き飛ばす。


 再度、跳躍。

 銃口が、射線が正確に俺を追って来る。


 ……違和感。


 機械人形の首が、俺を追って居ない。

 そんな個体が幾つか。

 ただ、銃口だけは俺に向く。

 その光景から一つの可能性を導き出す。

 こいつらはリンクしている。

 視界もしくはそれに近い物を。

 ならば、十数の個体と考えるよりまとめて一つの個体とみなした方が良い。

 天翔で一度空へ。

 大技でまとめて潰してしまおう。


「忘却に風は歌う

 待つ影

 一つ、二つ

 我が水の女神と共に

 唱、弐拾陸(にじゅうろく) 壊ノ祓(かいのはらい) 雨百景・零式(れいしき)


 光の矢が冷気を纏い氷の矢となり降り注ぐ。

 機械人間へと突き刺さり、貫き、地に繋ぎ止め、凍結する。


「憎悪、怠惰、即ち影、外道

 飲み込み焼き払い

 天へ還る

 別れ身はそして一つに

 唱、陸拾壱(ろくじゅういち) 壊ノ祓(かいのはらい) 狩遊緋翔(かりゅうひしょう)

 つい


 追って放たれた二匹の竜が身動きの取れぬ機械人間を熱し、溶かす。

 一拍おいて、自身もそれに続く。

 熱で溶けたアスファルトに身を沈ませながら尚も動く機械人間を金色猫で刈り取る。


 そうやって、全ての機械人間をスクラップに変え、もう一つの戦場へ目を向ける。


 あちらも終わったか。


 機械人間の残骸の山の上で変身を解くリコ。


「黒猫 添いて歩き

 落ちて戻る

 思いは血を越え飛び行く

 唱、伍拾伍(ごじゅうご) 命ノ祝(めいのはふり) 赤根点(あかねさし)


 何箇所か撃たれた傷を癒しながら彼女の方へ。


 戦いはそれで終わりでは無かった。


「ボス、かしら」

「そんな感じだろうね」


 丁字路の真ん中で合流した俺たちの前に、ビルの中から出てきた機械人間が二体。

 今までの物と明らかに違う雰囲気を醸し出すその二体は宙に浮き、寄り添う様にしながらこちらへと近づいて来る。


 片方は白髪の少年。

 片方は黒髪の少女。

 まるで対の様な二体。


「ムカつくくらいイケメンだなぁ」


 まるで作り物の様な顔。

 いや、作り物か。


「羨ましいくらいメイクが映えてるわ」


 陶磁器の様に真っ白な肌。

 少女の方は真っ赤な口紅を引いている。


「……リコの方が可愛いよ」

「……目ぇ腐ってるんじゃ無い?」

「かもね」


 大分頑張って絞り出した台詞なんだけどな……。

 いや、しかしいくら非の打ち所がない様な美人であろうと人工的な人形の様な顔よりも夏実の笑顔の方が何倍も……。


 そんな事を言ってる場合じゃ無いな。


「銃は持って無いのね」

「体の中に仕込んでる可能性もある」


 最初に戦った奴がそうだった。


「兄妹かしら」

「……いや、夫婦だろう」

「は?」

「干将・莫耶。

 陰陽を成す対となる剣。

 元は作った夫婦の名前」

「あの二人がそう言う名前なの?」

「何となくそう思っただけ」

「ふーん。

 剣か……」

「気合い入ってる所悪いけど、真っ向から戦うつもりは無いよ?」

「え?」

「ああ言うのは身も蓋もなく潰すに限る」


 相手の土俵で戦う必要は無い。

 まあ、相手の土俵もまだわからないけれど。

 対になっているなら引き剥がしましょうかね。

 横並びで悠然と向かい来る二体の機械人間。

 その一体に狙いを絞る。


「剣立て重石と成す

 深く、高く

 羽音 舞うは白羽根

 唱、弐拾肆(にじゅうし) 鎮ノ祓(しずめのはらい) 封尖柱(ほうせんちゅう)

「……ズルくない?」

「そうやって偉そうな事を言えるのは、生き残ってから」


 言いながら試作品を構え、一歩前へ。

 分断されるや否や、速度を上げこちらに滑る様に迫る干将。


し縛る者

 連なるは人為らざる者の声

 縄と成りて足手を縛る

 唱、弐拾玖(にじゅうく) 鎮ノ祓(しずめのはらい) 縛鎖連綿(ばくされんめん)


 そいつを術で拘束。

 だが、地より伸びた鎖は干将の体に絡みつく前に全てを切断された。

 彼の両手首から伸びる刃物によって。

 目論見を外し、間合いを詰められる。

 左下から掬い上げる様に振るわれる左腕。

 その突端から飛び出た刃に試作品を合わせ受け止める。

 だが、相手の左腕は、人が本来曲がるはずの無い方向へと関節を曲げ守りの剣をすり抜け俺の胴へと迫る。


 亟禱きとう 飛渡足(ひわたり)


 咄嗟に打った逃げの一手。

 僅かに三メートル程後方へ下がったのみ。

 だが、命は残った。


「マジカルベール・キャストオン モード・レオパール コネクト バトン・フレーム!

