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ダンシングドール②

 同じビルの八階、専用スペースのあるフロアへマイケル氏を除く五人で下りる。


「どうしたの?」


 大里がグロッキーな夏実の事を俺に尋ねる。

 その夏実は俯いたままエレベーターの壁に寄りかかる。


「町田からここまでカーチェイスをしてきた結果。大里はどうやって来たの?」

「僕はここに居たんだよ。遅めの朝飯を食ってた」

「なるほど」


 部長は?

 それを尋ねる前にエレベーターが停止した。


 エレベーターから降り、各自のスペースへと散って行く四人。

 何故か俺の背後にハナ。


 スペースに入る手前でハナが俺に顔を近づける。


「全員生き残らせろ。

 無理ならターゲットは捨てて構わない」


 吐息が耳たぶにかかるほどの距離で小声で囁く。

 再び顔を離したハナは涼しい顔で去って行った。

 それは、捨ててこいと言う事か……?

 いや、まさか。疑ぐり過ぎだ。

 荷物を置き、専用スペース中央の椅子に腰掛ける。


『Welcome back! Lychee!』


 椅子の中から女の声。


『Are you ready?』

「Yes」

『Have a good trip!』


 旅、じゃ無くてもはや仕事に近いよな。

 全身を違和感に包まれながらそんな風に思う。


 ◆


 視界が切り替わる。

 ……暗い室内。

 そして、俺より先に転移したクドーと、キング、リコの姿。


 クドーが咄嗟に身を引きながら銃を俺に向ける。

 その横で大里が半身になり何か武器を構える仕草。

 一拍遅れ、リコがそれに続く。


「は?」


 転移するなり三人から攻撃態勢を取られるという謎の状況。

 リコはともかくクドーとキングは俺の姿を知っている筈なのに。


 まさか……嵌められた…………のか?



 亟禱きとう 水鏡


 朧兎を呼び出しながら半歩下がり、剣に手をかける。

 掴んだ剣の柄に……違和感。……試作品で無く、真珠切か。

 その誤算に内心舌打ちする。

 試作品ならば霧を発生させ目くらましをする事も出来たろうに。


 他の手は……?

 そもそも今の状況は何だ?


 何故、三人は俺に武器を向ける?


 イジメ?

 俺、何かした?


「……名前は?」


 大里が俺に問う。

 何故そんな事を?

 目の前の大里は俺の知る大里では無いのか?


