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二月上旬

 転移と同時に周囲の様子を確認。

 少しひんやりとした風を感じる洞窟。

 岩肌に埋もれた宝石が微かな光を放つ幻想的な光景。


 周囲に他の気配がない事を確認し、膝をつき地に手をかざす。


「穿ち 堕ちる

 そのはてで待つ幾年いくとせ

 やがて芽吹く終焉

 唱、肆拾肆(しじゅうし) 鎮ノ祓(しずめのはらい) 奥月ノ穴(おくつきのあな)


 手の下の地面が小さくえぐれ、深さ50センチほどの穴が開く。

 そこへ、御識札を入る。


「……封隠ふういん


 穴が、埋まり元通りの地面に。

 これで、良し。


 ……背後に気配。

 足音も殺気も全て隠している。手練だ。

 俺が相手の存在に気付いた事を悟られぬ様に気を配りながらそっと腰の得物に手を伸ばす。


「Freeze.」


 静かな声の警告。


 それと同時に振り返り抜刀。

 俺の剣が、相手の喉元へと刃を伸ばす。

 同時に展開される水の盾が銃口から吐き出された鉛の弾を俺の眼前で受け止める。


 俺が喉元へ刀を突きつけ、俺の眉間に銃口をかざす相手。

 その顔は知り合いのそれ。


「……ハナさん」


 戦闘態勢を解き刀を下げる。

 しかし、相手の銃口は俺に向いたまま。

 俺は迂闊に刀を下げた事を悔やむ。

 部下を始末しに来たと言う訳か。

 しかし、再び刀を振るう前に銃弾は俺を捉えるだろう。


 ならば、残るは逃げの一手。

 しかし、ここで逃げても現実で追われる事になるのか?


 ならいっそ……。


 思考を巡らす俺にハナが問いかける。


「Japanese?」


 英語?

 俺が誰かわかってない?


 ……まさか。


「……Yes.

 I know you」

「……ワタシは、シラナイ」


 やはり。

 俺は剣を納め、敵意のない事を示す。


「You are Hannah Willard.」


 俺の言葉に舌打ちをしながらハナが銃口を下ろす。

 お互いに状況を理解した。

 目の前のハナは、俺の知っているハナでは無い。


「ワタシも、キテルのか?」


 その問いに俺は首を横に振って答える。


「ノー」

「……オマエ、ショゾクはドコだ?」

「レアー」


 俺の答えにハナは舌打ちをし、そして、一拍置いて目を見開きながら問う。

 まるで、重大な何かに気付いたように。


「マサカ、ワタシもか!?」

「イエス」

「Oh my God!」


 美麗な顔を歪めながらハナが吐き捨てる。

 そして再び舌打ちして俺を睨む。


「ワタシに伝えろ。

 No pain, no gain.」


 見下す様な笑みを浮かべ、そう言い放つ。

 意味は?

 それを問う前に、光と音が俺の感覚を破壊する。

 真っ白に染まる視界と耳鳴りしか聞こえない聴覚。


 感覚を取り戻した時にはハナの姿は消え去っていた。


 嫌な荷物を渡されたな……。


 ◆


 飛渡足ひわたりで移動出来る様になった。

 その力を最大限に活用するためには御識札が必要。

 だから、現実から異世界へ飛んだ先に置いて回るのは半ば自分の為。

 何時、何処で何が起きるかわからない。備えはあって良いだろう。

 出発地点に埋めるのは転移の瞬間を誰かに目撃されても不審に思われないため。


 ただ、そんなもの(マーカー)を俺が着々と増やしている事をいずれはレアーも気付き不審がる筈。その時にどうすべきか。その答えはまだ出せてない。


 他にもやるべき事は沢山ある。

 飛渡足ひわたりに限らず他の禁呪も扱える様になった方が良いだろうし、その飛渡足ひわたりも一日二度が限度。

 力をつけねば。

 何せ立ち向かう相手は日本を滅ぼす厄災だから。


 だから休みのたびに異世界へ。

 その前に、アンキラへ。

 そんな感じで一月が終わった。

 その甲斐は、まあ、あったと思う。


「お帰りなさいませ。ご主人様」


 平坦な声でアリスちゃんがお出迎え。

 無愛想、むしろ、嫌そうな顔で。


「それがメイドの顔かよ」

「お帰りなさいませ! ご主人様!

 今日はサボりですか?」


 満面の営業スマイルで言い直し、一言付け加えるアリスちゃん。

 今日は二月九日。火曜日。世の中的には平日である。


「今日から入試休み」


 この春から後輩になる中学生達がわらわらと押しかけている訳である。そんな試験休みと祝日を挟んで14日の日曜日まで6連休。


「良い身分だな。高校生。カード出して」


 席に座り、ポイントカードをアリスちゃんに渡す。


「はい。

 後一つですね。

 ……キモっ!」


 今、アリスちゃんがスタンプを押した事で49個溜まった。

 まさか俺も本当に溜まるとは思って居なかった。

 日に二回通った事もある。スタンプ付きのオムライスを頼んだりもした。

 何でこんな事をして居るのだろうと疑問に思う事もあった。

 だが、毎日LINEで呼びかけて来る風巻さんの期待を裏切る訳には行かぬのだ。

 それに空いて居る時間ならば一時間程ノートを開きメイドさんが勉強を教えてくれる事もわかったし。


「お目当はマキマキ?」

「アリスちゃんでも良いよ」

「え、ヤダよ」


 ヤダってどう言う事だよ。

 そう言うサービスだろ? ご指名のメイドから直接チョコを貰えるって言う。


 まあ、彼女の言う通りマキマキちゃんから貰おうと思ってるけど。

 だって、毎日LINE送って来るし。

 他に貰えるアテも無いし。

 例え、それが実質的に金で買った様な物であろうと関係ない……。


「ちなみに何人くらい居るの? ポイント集めた人」

「五十人行くか行かないかくらい」

「すげぇな」

「胡散臭い執事が味をしめて次の企画を考え始めた。

 ちょーダルい」


 接客では有り得ないだろうと思うほどに、心底嫌そうな顔をしてからアリスちゃんは俺の注文を持って去って行った。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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