スタンプカード
昨日、実姫と異世界を駆け抜け残り120時間。
これだけ頑張ってもまだ全然。ずっしりとペナルティーがのしかかる。
今日も相変わらず溜池山王まで行くつもりなのだがその前にアンキラへ。
「やあ、久しぶり。
ここの所ご無沙汰だったね。
クリスマス、来れば良かったのに」
「写真は見ましたよ。
ただ、まあ、予定があったので」
埋まらなかったけど。
「……なんでそんな意外そうな顔をするんですか?」
「意外だからだよ」
「えっと、旦那様に対して失礼では?」
「ここの部屋では旦那様では無いんだよ」
この応接室にはそんな設定があるのか。
ややこしいメイド喫茶だ。
「で、何かご入用?」
「防具か、服。女性用の」
「巨乳の?」
「……え?」
何で分かった?
「仲間から連絡があってさ、黒武士がとんでもない巨乳を連れて居た、と」
目撃者が居たか。
気付かなかった。
だが、まあ、事実だから仕方は無い。
隠しきれるもんでもないだろうし……。
「でさ、その仲間が巨乳と言うか胸に目が無い奴でさ、紹介してくれたらどんな道具でも用立てるってさ。
そう言う伝言を預かった」
「それは無理な相談だと返しておいてくれ。
で、一応口止めもお願いしたい」
「分かった」
暫くガキの姿で活動させるかな。
いや、それにファンが出来たらそれはそれで面倒か。
「ちなみに、どれくらい大きいの?」
「牛」
「わからん。ミキミキちゃんと比べてどう?」
「多分、ミキミキちゃんより大きい」
「それは、僕にも紹介して欲しいな」
「人じゃ無いけど」
「ならいいや」
露骨に興味を無くすエロ執事。
まあ、嘘は言ってない。
「で、まあ、その人外巨乳用の服が欲しいのだけれど」
「サイズは?
トップとアンダー、カップ。
大体でも良いよ」
「……わからんす」
聞いた所で、当人もわからないだろうな。
風果に調べて貰えば良かった。失敗した。
「なら僕にはどうしようもないね。
知り合いのブティックなら紹介出来るけど」
「紹介?」
「ああ。招待状を送るよ」
「招待状?」
「お店に入店出来る」
「へー」
それは便利な能力だ。
「助かる」
「一万円」
「え? 金取るの?」
「取るよ」
「高くないすか?」
「妥当」
妥当かなぁ。
そう思いながら渋々財布を開く。
「……また今度持って来ます」
持ち合わせが無かった。
「現金で無くても良いよ」
「いえ、円で支払います」
デジタル上に変な足跡は残したくないので。
◆
来週のどっかで学校帰りに寄れば良いか。
そんな風に考えながら応接室から出た俺にマキマキちゃんが待ち構えて居たかの様に寄って来る。
「はーい、ヨッチ」
「あけおめ。
初詣、写真ありがと」
「ホントは三人で行きたかったんだけどね!」
俺も。
いや、正確には二人かな。
「もう行くの?」
「うん。
忙しそうだし」
「胡散臭い執事がよっぽどお好きなんですね。
ご主人様は」
う……。
そう言われるとぐうの音も出ない。
「まあ、今日はいいです。
その代わりこれ、あげるね」
そう言ってマキマキちゃんはポケットから一枚のカードを取り出す。
スタンプが一つ押してあるポイントカード。
スタンプ欄は50まである。
貯まると何か貰えるのだろう。
「何だろう?」
「全部貯まると、当店自慢のメイドからバレンタインチョコのプレゼントがございまーす」
「へー……え?」
バレンタインチョコ?
それは、欲しい。
脊髄反射的に欲しいと思う。
だけど……。
「今日、何日だっけ?」
「1月7日」
「このカードって」
「有効期限は、来月の14日まで!」
えっと、一月は31日までだから、有効期限までは42日。
必要なポイントはあと、49。
「あれ?」
「ご帰宅で一つ押させてもらってます!
ご出発の際に受付へお出しください!
ヨッチは絶対に貯めるよね!!
私、待ってるから!」
えぇ……?
今から毎日通っても足らないぞ?
いつからやってんだ? この企画。
いや、そもそも毎日来るって言うのも無理があるし。
「では、行ってらっしゃいませ!!」
ビシッと敬礼をして笑顔を作るマキマキちゃん。




