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ミクとユキ①

「ここは……?」


 その日、俺が降り立った世界は今までと様子が違っていた。

 石で作られた洞窟は、何度か見たがここは明らかにそれと様子が違う。

 おそらく石なのだろうが、表面はツルツルに削られている。

 壁面も、床も。

 何より明るい。

 洞窟全体が昼間のように明るいのだ。

 壁には、ところどころ象形文字の様な物が刻み込まれている。

 と言っても読める訳は無く、何らかの法則性を持って並んでいるのでそれが文章なんだろうなと思いながら、刻みに指を這わせる。

 その彫り込みも、突っかかりが無くつるつるだった。


 ……文明の痕跡。


 もしかしたら異世界で初めてこちらの人間と遭遇するかもしれない。


 そんな事を考えながら、慎重に歩みを進めていく。

 まずは、ゲートの確保が最優先だ。



 幅三メートルに満たない通路。

 曲がり角は常に直角。

 時折分岐。

 まるで建物の内部の様だと、そんな感想を抱く。

 前後から敵が現れ挟み込まれることだけは避けよう。

 そう留意しながら歩みを進める。


 初めての敵は、木製の人形だった。


 アフリカの民族がつけているような、人の顔を極端にデフォルメした模様のお面を身に着けていた。

 しかし、その手足は極端に細く、関節の部分が球体の部品で繋がれている。

 そんな姿だった。


 ふらりと通路の角を曲がって現れたそいつは、俺が武器を構え襲いかかるより早く手にしたボウガンで矢を放って来た。


「零れ落ちる記憶の残滓

 遠路の先の写し身

 爪を赤く染めよ

 唱、() 壊ノ呪(かいのまじない) 鳳仙華(ほうせんか)


 一拍遅れ、俺の術がその人形の頭をふき飛ばす。

 しかし、放たれた矢は右肩に深々と突き刺さった後だった。


「クソ……」


 ジンジンと痛みがある。

 飛び道具は、頭に無かった。


「創造する手・無の化身

 紡ぐ、縦横に

 拒絶する柔らかな結界

 唱、(さん) 現ノ呪(うつつのまじない) 白縛布(はくばくふ)


 マナを長く織り込み、包帯を作り上げる。

 三時間程で消えていってしまう即席の布だが、止血には十分だ。

 矢を引き抜いて、包帯の片方を口に咥え、左手できつく包帯を巻き付ける。

 刺さった場所が悪く左手一本で苦戦するが何とか、止血して少し痛みが和らぐ。


 マナが枯渇しなければ、包帯が消える三時間後には傷は塞がるだろう。

 どこか、休めるような場所があれば良いが。


 弾け飛んだ人形の欠片で木材として使えそうな物を行くつか拾い怪我の具合を確認する。

 暫く右手で武器は持てそうにない。

 左手でナイフを扱うのは少しつたない。

<首凪姫>を使って蒼三日月を現せば、攻撃力の面では補えるがその時間マナを消費する。


 ちょっと、不味いな。


 いきなり襲われると、術の詠唱が間に合わない可能性がある。

 仕方ないとは言え、詠唱が長い……。


 この状況を改善するには……記憶の中で術を探る。


 あ、ある。


 鎮ノ祓(しずめのはらい) () 後呪印(ごじゅいん)


 刀を体内に納めた術のより上位の術。

 体内に術を納める術。


 とりあえず、取得しよう。

 マナを使いその扉を開けるべく意識を集中する。


 ……その扉は既に開かれていた……?


 そうか。

 禍津日を体内に封ずるのは、鎮ノ祓(しずめのはらい)の最上級の術。

 それを俺に行使するために、そこへと至る扉は既に開かれているのだな。


 ならば。


「我が身に封ず

 まじないしるしと成れ


 零れ落ちる記憶の残滓

 遠路の先の写し身

 爪を赤く染めよ

 唱、() 壊ノ呪(かいのまじない) 鳳仙華(ほうせんか)


 左手の人差し指と薬指と立て、術を発動する。

 直後、二本の指先に衝撃と激痛。その二本の指の爪にスッと赤い線が入る。


 封印は、出来た。

 発動は?


 そのまま指先を壁に向ける。


っ!」


 声に合わせ、術が発動し壁へと衝撃が収束。

 小さな爆発音が上がる。


 出来た。


 痛みは予想外だったけど。

 とりあえずはこれで進もう。


 術を指に宿す。

 再び激痛。


 咄嗟に術を放つために、左手は常に二本の指を立てておかなければならないことに気付く。

 仕方ないとは言え、少し使い勝手が悪い。

 常用は出来ないな。


 左手を構えながら、建造物の中を進んで行く。

 曲がり角の前で一度止まり、左手を突き出しながら飛び出す。

 そんな、まるで刑事ドラマの様な動きで。


 しかし、この機転のお陰で通路の先に敵が居てもすぐ様、鳳仙華を放てる。

 三体程、同じ様な木製の人形を倒す。

 ……弓矢を持って居たのは最初の奴だけだったな。

 残りは全て槍を持って居た。


 槍か。

 まともにかち合って、刀で勝てるだろうか。


 ……いや、真っ向から戦って勝つ必要は無いのだ。

 どんな形であれ、倒せば良い。

 マスターは、そうやって生き延びたのだ。


 ……生き延びた。

 そう、マスターは生き延びた。

 恨まれているかもしれない。

 でも、もう一度会いたい。

 会って謝りたい。

 何より自分の為に……。


 右肩の痛みは大分和らいだ。

 そして、建造物の壁に階段が現れた。


 上へ向かう階段。


 この建造物……塔か?

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