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神託

 海を見下ろす断崖の上。

 灯台の残骸の様な建物の中に門を見つけたのは再び陽が沈みかけた頃。


「相変わらず、術は下手ですね」


 その前で風果が呆れた様に言う。


「チャリに乗れるからと言って、そのままバイクに乗れる奴なんか居ないだろ……」


 俺はそう言う強がりを返すのが精一杯。

 禍津日マガツヒの封印がなくなり、そこに瀬織津比売が残る。


 その結果、今まで以上の力が体内に有り鳳仙華(ほうせんか)一つ取ってもその威力が桁違い。

 地に大穴を開ける程の大爆発。

 かと思えば、明後日の方向で爆竹の様に爆ぜる時も。

 力のコントロールが全くつかないのである。

 今までそれほど意識してコントロールなどしてこなかったのだから尚更。


 結果、俺はただ滅茶苦茶に破壊を撒き散らすだけの存在と成り果てた。

 堪り兼ねたのか、風果から鞭で強打される始末。

 本人は、決してわざとではございませんと言って居たけれど、どうだろう。


「こんな事なら禍津日マガツヒを封じたままの方が良かったな」

「また、そう言う憎まれ口を……」


 風果が呆れた様に言い、俺の方へと歩み寄る。


「これで良かったのですよ」

「……お前にとってもな」


 腹違いの兄に何を命ぜられて居たのか知らないが、その前提が変わったのだからもう自由になって良いはずだ。

 当人が忌み嫌う直毘ナオビの血。それを捨てても良い。


「そうですね。

 ですが、貴方がどうであれ、貴方は私の兄ですよ」


 風果が、胸先で俺を見上げる。

 いつも感情を押し殺し表に出さない瞳。

 ゆっくりとその目を閉じ、ほんの一瞬彼女の唇が俺に触れる。


「……例え、もう封を開ける事にならずとも」


 再び俺を見つめ、そう一言。

 そしてゆっくりと体を離す。


 未だ、彼女を縛りつける何か。

 そんな物があるのかもしれない。


「またね。兄さん」


 手を振りながら、彼女は門へと触れ消えて行った。

 俺も、それに続く。


 ◆


 ……見た事の無い町にいた。

 門に触れ、現実の溜池山王にある専用スペースに戻る筈だったのに。


 何だ?

 まだ異世界なのか?


 道路の真ん中に街灯があって、オレンジと黄色のフラッグが下がっている。

 両脇には、洋風の建物……いや、店だ。

 立ち並ぶショップのウインドウを覗く沢山の通行人。

 そして、通り遥か先の黒い稜線は富士山……?

 その証拠にフラッグには『GOTENBA』の文字がある。

 ここは、御殿場のアウトレットモールか?


 しかし、何故?


「始まりますよ」


 突然、そう言われ見ると横に瀬織津比売の姿が。

 厳かな十二単でなく、若干着崩した浴衣姿なのは何故だ? そのおでこに装着しているのはアイマスクか?


「何が始まるんですか?」


 周りの通行人は俺達を気にする様な素振りを一切見せない。


「噴火です」


 その言葉の直後、富士山の中程から真っ黒い噴煙が上がる。まるで太い柱の様な。

 直後、巨大な爆発音。

 それに合わせ周りのショップのガラスが全て粉々に割れ吹き飛ぶ。

 一拍遅れ、甲高い悲鳴と泣き声、どよめき、怒号。

 突然の災害に逃げ惑う人々。


 その光景を俺は言葉を失い眺めているしか出来なかった。

 体は指一本動かす事が出来なかったから。


「これが始まりです」


 暗くなる空の下で瀬織津比売が告げた後に、景色が変わる。


 次いで立っていたのは都心、ビル群の中。

 新宿だろうか。


 暗い空の下、一様にマスクを着けた通行人。

 その足元からは、絶え間無く黒い砂煙が立ち上る。

 ……火山灰か?


