表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/308

一月上旬

「ちわす」


 挨拶をしながら部室の扉を開ける、冬休み明け初日。

 しかし、何時もの席に座る部長の姿が無い。

 珍しいな。

 冬休みの間に風邪でも引いたか?


 パイプ椅子に座り、タブレットを取り出しイラスト作成に取り掛かる。

 異世界の地図だがここなら別にバレても問題無い面子だから良い。


「こんちゃーす」


 続けて大里も。


「よ」

「あれ? 部長さん……あ、もう来ないか」

「え?」


 椅子に座りながら大里が一人納得したように言う。


「何で?」

「今週末、大学入学共通テストじゃん。

 ここも代替わりだね。新しい部長決めないと」

「……そうか」


 部長、受験生だったのか。

 受験、卒業。

 俺も、来年はそうなる……筈。それは、実はすぐ目の前……。


「何書いてるの?」

「地図」

「へー」

「大里には不要?」

「まあね。

 覚えていられる物でも無いだろうし」


 それはそうだ。

 地図は現在地と目的地がわかるからこそ役に立つ。

 何処かわからないところへと飛ばされるのにその先の地図を用意するなど、徒労に終わる可能性が高い。


「まあ、出口がわかった所でヤバい事もあるけどね」

「へー。例えば?」

「出口の前を化け物が塞いで居たり」

「ああ、そう言うのもあるな」

「それで年末に丸二日くらい足止め食らったよ」

「へー。

 どうやって帰ったの?」

「めっちゃ強い奴が居た。そいつが勝った隙にコソコソと。

 御楯と同じ様な黒い刀持ってたよ」

「へー」


 試作品と同じ物を?

 じゃ、あっちのGAIAに飛ばされたのかな。


「タブレット、見せてよ」


 ペンを置いた所で大里が言う。


「良いよ」


 そう言いながら立ち上がり、本棚の文庫本を物色する。

 ……女の子が表紙の本。まあ、あれだ、女らしさの勉強。


 椅子に座り直しそれをめくる。


「よく描けてる。

 地図の書き方のコツとか無いの?」

「コツ?

 まあ、わかりやすい目印を覚えるくらいかな」

「なるほど。

 そう言うところ、意識して見てなかったな」


 ああ、そうか。

 ゴールまでの道がわかる大里にとっては全てが等しく通過点でしか無い。

 俺は何処でどの道を選んだか。それを覚えて居ないといけないからな。


「御楯も同じ様な事をやらされてるんだね。レアーに」

「ん?」


 大里はそう何気なく言ったが、どう言う事だ?


「大里は毎回地図を書いてるの?」

「毎回と言うか、ここ暫くそう言う任務を受けてるよ。

 向こうに行って、出発地点から出口までの地図を作るって言う」

「へー」


 その稀有な力は最大限に利用されてるのか。

 レアーとしても向こうの地図を欲しがっていると言うことか。


「俺の方はそう言う事は言われて無いな。

 これはただの気まぐれ。毎回書いているわけじゃないし」


 地図は、現在地と目的地がわかるからこそ役に立つ。

 一番明確な現在地。それは出発地点。

 そして、目的地は当然(ゲート)

 これを上手く活用する事は難しい事ではない。

 俺がそれをする決断が出来ないだけで。


 ◆


「やっぱり、上手いね」


 大里がタブレットの画面を俺に見せながら言う。

 描かれた似顔絵は、夢で見た御紘杏夏と言う女の子。

 妙に頭の隅にこびりつき離れない顔。


「知ってる人?」


  向こうで、或いは……こっちで会った事が有るのか?

 だが、その答えは俺の微かな期待を裏切る。


「え? 夏実じゃ無いの?」

「違うよ……似てないだろ?」

「いや、似てると思うけど」


 互いに意見の食い違う俺と大里。

 怪訝そうな顔を見合わせると言う変な空気をぶち壊す様にその夏実が入って来る。


「こんにちはー」


 ……ほら、全然似て……似てる?

