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ミクとユキ③

 等々力を先頭に一団は進んでいく。

 敵、木造の人形が現れると彼が一人で戦いに行く。

 素手でその人形を殴りつけ砕いていく様は、喧嘩殺法、そんな印象を受ける。


「手伝わないの?」


 それを離れ見守る二人に問う。


「なんで?」


 ミクが不思議そうな顔を俺に向ける。

 上目遣いで。

 ……睫毛長いな。

 その僅かに首を傾げる仕草が、また、可愛い。

 うん。

 可愛い。

 あれだ。

 あざとい。

 でも、可愛い。

 そう、可愛いのだ。


「……何でって」


 赤面する前に顔を反らし等々力の方へと目を向ける。

 拳が僅かに光っているのが分かる。

 あれが彼の能力か。

 おそらくは単純な体の強化。

 ただし、それは正しく使えばこれ以上無い武器となる。そういう事なのだろう。


 だが、敵から溢れ出るマナ。

 その恩恵は遠目に見守る俺達にはほとんど届かない。


「……あれが彼のやり方」


 ユキがポツリと言った。


 結局木製人形一匹、等々力は素手で破壊し戻ってきた。


「痛てて……」


 左手で右脇腹を抑えている。

 一度、槍の穂先が食い込んでいた。

 既に止まっているが出血もあった。


「ユキ、頼む」

「分かった」


 ユキは、立ったままの等々力の側にしゃがみ脇腹に手を当てる。

 そして、ゆっくりと柔らかい光を放ち始める。


「治癒だって」


 その様子を見つめる俺に、ミクが説明。


「へー」


 それは心強い。


「驚かないんだ。

 君も何かできるの?」

「俺は……攻撃魔法的な奴を」

「すごーい。

 何でみんなそんな事出来るの?」


 目を丸くするミク。

 この人は何も出来ないという事だろうか。


「それは、マナって言う」

「おい! さっさと行くぞ!」

「はーい」


 説明しかけた所で等々力が遮る。


 一瞬俺に睨むような視線を投げつけた後、等々力は先頭を歩き出した。

 何だろう。

 俺にも戦え、という事だろうか。

 しかし、さほど広くない通路で二人並んで戦えなそうだし、術も彼を巻き込む恐れがある。

 そもそも、一緒に戦えなんて、一言も言われてないしな……。


 俺は一団の最後方から付いていく。

 殿を守る。

 そう言う事だ。


 前を行く二人、特にミクの太腿を見たかったからとかそういう訳ではない。決して。



 俺が転移してきたフロアの上り階段。

 そのほぼ反対側に位置する所に下りの階段があった。


 そして、その下のフロアを進む。


「疲れたよー」


 突然、ミクがそう声を上げる。


「んじゃ、この辺でちっと休憩にすっか」


 そう言って等々力が通路の脇の小部屋へと入っていく。


 八畳程の広さの何も無い小部屋。

 通路へと繋がる入り口だけがある。

 壁には一面の象形文字。


 等々力が壁際に腰を下ろす。


「休憩……?」

「疲れたでしょ? 朝までお休み」


 疑問を口にした俺にミクが当然の様に答える。

 朝まで?

 言うなりミクは壁際で横になる。

 ユキも少し離れた所でそれに倣う。


「え、寝るの?」


 眠くなど無いのだけれど。


「休まねーと動けなくなるだろ」


 それは、マナの消費が多すぎるからでは無いだろうか。


 しかし、ここで一人先に行くとも言い難く。

 仕方なく俺も壁を背にしゃがみ込む。


 目に入るのは壁の象形文字。

 一体あれは何を意味しているのだろう。


 しかし、メモを取れるような物は無く、未知言語の知識もない。

 ただただ眺めていたが、意味などさっぱりわからなかった。

 やがて、規則正しい寝息が三つ聞こえてきた。


 暫く座って目を閉じてみたが、寝付けないので俺は通路に出る。

 少し、敵と戦おう。

 マナを増やさないと。


 ◆


 結局、12時間程彼らは眠り込んだ。

 この建物は、他の洞窟よりマナが多いのだろう。

 だから、戦いに参加しないミクもああやって休むことで半日活動するだけのマナを体内に取り込めるのだろう。

 その間、俺は時折様子を見に戻っては狩りに出るを続け六体ほどの人形を壊す。

 この方が、効率は断然良いと思うのだが。

 例え、四等分したとしても。

 それを独り占めしている等々力の強さは?

 さほどでもない。

 そう思う。

 おそらく力の使い方、燃費が悪いのだろう。

 気になるのはユキの方だ。

 目立ってマナを吸収している様子は無いのに等々力に治癒を施している。

 他にマナを取り入れる術があるのだろうか。


 ◆


 そして、彼らが起き再び建物を下へ。

 陣形は変わらず等々力が先頭。


 傷つきながら敵を倒し、そして、ユキが癒やす。

 その繰り返し。


「団体行動、苦手?」


 その様子を漠然と眺める俺にミクがそう声を掛ける。


「あまり……」


 特に、不本意な行動に合わせるような事は。


「だよね。でも、あんまり顔に出さないほうが良いよ」


 顔に出てるだろうか。


「行くぞ!」


 等々力が怒鳴る。

 苛立っている。

 それは分かったが一体何に苛立って居るのだろうか。


 ◆


 五階程下り、そしてその日はそこで休憩になる。


 明らかに効率が悪い。


 三人の寝息が響く小部屋で壁を眺め一人考える。


 いっそ置いて行くか。

 しかし、それも心苦しい。

 ミクを眺めながらそんな風に思う。


 石碑を見つけてしまえば良いのだろう。


 俺は静かに部屋を抜け出す。

 周りに幾つか同じような小部屋があるし、先に下のフロアを見てきても良い。


 ◆


 大して得るものは無く、代わり映えのしない木製人形を倒して先程の小部屋に戻った。


 ……等々力とミクの姿が無かった。

 横になったユキと目が合う。


 二人は?


 そう聞こうとする前に彼女は目を閉じ顔を逸らす。


 置いて行かれた?

 それなら、それで好都合だろうか?


 そんな俺の耳に……微かにミクの声が届く。


 悲鳴!?


 一瞬、そう思ったが……おそらくそれは間違いで、多分、喘ぎ声……だ。

 映像でしか知らないけれど。


 そうすると、あの二人は……そういう事か。


 俺は、壁を背に腰を下ろす。

 何時終わるとも知れないその声は否応なく耳に入ってくる。

 そして、その声に紛れ鼻をすする様な音。

 押し殺した嗚咽……。


 クソ。

 何の拷問だろうか。

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