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二択の答え

 気付くと溜池山王の専用スペースにいた。


 リクライニングチェアにもたれかかり、天井を仰ぐ。

 混乱した頭を整理する必要があった。


 設定……それに記されていた御紘杏夏という少女。その死。そして天津甕星アマツミカボシの刃に貫かれた俺の最期……の記憶? 夢?


 いや、記憶の訳は無い。

 ならば、夢以外あり得ないだろう。

 あんな湖の脇の田園風景の中で暮らしたことなど無いのだから……。


 ただ、その設定を基にしていたと思っていた俺の力はまるで設定を捻じ曲げるように変化した。

 凶神は……はたらきたく無いなどとのたまうふざけた黒い神は転じて瀬織津比売と言う陽神に成られた。はたらきたく無さそうなのは相変わらずの様だけれど。


 その陽神は、あろう事か夏実を殺せと言った。

 さもなくば、この世界に厄災……災害が起こるだろう、と。


 全部出鱈目。唯の戯言。或いは夢。


 いや、その可能性を考慮に入れる事は間違いだ。

 それは、あの世界で実現した俺の設定を否定する事に繋がるのだから。


 スマホを手に取る。

 風巻さんからライン。

 自撮りでピースする彼女の向こうに、不機嫌そうな夏実。

 鳥居があるから、何処かの神社だろう。初詣だな。

 ことよろ、そう一言返しスマホを置く。


 さて……俺はこの先どうすれば良いのだろう。


 ◆


 報告書を書き、再びリクライニングチェアに寄りかかる。

 当然、日本にこれから起こり来るかも知れない災害の事など書ける筈は無く。

 その後はただ天井を眺めながらまとまらない思考を繰り返すだけ。


 そろそろ終電の時間か。

 ノルマはペナルティを含め残り150時間。

 冬休みも有るし終わるだろう。

 一回、家に帰るか。


 ビルから出た所でスマホが震える。

 ハナだ。


「はい」

『送ろうか』

「……では、お願いします」

『日枝神社』


 それだけ言って電話は切れる。

 そして、日枝神社の歩道の下に止まるフェアレディの所へ。

 助手席へ身を滑り込ませ……違和感。


「飲んでます?」


 車内が少し酒臭い。

 シートベルトを外し、ドアに手を掛ける。

 返答次第では即座に降りるつもりだった。


「私は飲んで無いわよ。

 酔っ払いを運んだからでしょう」


 そう言ったハナの顔を見つめるが何時もの通りに涼しい顔。

 信用してシートベルトを締め直す。


「彼氏ですか?」

「アナスタシヤよ」

「……は?」


 答えると同時にアクセルを踏み込むハナ。


「え? アナスタシヤって、春先にウチの学校へ来た?」


 その後、レアーかCIAに利用されているのだろうとは思って居たけれど。


「そうよ」

「え、彼女……幾つなんですか?」


 同級生として転校して来たんだぞ?


「そう言う事は、直接本人に聞きなさい」

「いや、別に会いたくは無いんですけど」


 金髪萌えでは無いので。


 車はレインボーブリッジを渡り川崎方面へ。

 毎回疑問なのだが、ハナはどう言う基準で走る道を選んでいるのだろう。


 湾岸道を少し南下し、そして山手トンネルへと入る。


 素直に東名入って欲しいと言う俺の願いは虚しく大橋ジャンクションはあっという間に後方へ。


 長いドライブになるのかな。溜息一つ。


「ペナルティはこなせそう?」

「問題無いです」


 進めど進めど変わらぬトンネルの景色。

 同じ速度で流れ行く人工の光をぼんやり眺めながら尋ねる。


「ハナさん。

 誰か……例えば、とても好きな人とこの世界。

 どちらかを失うとしたら、どうしますか?」

「愚問ね」


 まあ、そうだろう。

 自分でも、どうしてハナにこんな質問をぶつけたのか……。

 酒の匂いに酔った訳では無いだろうが。


「愛する人にもう一度会えるなら、その直後に世界が終わろうとも私は構わない」


 意外な答えが返って来た。

 そう言い切った運転席の横顔を見つめる。

 何時もの通りに涼しい横顔。視線は、前を向いたまま、口は固く結ばれている。


「だとしたら、ハナさんにとって、この世界は……」

「どうなろうが構わないわ。

 あの人が居ない、こんな世界。

 私には、何の意味も無いもの」


 あの人とは、一体どんな人なのだろう。

 だが、それを尋ねる気にはならず。

 再び視線を窓の外へと戻す。


 無言のまま車は、中央環状線をグルリと一周し、再び湾岸道から山手トンネルへ。そして東名へ。




次回、11月28日水曜日、22時更新。


ここに予告芸を挟める様になりたい。

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