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奈落の底で③

「あー……生き返る」


 湯気の立つコーヒーの入ったカップを両手で包み込む様に持つナゼル。

 その気持ちはわかる。

 この寒さは尋常じゃ無い。


「上に門は無い?」

「うん。無かった」


 彼の横に腰を下ろしながら問う。


「じゃ、下か。

 行く先は同じですけど、同道する?」

「ああ、君達が良ければ。

 この借りは戦いで返すよ」


 彼は半分程になったコーヒーカップを掲げながら言った。


「期待してます。

 ……さっさと帰りたい」


 俺は洞窟の反対側で相変わらず体を寄せ合う人外二人の方を見ながら言った。


「美女と野獣……と言う程では無いか」


 まだ人狼である事を知らないナゼルが二人を見ながら言う。


 いや、間違って無い。

 戦う姿は野獣そのものだし、ベッドの上ではもっとすごいらしいから。


 しかし、そうなると現実でも知り合いと言うことになる。

 そんな二人が同じ世界に居るのは偶然なのだろうか。


 ◆


 隊列は俺が先頭。

 そしてパムとルフ。

 最後尾にナゼル。

 まずはそれで出発した。


 二人の様子を後ろから眺めたく無かったし、大して知らぬナゼルに背後に立たれるのも嫌だったから。


 だが、出発して暫くしてナゼルが先頭に立つと言い出した。

 なんとなくその理由を悟った俺は渋々その申し出を受け入れた。


 そして今、先頭でナゼルが剣で骸骨を蹴散らす。

 その横でルフが爪を振るう。


 主攻が目まぐるしく変わる二人の連携は、だが、悪くはなさそうだ。

 と言うより、ナゼルが上手くルフの動きに合わせて居る様に見える。

 器用だな。


「楽しそう」


 俺の横でパムが嬉しそうに呟く。


「そうか?」


 歯を剥き出しにするルフと寒さに耐えるナゼル。

 どうにもしんどそうだけれど。


「あんなに無邪気にはしゃぐルフを見たのは久しぶりです」

「へー」


 さっきまでと何が違うのか全然わからん。


「二人はずっと一緒なのか?

 ここだけでなく」

「ええ。

 何処に行こうとも、私とルフは常に一緒です」

「俺が知ってるG Playの転移装置にはそう言う機能、無いんだよな」


 なので考えられる可能性は多くない。

 彼らの世界ではそう言う機能がある。

 つまりは、別世界の住人。

 もしくはオペレーション・バティン或いはそれに順ずる公表されて居ない機能実験。

 まあ、まるっきり嘘と言う可能性もあるが。


「そうですね。

 でも、私とルフにそんな事は関係有りません。

 私達は赤い糸で結ばれて居るのですから」


 そう言うと、パムは笑みを浮かべながら左手の小指を立てて見せた。


 つまりは彼女、或いは彼の能力か。

 特定の誰かを引き寄せる。そんな能力。

 ハナが食いつきそうなネタだな。


 ◆


「生き返る。

 が、あまり飲みすぎるとトイレが近くなりそうだな」


 両手でカップを掴みながら俺の横でナゼルが茶を啜る。


「戦い方、上手いっすね」

「仲間と力を合わせて強敵に立ち向かう勇者」

「ん?」

「そんな風になりたいと、一時期夢見て居た。

 まあ、ゲームと小説の影響だけど」

「それが、ここで実現した?」

「どうかな。

 立ち向かう魔王がいないし。

 仲間もその時限り。

 それも、ウザがられる方が多い」

「俺はキライじゃ無いけど」


 その答えに、彼は白い歯を見せキメ顔を返してくる。

 まあ、少しウザいとは思う。


  ◆


 ややテンションを上げながら再び先頭を行くナゼル。

 その後から俺。

 そしてパムとルフ。


「前から来るぞ!」


 そう叫びながら剣を構えるナゼル。


「見えてる。

 でかい声出すな」


 蒼三日月を構え、間合いを測る。


「後ろからも来るぞ。

 油断するな」

「分かってます」


 パムの返事に合わせて、飛び出すルフ。


「命を大事にしながら、ガンガン行こう!