 そんな彼らが一斉に立ち止まり、一様にスマホの画面を確認する。

 幾重にも重なった警告音と共に。


 悲鳴と下から突き上げる様な衝撃はほぼ同時だった。


 巨大地震……。


 高層ビルがまるでメトロノームの様に揺れ動く。

 そして再び視界が変わる。



 けたたましく鳴り響くサイレンの音。

 無人の港。


 が、それを理解した瞬間、波は港を飲み込み、そしてその先の町をも飲み込んでいく。


 俺はそれを空から呆然と眺めている。



 再び、町へ。

 いや、町であった所に。

 今は、炎がその痕跡全てを消し去ろうと猛威を振るう。

 どこかから呻き声が聞こえた気がした。



 そして、景色は山林へ。

 夕立の様な豪雨。

 眼下に見える川は茶色い濁流となっている。


 やがて轟音と共に木を薙ぎ倒しながら山肌が滑り落ちて行く……。


「これは、この先に起きる事です。

 富士の噴火に始まり、地震、津波、そして大雨。

 日本を隈なく厄災が襲うでしょう」


 横で瀬織津比売が淡々と告げる。


「お告げ……?」


 まさか、かんなぎとはこう言う事なのか?

 この不幸を予め告げられると言う……。


「これらは全て、穢れ、大いなるマガによって引き起こされる厄災です」

「これが!?」

「この先はもっと凄惨ですよ。

 人同士の争いが始まります。

 見たいですか?」


 瀬織津比売の言葉に首を横へ振る。


「まあ、良いでしょう。

 さて、直毘ナオビの子らよ。

 貴方には三つの道があります」

「三つ……救う、止める手立てがあるのか!?」

「一つは、この厄災を引き起こすマガを祓い直す道」

「そいつは何処に居る!?」

「教えません」

「何でだよ!?」

「到底勝ち目が無いからです。

 今の貴方では何も出来ずただその体を潰され終わりでしょう」

「……他は?」


 内心の舌打ちを堪えながら問う。


「一つは、この厄災をありのまま全て受け入れる道」


 だったらこんな光景見せる必要なかっただろう。

 その苛立ちは舌打ちに変わる。


「他は?」

「一つは、この厄災を呼び寄せている者を殺す道」


 そう言う黒幕が居る訳か。

 ……それが一番簡単か?


「その者の名は、夏実杏」

「はぁっ!?」


 夏実!?


「殺せって……巫山戯んな!

 そんな事、出来る訳が無い!!」

「どの道も等しく困難が伴うでしょう。

 人一人を柱として終わるのであれば、それでも構わないと思いませんか?

 ねえ、実」

「……はい」


 いつの間にか、横に実姫が立って居た。

 瀬織津比売の問いに答えた実姫の顔には、苦悩が有り有りと浮かぶ。


「お前が殺すと言うのか?」


 その為の斎女いつきめか?


「……考えてみよ。頼知。

 夏実一人捧げれば、何人救われる事か。

 国が救われるのじゃぞ?」


 実姫は、目に涙を湛えながら答えた。


「巫山戯んな!

 大体、どうして夏実なんだ!?」

「厄災が彼女を欲しているのです。

 それは世界の壁を理をすり抜けお前達の世界へと至るのです」


 なんだよ、それは!

 ストーカーかよ!


「貴方は何もしないのですか?」

「それは出来ません」

「何故?」

「……面倒臭い」

「はぁ!?」

「……中津国なかつくにの厄災においそれと手を出してはならぬ決まりです」


 いや、今面倒臭いって言っただろ?


「どうしても私に動けと言うのであれば柱を立てなさい」


 柱……。

 人柱の事だろう。つまり人身御供。


「それはしない。

 ……ならば、俺がこの手で祓う。

 そいつはどれくらい強い?」

「試して見ますか?」

「は?」


 瀬織津比売がそう言うと同時に彼女の顔が歪む。

 いや、周りの景色全てが歪んで見える。

 そして、全身が重く息が出来ない。

 くまなく水に飲み込まれた。

 もがきながら水を搔こうとも、何も出来ず。

 そして全身から俺を押し潰す様な圧力がかかり……。


『柱を立てぬ、自ら祓うとのたまうにはぎょうが足りませんね』


 耳の奥底、頭の中に直接瀬織津比売の声が響く。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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