部長と新入部員④
溜池山王に行く以外に都心へ来るのは久しぶりだな。
若者で溢れる表参道の駅前でそんな事を考える。
浮いてるだろうか。
そこそこ小綺麗な格好はして来たつもりだ。
俺より余程奇抜な服の連中は山程居る。
しかし、そちらの方がより街に馴染んで見えるのはどうしてだろう。
「待った?」
「あ、いえ」
ぼーっとして居た訳では無いが、声をかけられるまで気付かなかった。
ニット帽にダッフルコート。
普段はかけて居ないメガネ姿の部長。
「じゃ、50センチ離れて付いて来て」
何だ?
その細かい注文は。
「どこ行くんですか?」
「すぐそこ」
そう言って部長は表参道を歩いて行く。
その後ろを50センチ離れて付いて行く。
地下鉄表参道駅の入り口が見えた辺りで路地へ入る。
その先に女子の行列。
その最後尾に部長が並ぶ。
……え?
「パンケーキ。好き?」
「嫌いでは無いですけど……」
「じゃ並んで」
「え……」
部長の目当てと思われる店はビルの二階。
そこから階段を下り、更に外まで列が伸びている。
「どれくらい待つんですか?」
「二時間くらい」
まじか……。
「えっと……」
どうしよう。
寒空の下、そんなに待ってまでパンケーキを食べたく無いのだけれど。
スマホが震える。
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古川静>お願い。お一人様はつらたん
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行列を成しているのは女子のグループやカップルばかり。
「パンケーキ、好きなんですか?」
問いかけに頷く部長。
俺は彼女の横で二時間待つ事を決める。
長いなぁ……。
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御楯頼知>待ちます
古川静>ありがと
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何でスマホで会話してんだろ。
隣に居るのに。
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古川静>レアーの話よね?
御楯頼知>ハナさんにも聞きました
御楯頼知>部室では失礼なカマかけしてすいません
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昨日、車の中でハナにも確認した。
部長はレアーの調査員だと隠す事なく言った
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古川静>嫌いじゃない
御楯頼知>は?
古川静>謎めいたやりとり
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そっすか。
そういやSF研。
いや、それはどちらかと言うとミステリーの領分か?
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御楯頼知>部長も実験に参加してたんですよね?
古川静>参加と言うか監視
御楯頼知>詳しく聞いても良いですか?
古川静>詳しくも何も
古川静>私は見てただけ
古川静>Msハナから聞いてない?
御楯頼知>曰く
御楯頼知>そういったスパイみたいなやり口は感心しない
御楯頼知>聞きたいなら直接聞きなさい
御楯頼知>と
古川静>www
古川静>三人の行う実験を気付かれないように観察しその様子を報告する
古川静>それが私の役目
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ふむ。
あの三人、信用されてないのかな。
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古川静>三人は同じ場所に転移し、目立った問題も起こさずに現実へと帰還した
古川静>そんな実験が幾度となく繰り返された
古川静>以上
御楯頼知>部長は見てただけなんですか?
古川静>観察。それが私の役目
御楯頼知>いつもそんな事してるんですか?
古川静>いつも、とは?
御楯頼知>監視役の事です
古川静>こういった実験は初めて
古川静>当然、レアーから指令を受けたのも
御楯頼知>なるほど
御楯頼知>三人はこの事を知ってるんですか?
古川静>知らない
古川静>気づかれるようなヘマはしない
御楯頼知>すいません。今更ですが、ランクいくつです?
御楯頼知>IDOの
古川静>B
御楯頼知>有名人ですか?
古川静>当ててみて
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え?
思わず部長の方へ目を向けるが、ニット帽はピクリともしない。
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御楯頼知>会ったことあります?
御楯頼知>向こうで
古川静>ある
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えぇ。
全然記憶に無いぞ。
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古川静>話したこともある
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ええぇぇ。
全っ然、記憶に無いぞ。
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御楯頼知>すいません
御楯頼知>わからないです
御楯頼知>ヒントください
古川静>地下鉄
古川静>鉄骨渡り
古川静>お姫様抱っこ
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「え!?」
思わず声が出た。
だが、部長は微動だにしない。
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古川静>わかった?
御楯頼知>クドー?
古川静>ご明答
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地下鉄の中で会ったガスマスクの兵士、インビジブル・ストーカー!
待て。
お姫様抱っこはしていない!
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御楯頼知>有名人じゃないすか
古川静>二人には秘密
御楯頼知>ああ、了解です
御楯頼知>ついでに聞いていいすか?
御楯頼知>部長の武器、サイレンサーとかついてんすか?
古川静>秘密
御楯頼知>実弾ですか?
古川静>秘密
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能力は明かさないか。
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古川静>今度は私から
古川静>君の瞳は何か意味があるの?
御楯頼知>秘密です
古川静>どうやって空を飛ぶの?
御楯頼知>飛んでるんじゃないです
御楯頼知>走ってるんです
古川静>どうやって?
御楯頼知>根性
古川静>そんなキャラ?
御楯頼知>根性大事
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そんなキャラでは無いか。
ゆるゆると進み行く列の中でそんな会話。




