表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/308

取調べ

 翌日。

 始業ギリギリで、教室に飛び込んで来た夏実は今年に入って初めての薄化粧で真っ赤な目をしていた。


 部長の居ない部室で一人昼飯を食い、そして放課後。

 唯一全員が部室で顔を合わせる週明けの一日。

 て言うかさ、全員同じクラスなんだけどな。


 そんな事を考えながら部室で読みかけの文庫本を開く。


 物語は佳境に入った。最後のディールの行方はどうなるのだろう。


 部室のドアが開く。

 夏実が硬い顔で、無言で部室に入って来る。

 そして俺の向かいに腰を下ろす。


 スマホが震えた。


 ────────────────


 大里優耶>今日は部活休むよ


 ────────────────


 あっそ。

 教室で言えば良いのに。

 そう思いながらスマホを置く。

 そして、文庫本の続きを。


「御楯君」

「はい?」


 夏実が改まって名を呼ぶ。

 しかし、君、か。

 随分と他人行儀に感じる。……まあ、他人か。


「この画像、何なの?」


 夏実が自分のスマホの画面を俺に向ける。

 そこには一本のマフラーを二人で巻いた馬鹿な男女の自撮り画像。

 俺が夏実からマフラーを貰った時に鶴川駅前の公園で撮った画像。

 カラオケ屋で『気持ち悪い』と切り捨てられた画像。


「何って……」


 何と答えたら良いものか……。


「嫌なら……消せば?」

「……そう言うことを聞きたいんじゃないの!

 何かを聞いてるの。

 ちゃんと聞きたいの!

 君から!」


 夏実にそう言われ、文庫本を閉じながら何と返すべきか考える。

 どうやって説明する?

『君は俺を助けに来て、俺を好きだった事を忘れたんだよ』。

 信じるか?

 信じる訳無い。


「気持ち悪いんだろ? 消しなよ」


 彼女から目を背け、文庫本の表紙を見つめながら答える。


「気持ち悪いよ!

 だって自分の知らない自分の画像があるんだよ!?

 だったら、知りたいと思うじゃん!

 私が、何を忘れたのか!

 私が忘れたのは、何なのかを!」


 声を荒げる夏実に、俺は自分の勘違いを思い知らされる。

 スマホの端末は自分のパーソナルな領域。そこに知らぬデータが存在する事は恐怖に近い。そう言う事だったか。

 だが、新たな疑問。

 どうして忘れたと言う結論に至ったのだろう?

 それに、正解にたどり着いたとしても忘れているというその事実は変わらない。


「その画像は俺じゃ無いよ。

 俺は夏実さんとそんなに仲良くないだろ?」


 そういう事にしておいた方が良い。

 そうすれば、これ以上誰も傷つかない。

 それに……瀬織津比売の言葉もある。


「だったら、親しくないのならどうして私が下りる駅を知ってるの?

 まるで、何度もそうした様に。あんなに自然に」

「……あ!」


 昨日の帰り。接し方に違和感が出たのか。

 いや、家を知っている事、それ自体はおかしく無い。風巻さんとは知り合いなのだから。


「どうして嘘をつくの?

 何かやましい事でもあるの?

 ねえ!

 私を見てよ!」


 文庫本の表紙から目を上げ、少し充血した夏実の目を見つめ返す。


「御楯君。

 私は君を助けに行った。

 でも、その事と君の事を覚えていない。

 そうでしょ?」


 そうなのだけれど。

 どうしてその結論に辿り着いた?

 風果か?

 いや、風果ならこんな感情を荒立てる様な伝え方はしないだろう。

 ならば、憶測か?


「それは全部夏実さんの勘違いだと思う」

「嘘つき!」

「嘘じゃないよ」

「言質はとったの!」


 それこそ嘘だろう。

 ショニン以外は大抵口止めをした。

 他に事情を知る者はいない。


「誰に?」

「白雪」


 俺は思わず眉間を抑える。

 完全に盲点だった。

 夏実の側に居て、全てを見ていた存在。あいつ、やっぱり喋るのか……。


 いやだが、夏実が記憶に違和感を覚えたのは昨日の帰りの電車だろ?