「……ライチ」


 だが、朧兎の向こうで歪む彼の顔は見覚えのあるキングの物。


「僕の知るライチは、女の子じゃ無いんだけれど」


 …………おおぅ…………。


「…………させん」


 ……そもそも真珠切を腰に下げてる時点で気付くべきだった。


 ああ……俺の人生、終わったな。

 これからずっと後ろ指を指される人生なのだ。

 きっと。

 トンファーを構える夏実の視線が痛い。

 いや、痛いのは俺か。

 混濁した思考のままそっとロキの指輪を外す。


「良い趣味ね」


 元に戻った俺の姿を一瞥し、部長が銃口を下げながら嫌味を言う。

 大里が構えを解き背を伸ばす。

 一拍遅れ、夏実も構えを解く。ジト目のままで。


「では、全員揃ったところで……まずは作戦会議ね」


 クドー隊長の言葉に三人が頷きを返す。


「ここは、ホテルの一室。見たところスイートか、ロイヤルスイートといったところかしら」


 優雅に、わざとらしく両手を広げながらクドーが言う。

 室内は、高級そうな調度品と大きなサイズのベッド。


「そして、ターゲットは……泥酔中」


 溜息と共にクドーが吐き捨てる。

 そのベッドの上で、バスローブを羽織ったゼイアン氏が高いびきをかいている。

 床に酒瓶を転がしながら。

 一度、言葉を切り窓の外に視線を転ずる。

 その先に広がるのは夜空と高層ビル。

 おでこにズラして居たゴーグルを嵌め、窓の外の光を確認し直ぐに俺達の方を振り返る。


「ミサイル!」


 光を放つ飛翔体一つ。

 咄嗟に俺はしゃがみ込み床に手を着く。


「ノープロブレム!」


 術で床をぶち抜こうとした俺の横に現れた人物。

 上から落ちて来た声を仰ぎ見る。


 その人物は悠然と窓へと歩いて行く。


「貴方は?」


 すれ違いざまにクドーが問いかける。

 マントをなびかせながらパンプアップさせ、はち切れんばかりの右拳を振りかぶり、一気にガラスに打ち付ける。

 真っ白に変色するガラス。

 直後、粉々に砕け散り室内へ風が吹き荒れる。

 背のマントをなびかせながら全身タイツのその男が振り返り、顔の横でサムズアップ。


「キャプテン・フリーダム・ジャステイス!」


 白い歯を見せながら、会心の名乗り。

 キラキラしてる……!

 そして、今しがた自分がぶち抜いた窓から外へと身を翻し飛び降りた。否、飛んだ!

 こちらへ向かいくるミサイルに向け。

 そして、空中でそのミサイルにしがみつく。

 ミサイルが、その進行方向を上へと転ずる。


 思わず窓際へと駆け寄る俺と大里。

 ミサイルはその方向を完全に反転させ来た方向へと戻る。

 それを成したのはその胴体へとしがみつくキャプテン・フリーダム・ジャステイス!


「「キャプテーーーーン!!」」


 俺と大里の叫び。

 だがそれは直後の爆発音にかき消された。

 一瞬にして昼夜が入れ替わった様な閃光が世界を染め、振動がビルを震わせる。

 他のミサイルへも誘爆したのだろうか。

 爆発音は幾重にも重なり、その度に世界が光に包まれる。

 俺と大里は風が吹き曝す窓際でその光景を呆然と眺めていた。





 ── to be continued...





「……早くこっち来なさい」


 ドラマチックな世界に浸る俺と大里の背後から部長の冷めた声が突き刺さる。


 ヒーローの死だぞ?

 いきなりのクライマックスだぞ!?


 全く。

 これだからロマンがわからぬ輩は。


 まあ、そんな文句もジト目の女性二人には言えない訳で。

 肩をすくめながら彼女達の近くへ。


「さて、作戦会議再開ね」


 今、尊い犠牲を払い惨禍から逃れたばかりだと思えぬ程に静かな口調でクドーが言う。


 あの人、キャプテン・フリーダム・ジャステイスこそマイケル氏の言ってた助っ人だろう。

 その正体は押しも押されもせぬランクS。俺みたいな成り立てとは違う。最初からランクSだった男。二つ名は「無敵のヒーロー」。安直だけれどそれ以上に彼を表す言葉は無いと、皆口にする。

 漢らしいエピソードは枚挙に遑がない。

 密かに会いたいと思っていた人なのだ。

 転移するなりミサイルへ向け飛び出すなんて、相当な場数を踏まないと出来ない判断だと思う。二つ名は伊達では無い。あれくらいで死ぬはずは無いだろうから再会したらサインもらおう。