 援護、ヨロシク!」


 俺の前で猫耳の魔法少女へと変身したリコが干将へと飛びかかる。

 両腕の横に、細長い飛翔体を従わせ。

 向かい来るリコを迎え入れるように動く二本の刃。

 とっさに爆破の術を放ちかけた俺は滑るように動き刃を牽制する飛翔体の動きを見てそれを止める。

 飛翔体が干将の刃を受け止め、右拳が干将の顔面を捉える。

 なんだ? あれ。遠隔操作か?

 さながら自在に動き回る二本の腕。

 足による動きに加え、両腕、そして、攻防の両方をこなす飛翔体の四点による流れるような連続攻撃。

 人の動きを外れた機械人形を翻弄していくリコ。

 傍から見ていると干将の変態チックな動きがよく分かる。

 三百六十度近い可動域を持つ関節。焦りを見せぬ表情。左右別に動く瞳。

 人の姿と言う自分の認識を嘲笑うようなその動き、そして、一度見ただけでそれに対処していくリコ。


 リコの初撃でその顔を大きく陥没させたとは言え、相変わらずのイケメンがリコに迫る。

 対するリコは、華麗な体捌きで剣戟を躱す。

 身を反らせ、距離を置き、拳を当て、飛翔体で捌き、時にはその飛翔体を踏み台にし。


 二者の動きを見ながら割って入る隙を待つ。


「風止まる静寂

 溢れる鬼灯

 涙は涸れ、怨嗟は廻る

 唱、(はち) 現ノ呪(うつつのまじない) 首凪姫(くびなぎひめ)

 祓濤(ばっとう) 蒼三日月」


 リコのアッパーカットが干将の顎部を捉える。


 亟禱きとう 月呼(つきよび)


 跳ね上がった干将の体に、ほんの少し、引力を。

 浮き上がり、機械の計算より僅かに座標が狂ったのだろう。

 リコを捉えることが出来ず空を切る両腕。

 その背後から蒼三日月を一閃。

 首を一息に刎ね、返す刀を腰椎深くへと差し込む。


「離れろ」


 動きを止めた人形へ怒りを吐き捨てる。

 近づきすぎだ。


 崩れ落ちる機械人形の向こうでキョトンとした夏実の顔。


 ……俺、何言った?


 すぐにリコから目を逸らし、残る一体、莫耶の封された方柱(オベリスク)へ。


 助走をつけながら方柱(オベリスク)へ刀を伸ばす。

 そして、刃先が方柱(オベリスク)へと突き刺さる寸前。


「壊」


 崩壊する結界。

 その奥から現れる莫耶へ刃を突き立てる。

 完全に不意をついた一撃。

 蒼三日月の刃は浮遊する莫耶の腹部を貫く。

 莫耶はまるでそれを受け入れる様に両手を広げ、剣が刺さるのを厭わずに前に。

 効いていない。

 次の手を。

 内で術を唱える。

 だが、それを放つより早くにじり寄った莫耶の体が俺に接触。

 具体的には、胸が。

 顔に。

 顔が、胸の間に挟まれる様に。

 兵器とは思えぬ程の柔らかな感触。

 その瞬間、背筋に恐怖に似た悪寒が走る。


 亟禱きとう 鳳仙華(ほうせんか)


 術が二者の間の僅かな隙間、俺のすぐ胸先で炸裂する。

 衝撃は俺の首に手を回そうとした莫耶を引き剥がし、自身の体を地面に叩きつける。


 全身がバラバラになる様な痛み。息をする事すらままならず。

 逃げて、体勢を直さねば。

 だが、それより早く両の肩口に激痛。

 俺にのし掛かり、押さえつける様に置かれた莫耶の両手。

 その掌から細く鋭利な物が飛び出し体を地に縫い付ける。

 俺の目と鼻の先で、真っ赤な唇が怪しく釣り上がる。

 そして、頬まで裂け口内から舌の代わりに現れる銃口。


 あ、ヤベェ。


 逃げねば。飛渡足で。残しておきたかったが。

 そう思った直後、顔面に激痛が走り莫耶の顔が消失した。


 リコが放った鋭い蹴りは、莫耶の頭を本体から捥ぎ取り彼方へと弾き飛ばした。その際、つま先が俺の鼻を掠め鼻血が流れているとか些細な事。


「死ね」


 と冷たく呟いたのは、俺に向けてでなく動きを止めた莫耶に向けた物だろう。

 ……そうだよね?


 寝転んだまま呆然と見上げた空で、クドーの放ったであろう閃光弾が炸裂した。

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