「昨日、聞いてきた。

 帰って来たのは今朝」


 俺は静かに両手を上げ降参のポーズを取る。


「参りました。

 夏実さんの結論は正しい」


 夏実が白雪に聞いてきたというならそれにはもう反論の余地はない。

 白雪の言っている事がおかしいと騒ぎ立てる事はあの世界の出来事を、存在を否定するに近い。


「何で隠したの?」

「上手く説明できる気がしなかったから。

 今の夏実さんに最初に会ったのがカラオケ屋だよ。12月の」

「あ、あー、そうか」

「……ありがとう」

「は?」

「君に助けられた事のお礼をまだちゃんと言ってなかったから」

「や……全然覚えがないのに、困るな」


 彼女が、少し眉根を寄せる。


「そう言う事になると思ったから、言わない方が良いと思ったんだ」

「ふーん。

 わかった。

 でも、知った以上、質問に答えて」

「ああ」

「黙秘権はありません」

「えー」

「うるさい」

「はい」

「キスした?」


 いきなりの豪速球な質問を、ただの事実確認の様に淡々と無表情でぶつけて来る夏実。

 だが、表情とは裏腹に真っ赤になった耳。

 それを見て自分の顔も熱くなるのを自覚し、文庫本の表紙に目を落としながら小さく頷きを返す。


「……付き合って……た?」


 一拍おいてから重ねられた質問。

 それに俯いたまま首を横に振る。


「……何で?」


 は?

 予想外の疑問を返され思わず顔をあげる。

 少し困った表情を浮かべる夏実。


「何……が?」


 ゆっくりと、質問を返す。

 何に対する疑問だ?

 え? 逆に何で付き合ってると思ってたの?

 混乱する俺。


「順番……」


 ん?


「順番、おかしくない?」

「え? 順番?」


 何の事?

 意図が汲取れぬ俺に、夏実が口をへの字にしながら、恥ずかしそうにカタコトで言う。


「付き合う。キスする。ワカル。

 キスする。付き合ってない。……ワカラナイ」

「……ああ! あー……はい」


 そう言う順番か。


「えっと……何と言うか緊急避難的な事態であって、いわゆるその、人工呼吸的な類の行為であり、その……」


 そんな風にしどろもどろになりながら弁解。


「人工呼吸……?」

「そ、そう」

「ふーん」


 なおもジト目の夏実。


「納得……した?」


 俺の問いに首を傾げる様に曖昧に頷く夏実。


「…………それ……だけ?」

「え?」

「したのは、それだけ!?」

「それだけって……」


 他に何かしたか?


 ……抱きしめた。


 ……言えない。


 言い淀んでしまったまま、その次の言葉が出てこない。

 緊張なのか何なのか、さっきから脈が早い。

 救いを求める様に部室の中を視線を彷徨わせるが当然部長も、大里もいない訳で。


 俯いてしまった夏実の頭を見て、文庫本の表紙を見て、また夏実を見て。

 そうやって、いつ終わるとも知れない時間が流れる。


「……帰る!」


 夏実が、そう一言言って立ち上がる。


「続きは、また今度!」


 乱暴にカバンを掴み、夏実が部室から出て行く。


 続きって……何だよ……。


 帰り道、帰る方向は同じ。

 途中で鉢合わせなんて気まずい事この上ない。


 時間潰しの為に文庫本を開き続きを読み進める。

 けれど、内容は全然頭に入らなかった。



さーて、今週のアンコさんは。


夏実です。

それだけだよね!?と言う念押しに黙秘権を使われました。

え、ちょ、そこで黙られるとマジ困る。

付き合ってもない相手と何をしたんだ!?私は!?何をしたのよ!!?私!!


『リンコをカラオケに連れ出し「どう言う事だよ!!」と内なる叫びを歌声に乗せ吠える』

『家でベッドに横になるもモニョったまま寝付けない』

『翌日ジムでひたすらサンドバッグに怒りをぶつける雄々しい姿に、興奮した会長がリングネームを連呼するが、そのリングネームが正しいかどうかすら確信が持ててないので「黙れ」とばかりに会長を一発KOする』


の三本です!


明日もまた、見てくださいね。

じゃんけんポン!


負けた貴方は、ポイント評価を入れる事!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on 新作もよろしくお願いします。
サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
https://ncode.syosetu.com/n3012fy/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