式神・実姫
ノルマに追われ、連日の異世界。
まずは助っ人を。
「雨乞いは涙となり果たされた
灯火
消えてなお、消えぬ
唱、漆拾参 現ノ呪 神寄
喚、実姫」
言霊に呼ばれ現れる乙女。巨乳。
「うむ」
何ですか。
その偉そうな返事とドヤ顔は。
「その格好気に入ったのか」
大人モードの実姫は、満足そうに何度も頷く。
「まあ、良いか。
少し暴れるぞ」
「おう」
「危なくなっても切り捨てるから、その覚悟でな。
その分、餌はやる」
その為の式神。
式札はまだあるのだから、いざと言う時は盾になってもらう。
「構わん。
儂もそうさせてもらう」
「……は?」
儂、も?
「何じゃ?」
「いや、俺を助けろよ」
「阿呆。そんな事をするものか」
「アホはどっちだ! 主人を見捨てる式神が何処に居る?
主人の為の式神だろうが!」
「そんな弱っちぃ主人などいらぬわ。
第一、瀬織津比売様の覡と斎女。立場は一緒じゃ」
「そうかよ。じゃ、餌は要らないな?」
「狡いぞ。
あ! そうじゃ、器が小さいのう。
お兄様は」
「てめぇ……」
風果の入れ知恵だな!?
「その言い方は誤解を生みそうだから止めろ」
今の実姫は俺より年長に見えかねない。
「そうなのか?」
「そう。
……来たな」
乾いた洞窟の奥から複数の気配と、騒ぐ様な声。
だが、人語では無さそうだ。
「儂が先を行くぞ?」
槍を手に実姫が肉食獣の様な笑みを浮かべる。
牛の癖に。
「あんまり一人で突っ込み過ぎるなよ」
「離されて迷子になるで無いぞ」
そう言って走り出す実姫。
術を唱えながらその後を付いて行く。
◆
半日程、洞窟を彷徨い門を見つける。
その前で小休止。
その間、襲って来たのは手に思い思いの武器を持つ豚顔の化け物達。尤も全身、毛に覆われていたので猪かもしれないが。
口では見捨てる様な事を言っていても、多少はこちらを気にかける実姫。
その後ろから術で援護。
「楽しそうだな」
今はクッキーを齧る実姫。
「美味いぞ」
「いや、そうじゃなくて。
戦うのが好きなのか?」
「うむ。
儂は母上の様に強くなりたかったのだ。
もはや死んだ身。そうなる事は無いと思っておったが瀬織津比売様のお陰でこうして大人になる事が出来たのじゃ」
そう鼻の穴を膨らませながら実姫が言う。
「良いのう。
父上におんぶしてもらって居る様に高くから見える」
頬を紅潮させ笑う。
口の横にクッキーのカス。
子供の様な表情。そして、喋り方。
体は大人、頭脳は子供。
アンバランスさが気持ち悪いのだが、そのうち慣れるだろうか。
「最後は俺がちゃんと送ってやる。
だから、もうしばらく付き合ってくれ」
「もちろんじゃ」
ニコリと笑う実姫。
まあ、頼もしいと言えば頼もしい相棒だ。
だけど、服を何とかしないとな……。
食い終わるのを待ち、現実へと帰還する。
◇
「私を見ろよ」
「……見てるだろ」
道場で向かい合った杏夏がそう言いながら睨み付ける。
だが、俺は彼女を見ているのでそんな風に言われる謂れは無い。
「ちゃんと私の方を向けって言ってんの」
「……向いてるだろ」
互いに正座して向かい合っている。
一体、杏夏は何を言っているのだろう。
「向いてないし、見てない。
こうして向かい合って話してるのに、お前は全然相手を考えて居ない。
この人は、どうしてこんな話をしているんだろうとか、何を思っているんだろうとか、そう言う事をまるで感じようとしない」
「必要無い」
「あるの!
それが人と生きる事だもん」
「人でも無い」
「人だよ!
器とか、ナオビとか、そんな事の前に人なんだよ。私も、お前も、風果も!」
杏夏が、声を荒げる。
何の事かと思えばそんな事か。
俺は器で風果はその番人。それ以上でも、以下でも無いのだ。
「違う」
「違わない! ちゃんと風果を見ろ! 私を見ろ!
向き合え!」
向き合ってる、見てるって言ってるだろ。
「お前に関係無いだろ!」
少し苛立って放った言葉に杏夏はニヤリとする。
「出来るじゃん」
「……お前には関係無いだろ」
「あるよ。
知り合いなんだもん。
お前も、風果も。
知り合いが悲しんでたら悲しい。
違う?」
「別に悲しんでなんか無い」
「私には、そんな風に見えないの!」
叫びながら、杏夏が腰を上げる。
流れる様な足取りで、距離を詰め拳を突き出してくる。
◇
変な夢見た。
……出かけよう。
次回更新は12月05日22時です。




