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奈落の底で⑥

 ――御楯!


 お迎えか。

 天使……では無い。

 蝙蝠の様な翼。悪魔か。

 もっとこう、和風な黒ずくめの死神だと思ってたけれど。

 ……ああ、そうか。ここは北欧神話の冥府だもんな。


 その悪魔が、俺の左手を掴み落ち行く体を宙で止める。

 いや、体は落ちて魂だけ抜かれたのかもしれない。

 まあ、夏実に似た小悪魔に連れ去られるなら悪く無い。


 ――生きてろ!


 どうやら手を引かれ浮遊した俺は、そのまま泉の淵に転がされる。

 或いは放り投げられたのかもしれない。


 ――白雪。お願いね!

 ――キュ


 視界がぼんやりと白く。


 遠くから叫び声が聞こえる。


 頬を撫でる柔らかな感触。

 少しずつ体が楽に……。



 ……痒い!

 鼻先をくすぐる白い何かを手で払いのける。


 俺はどうした?

 冷たい地面にうつ伏せで寝転んでいる。

 そして、俺の頭の上に何か乗っている。

 視界をチラチラも白い毛の塊が……。


 あれ?

 ゆっくりと頭を上げて身を起こす。


「……白雪?」


 跳躍して俺の前に着地する白狐。


「どうしたんだ? お前」


 何でここに?

 そっと手を伸ばし、その頭を撫でる。

 静かに目を細める白狐。


「キューティー・プロミネンス!」


 上からおおよそキューティーとは思えない程に気合いの乗った叫び声。

 見上げると、蛇竜の頭を悪魔が炎の光線で吹き飛ばすところだった。

 光線はそのまま壁に当たり、地震かと思う様な振動が地下空間を揺らす。

 頭を吹き飛ばされた蛇竜はその下の泉へとゆっくり落下して、水柱を上げる。


 それを確認して振り返る悪魔。

 頭から角を生やして笑う……


「夏実!」


 サムズアップで答える夏実。

 いや、一体どうして?


「デェ!!」


 立ち上がろうとした俺に再度Exチョーカーから激痛。

 つまり……夢でなくて……そして、生きてる。


「大丈夫!?」


 慌てて空から近寄って来る夏実。

 その背に大きな蝙蝠の様な翼。


 ああ、竜か。

 竜鱗の鎧の力かな。


 その正体に見当をつけながらマフラーを外す。


 俺の五メートル程前に着地し、魔法少女の姿から冒険者の格好へと変化させながら駆け寄って来る夏実。


「どうしたの? 何か、首輪光ってるよ?」

「……うん。外せないんだ」

「何これ。どこに繋ぎ目が……」


 夏実が俺の首へ手を伸ばす。


 ――ピッ


 電子音がした。


「あれ? 外れたよ?」

「え?」


 不思議そうな顔で言った夏実の手に、半円が二つ繋がった金属が。


 手を首に当てて確認。

 確かに首輪は外れていた。


「……何で?」


 いや、首輪なんかどうでも良い。


「何で!? どうしてここに!?」

「言ったじゃん。

 次は私が助けるって」

「いや、だって……」


 どうして俺が死にかけているのがわかった?


「御楯さ、今日の運勢、最悪。大殺界並み」

「は?」

「それと、これ」


 夏実は小さな紙片を指でつまんで見せる。

 あれは、実姫の召喚に使った物。

 そして、夏実に渡した物。


「呼ばれたの」

「え?」


 実姫が?


「……いや、それでもどうやって此処に?」

「まあ、何て言うの?

 愛の奇跡?」


 ……愛?


「ほ、ほら! マジカルな魔法少女だから!」


 そう言って夏実は、歯を見せ笑う。

 その笑顔にドキリとする。


 ああ……あれか。

 吊り橋効果。

 ……違う。

 そんな事どうでも良い。

 やっぱり……俺は……。

 自分の中の感情、夏実への感情を自覚する。


「しかし寒いね」

「あ、これ……ちょっと汚れてるけど」


 マフラーを彼女に差し出す。


「え、良いの?」

「うん」

「……ありがと」


 受け取って、躊躇いもなくマフラーを巻く夏実。

 臭ったりしないだろうか。

 今更ながらに不安になる。


「大丈夫? 立てる?」


 夏実が腰を屈め手を差し出す。

 一度、躊躇して、でもやっぱりその手を握り返す。

 そして、力一杯引き寄せられ立ち上がる。

 弾みで一歩よろけて、その結果、夏実がすぐ近くに。


「……顔、真っ赤だよ?」

「……暑いんだよ。そっちこそ」

「マフラー、暖かい」


 このまま、抱きしめてしまいたい。

 そしたらナゼルに爆発しろと罵られるだろう……。


「あ!」

「ん?」

「仲間が待ってる。行かないと」


 忘れてた。


「じゃ、一緒に行こう」

「うん」


 ナゼル、今から行くぞ。

 でも、少しだけゆっくり歩いて行っても良いかな。

 良いよな?

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