 あれ?


「何?」


 俺の視線に気付いた夏実が睨む様に俺を見る。


「別に」

「ふーん」


 変な空気がギスギスした空気に早変わり。


「教室でも私の事睨んで無かった?」

「睨んでないよ」


 チラ見はしてたけど。


「あれ? そう言えば。今日、御楯教室にいた?」

「居たよ! 朝から、始業式まで完璧に」


 大里からの助け舟は溺死しそうなダメージを俺に与える。

 普通に居たよ。


「で、今日は三人だけ? 部長さんは?」


 夏実が椅子に座りながら大里に尋ねる。


「あとで聞いとくけど、引退じゃない? 流石に」

「え? 何で?」

「受験」

「……えぇ!? あの人、先輩だったの?」

「同級生だと思ってた?」


 大里の問いに首を横に振る夏実。


「後輩だと思ってた」

「それは流石に失礼だと思う。

 でも、もったいないよね」

「何が?」

「髪の色明るくしたら、すごい可愛いと思うんだ」

「あー、まあ確かに印象変わるかもね」


 大里がさり気なく自分のフェチに部長を寄せようとする。

 すると、そのど真ん中に今の夏実がいることになるのだけれど。


「そのタブレット、何?」

「俺の」

「御楯君の?」

「ランクAの活動記録」

「見ていい?」

「良いよ。良いけど……」

「ああ、大丈夫。見たものをそのまま信じたりはしないから。

 あくまで参考。そうしないと予断が生まれる。

 そう、教わったから」


 ……それを教えたのは、俺な訳だけど。


「なら、良いよ。

 はい」

「あざー。

 なんか、部活っぽい」


 そう言いながら笑う夏実。




「……蝉と……妖怪……ミタテ……御楯……?」


 画面をスワイプさせる手を止め、なにか呟く夏実。

 そして、俺の方に怪訝そうな顔を向ける。


「御楯……。

 ねえ、御楯風果って知ってる?」

「……妹」

「えぇ!?」


 またこのやり取りか。

 ホント、すっぽりと俺の事だけ忘れてるんだな。


「そうだったんだ。

 え、風果ちゃんもこの学校に居るの?」

「いや。訳あって別居してる」

「あ、ごめん」

「いや、大したことじゃないから」


 再び画面をスワイプしていく夏実。


「ありがと。すごいね。参考にする」

「どういたしまして」

「まあ、ランクAだからね。次の部長は御楯で良いよね?」

「え? 関係無くない?」


 そもそもここはG Play同好会でなく、SF研究会なのだ。


「でも三月までには決めないと」

「そうか」


 大里で良いと思うけど。

 もともと彼が言い出したんだし。

 その一言をきっかけに帰り支度を始める大里と俺。


「……ねえ、LINE教えてよ」

「え、あ、うん」


 夏実がスマホの画面を俺に向ける。

 えっと……どうすれば良いんだっけ。

 慣れない手付きで画面にQRを表示。


「……あれ、追加出来ない」


 スマホを手になにか戸惑う夏実。


「貸して」

「あ、うん」


 手早く大里がそのスマホを受け取り、二、三度操作をしてから返す。


「はい」

「あ、あざー。どうやったの?」

「御楯のアカウントは見つけるのにコツが居るからね」


 そうなの?

 何? 電子機器まで俺を避けてるの?


 そんな事はなくて、ブロックリストに入っていたのを大里が解除しただけだった。

 これは、後に聞いた話。気を効かせて俺たちのトーク履歴も削除してくれたらしい。

 うん。出来た友だ。


 こうして、風果と大里のおかげか再び夏実とLINEが繋がる。


 まあ、送る事なんて無いんですけど。


 いや、送る言葉が見当たらないが正しいか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on 新作もよろしくお願いします。
サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
https://ncode.syosetu.com/n3012fy/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