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蟻地獄②

 帰路、数匹の蟻を退治しながら基地へと戻る。

 直ぐに、鼻をくすぐるスパイスの匂い。


「お!」

「やった!」


 シバとクラインの顔が急に明るくなる。

 それは、まるで子供の様に。

 すげぇな。

 カレーの匂いって。


 ◆


 食堂の様な所。

 ここに居る全員が一堂に会しての食事。

 俺を入れて十七人。

 男は……俺を入れて六人。女性の方が多いのだが、皆顔に英気が無い。疲れがありありと見える。


 食事の前にモモが立ち上がり、全員を見回す。


「皆んな、新しい仲間のエルだ。頼れる剣士。ここを出る日も近い。

 さあ、食べよう」


 そう、静かに俺を紹介。探る様な視線が俺に向けられる。

 頭を一つ下げ着席。

 向かいでクラインが嬉しそうな顔をする。


 夕食は水っぽいカレー。

 そして、パン。


「不味いだろ」


 そう言いながら男が隣に座る。


「いえ」


 言う通り、薄味で決して美味くは無いのだが、はいと言う訳にも言えず曖昧に答える。


「これでも、豪華な方なんだがな。

 俺はダンゴだ。よろしくな」

「御飯はいつもダンゴさんが作ってるんだ」


 そう、クラインが解説してくれる。


「まあ、大したもんは作れないがな」

「あのー、素材って、どうしてるんですか?」


 目の前のスープは薄味だが、確かにカレーの味がする。確か、カレーは沢山の種類の香辛料が必要だった筈。


「食い物は、瓦礫の中から拾って来る」

「瓦礫の中から?」

「そう。

 まるで毎日誰かが隠している様に落ちている。

 それを彼女らが見つけて来るんだ」


 ダンゴは視線を女性七人が囲むテーブルに向ける。


「彼女達と俺とマシラは、いわば後方支援だな」


 そう言ってから再び視線を別のテーブルへ。

 モモとシバ、マシラ。カグラと女性二人が居る。


「あっちは戦闘班。

 お前もアイツラと行動だろうな。明日から」


 そして、視線を目の前の二人に向ける。


「クラインとチュンは……まあ、雑用かな」

「ひどーい!」

「俺も頑張って戦闘班に入りますよ!」


 クラインと、その横に座った女の子が笑いながら抗議の声を上げる。

 後方支援と言われた女性グループのテーブルが七人。

 戦闘班のテーブルが六人。

 そして、このテーブルには四人。

 合計、十七人。


 確かモモは十九人居ると言っていた。

 俺を含めると二十人。


「これで全部ですか?」


 ダンゴに問いかける。


「いや。

 屋上に見張りが一人。

 フェザントって奴だ。

 それと、ここじゃない前線の基地に二人。

 キンコとくまってのが居る。

 そっちは明日会えると思う」


 それで合計二十人か。


 ◆


 俺の寝床。

 そう言われたのは粗末なベッドが一つ置かれ、カーテンでクラインと仕切られた教室の一角。

 黒板から一番遠い窓際。

 何時もの席だな。

 内心苦笑いを浮かべながら、パイプベッドに腰を下ろす。

 金属の軋む音。

 窓の外は明かり一つ無い。

 そして、室内も。

 蟻が寄ってくるから明かりは点けるなときつく言われた。

 なら、いっそ夜も狩りに行けばいいのに。

 そう思うのだが、全員が夜目が効き問題なく行動できるとも思えない。

 まあ、少し様子を見よう。

 埃っぽく、汗臭いベッドから腰を上げる。


 ◆


 屋上へ上がり、夜風に吹かれる。

 空には星が瞬いているが、知っている星座は見つけられない。


 穴の空いた給水タンクの上から俺を見つめるフェザントに小さく会釈。

 彼は休むこと無くずっと周囲の監視をしているらしい。

 敵、或いは新たな転移者を見張るために。

 ひょっとしたら脱走者の監視も行っているのかもしれない。


 三階建の建物の屋上から、僅かな星明りに照らされた世界を観察する。

 明かりらしい明かりは唯一つ。

 他の二人が居ると言う前線基地。


 まるで、誘蛾灯だな。

 いや、敢えて明かりを点けているのだから実際そうなのかもしれない。

 明日聞いてみよう。

 会いに行くと言う話だから。


 現実よりは暖かい夜風に吹かれながら、屋上に腰を下ろす。

 室内に居るより、ここの方が安全で気が楽。そう思えた。

 万が一、襲撃があろうものならばいち早く行動できる。

 まあ、モモ達の言葉を信じるならばフェザントがそれを察知するので安全だと言う話だけれど。


 しばらく瞑想し、内にある魔力マナを高めていく。

 蟻と戦えど、止めを差し切っていないので戦いで魔力を十分に補給できているとは言い難い。

 他の面子も同じような感じだろう。

 だから、食事が必要なのだ。

 まあ、リラクゼーションの意味もあるのだろうけれど。


 人の気配を感じ、目を開ける。

 屋上へ上がってきたのはモモだった。


「何してるの?」

「ベッドが汗臭くて眠れないんですよ」

「あー。そうか。

 でも、まあベッドがあるだけマシなんだよなぁ」


 そう言いながら彼は手にしていた小箱から煙草を一本取り出し咥える。


「要る?」


 その問いに、俺は首を横に振って答える。


「あっちでもこっちでも肩身が狭い」


 肩を竦めながらそう言って、ライターで火を点ける。

 そして、ゆっくりと煙を吐き出す。


「長いんですか? ここに来て」

「あー……まあな。

 どれくらい経っただろうか……」


 屋上の手すりに寄りかかりながら彼は明確な返答を避けた。


「シバが言ってたよ。エルは強いって。

 期待してる」


 そう言って、煙草を消して彼は去って行った。



 結局、朝まで部屋には戻らず屋上で過ごす。


 朝日が荒廃した世界を暗闇から浮かび上がらせる中、屋上にカグヤがやって来る。


「オマエ、強いんだって?」

「まあ、自分ではそう思ってます」


 夜通しの瞑想で凝った体をストレッチで解き解しながら答える。

 それと同時に彼女の手刀が真っ直ぐに俺の顔に伸びてくる。

 見え見えのその攻撃を、左手で払い落とすと、カグヤの顔に僅かに驚きが走る。

 それなりに自信のある攻撃だったのだろう。


「ここから連れ出して」


 拳を引き、俺に顔を近づけながら小声で言う。


「皆で脱出するのでは?」

「そんなの、何時になるかわからない。

 ……私は生きて帰りたい。直ぐに」


 睨むようにそう行って彼女は去っていった。


 それから暫くして、クラインが俺を呼びに来る。

 朝食が出来た、と。

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