「逃げなくて良いんですか?」


 夏実の疑問は当然だろう。

 いつ次の攻撃が来るかわからない。

 そんな状況だ。のんびりと作戦会議している場合では無い。

 だが、そんな状況だからこそ落ち着く必要もある。

 ここで追撃が来ようものならばキャプテンの立つ瀬が無い。そんな事、あって良い訳ないのである。


「あぶり出された鼠を網を張って待っていてもおかしくは無い。

 落ち着きましょう。

 今必要なのは、あらゆる可能性を列挙して最善を探ること」


 部長が大里に視線を向ける。


「門の位置は?」

「ちょっと離れてるかな。……ここからだと大雑把な方角くらいしかわからない。

 ちょうどキャプテンが飛んで行った方向」


 大里が部長の問に答え、窓の外を指差す。

 その先で立ち上る黒煙が炎で赤く染まる。


「そう……。

 ……全員で様子を探りながら動くには大きな荷物が一つ」


 大きな荷物とは床に転がるゼイアン氏。

 これだけの騒ぎでも起きない。


 一瞬、考えるように顎に手を当て、そのままその右手をゼイアン氏へ向ける。

 シュっと小さく空気を裂く音。

 クドーの手に握られた銃。一瞬ピクリと動いたものの相変わらず寝息を立てているゼイアン氏。


「何をした?」

「麻酔で眠らせた。

 騒がれるとウザいから」


 手の中の短銃を俺達に見せつけるように顔の横に構えるクドー。


「一発でおよそ、八時間。

 これで、十六時間」


 言いながら引き金を引くクドー。

 ゼイアン氏の体が衝撃で僅かに動く。


「二十四時間」


 三発目。


「……やりすぎじゃないですか?」

「敵に囲まれた状況でひよっ子が暴れたら厄介。

 それとも貴方、面倒見る?」


 そう問われ、首を横に振る。

 そう言えば、相手が日本語を理解するか怪しいのでコミュニケーションを取るのもままならなそうだ。つまり、大人しく夢の中に居てもらうが正解か。


「ところで……この人誰なんですか?」


 クドーに向けたリコの問いかけ。

 三人の視線がクドーに集まる。

 勿体つけるようにクドーは間を置き、そして、ゆっくりと視線を外す。


「……知らない」

「「「…………は?」」」


 三人同時に間抜けな声が上がる。


「逆に聞きたい。ゾルタクス財団って何よ!?」

「え、だって部長、あの場で……」

「……空気に耐えれなかった」

「いや……」


 床の上で微動だにしない謎の御曹司を見つめる。


「で、その御曹司、命を狙われている。

 そう考えたほうが良さそうね」

「……でしょうね」


 俺達が救出に来た瞬間をまとめて狙ってきた。

 状況的にそう考えたほうが良いだろう。

 無防備な寝顔を晒す御曹司を殺すだけならば、既に殺していても良かったのだ。

 おそらくは、俺達を犯人に仕立て上げるためでは無いだろうか。

 御曹司が死に、俺達が戻れば俺達が御曹司を殺害した可能性が残る。

 どれだけ真摯に否定しようが、小さなシミは消せない。

 そういうことを狙ったのだろう。

 標的は俺達、いや、レアーか?

 キャプテンのお陰でひとまずは難を逃れたが。


「どうあれ、やることは変わらない。

 この荷物を抱え帰る。不確かな戦力は当てにしない。

 まずは……偵察ね。

 周囲の状況を確認してくる。可能ならば門の位置の特定まで。

 キング、姿は隠せるわね」

「はい。でもどうしてそれを?」

「二人の能力は共有されている」


 クドーがキングとリコを見ながら言う。

 彼らの行動を監視していたと言うのだから能力は把握しているのだろう。

 俺は前に一度会っているし。


「リコとライチはここで荷物番」

「え?

 全員で行った方が良くないですか?」


 そう、リコが疑問を口にする。


「万が一戦いになったときのことを考え、荷物を抱えての行動は最小限にしたい。

 戦いに長けた二人が残るほうが荷物を守れる確率が高いだろうと言う判断。

 別行動中はライチの指揮に従いなさい」

「どうしてですか?」

「単純に、ランクの上下。

 ライチ、荷物含め判断は任せるわ」

「了解。別の部屋へ移動します」

「三時間を目安に戻る」

「了解。三時間待っても来なければホテルからチェックアウトします」


 俺の言葉にクドーは頷きを返した後に背を向ける。

 そして、開け放たれた窓へと向かう姿が夜空へと消えていく。

 それに続くキングも。

 光学迷彩的な物だろうか。装備か、それとも個人の能力か。

 室内から完全に二人の気配が消える。

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