 それが作戦だ!」

「その死を知らぬ幼子

 舞い飛び散らせ

 落ちる涙は甘い白雪

 唱、拾壱(じゅういち) 壊ノ祓(かいのはらい) 浮き蛍」

来たれ(ダッファールディン)白銀に輝く爆発ジルヴァラン・エクスプロージー!」


 剣を天高く掲げた勇者の檄に俺とパムは呪文を返事代わりにする。


 うぜぇな。

 黙って戦えよ。


 ◆


「と、まあ今ので分かったと思うけど、僕の指示に従えばその分いつも以上の能力が発揮される」


 そうか?


 パムも僅かに首を傾げたけれど、二人とも敢えて口にしない事にした。


「焼けたぞ」


 焚き火で軽く炙った干し肉を渡す。


「…………う、うん」

「…………個性的、ですね」

「……」


 大丈夫。

 味が良くないのは知ってるから。

 気を使わなくて良いのに。


 黙って不味い干し肉を齧る。


 次はスープにしよう。


 ◆


「暮れない夜

 怠惰なる夢を夢と為せ

 羽落ちるその束の間

 唱、拾陸(じゅうろく) 壊ノ祓(かいのはらい) 赤千鳥(あかちどり)


 赤い術が向かい来る骸骨を牽制。

 その足元から迫る新手。

 黒い狼。

 走るその足元から黒い霧を撒き散らしながら、狼の群れが迫る。


「ナゼル! 離れろ」


 後ろの勇者に退避を促し俺は前へと走る。

 迫る狼の群れ。


 それを充分に引きつけ……。


「伸びよ。満ちよ

 それは森の王の寵愛の如く

 穴を穿ち、餌と成せ

 唱、弐拾壱(にじゅういち) 壊ノ祓(かいのはらい) 骨千本槍」


 牙を剥き出しにし、俺に噛み付かんと飛びかかって来た狼達をそのまま術の餌食に。

 眼前で下から現れた白い剣山に絡め取られ動きを止める狼達。

 それを乗り越え、さらに後続が迫る。

 それよりふた回りも大きな人狼が骨の山を蹴散らしながら襲い掛かって行く。


 それを追いかけパムの術。

 どこからか呼び出された大量の蝙蝠が上から狼を襲う。


 こんな冷気の中呼び出された蝙蝠は災難だな。

 真っ白な息を吐きながら蝙蝠に同情する。


「暮れない夜

 怠惰なる夢を夢と為せ

 羽落ちるその束の間

 唱、拾陸(じゅうろく) 壊ノ祓(かいのはらい) 赤千鳥(あかちどり)


 それ以上に哀れなのは俺達に蹴散らされる狼か。


 ◆


 計画通り沸かした湯で干し肉を煮てスープに。

 ……それを見つめ…………夏実を思い出す。

 知らず、溜息が漏れる。


「……わかるよ。

 その気持ち」


 横でナゼルが何かに同意。

 何がわかるのか。


「リア充爆発しろ」


 ナゼルはそう小さく反対側の壁際で身を寄せ合う二人に吐き捨てる。

 敵意を感じ取ったのか、ルフが顔を上げこちらを睨みつける。

 俺は手をパタパタと振ってその敵意をいなす。


「僕にその力があったら彼らを爆破してるけどね」


 そうナゼルが笑いながら言う。


「術……魔法は使えるだろ?」

「仲間に攻撃は出来ない。

 僕は勇者だからね」

「じゃ、俺が剣を向けたらアンタは呆気なく死ぬ訳か」


 俺の問いにナゼルは首を横に振る。


「それはもう仲間とは言え無いだろう?」


 なるほど。

 物は言い様だ。

 そうすると、そこで復讐の為に何倍もの力を発揮するとかありそうだな。


「それに、僕には君がそんな事をするタイプには見えない」


 そう言いながらスープの入ったカップを少し上に掲げる。


「何も出来ない根性無し」


 自虐気味に呟く。


「そんな事ないさ。

 結局、どこに勝利の価値を置くかじゃないか?」

「アンタは?」

「僕?

 僕は、仲間を守って立つ。

 その背中に……キュンってなってくれればそれが勝利だな。

 だから、パムにもまだその可能性はある!」

「……無いと思う」

「でも、まあ、その方がリア充爆発しろって恨み言を言うより健全だろ?」


 健全、か。

 スープを飲み干す。

 とりあえず、どう言う関係なのか聞いてみるか。

 恋人なのか、片思いなのか。

 一言LINEを送れば良いだけだし。

 その為には、無事に帰らないと。


 よし。


「行こう」


 体は温まった。

 こんな寒い場所さっさとおさらばして現実へ戻ろう。

 ……例えそこに……どんな答えが待っていようとも。

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