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部長と新入部員①

 試験休みが明け、徐々に明らかになる現実。

 試験結果。

 辛うじて中間の凹みは取り返した事に安堵する。


 そして、昼。

 弁当を持ってSF研の部室へ。

 そこには既に部長の姿。

 相変わらずイヤホンを嵌め、昼食を片手に参考書を広げている。


 どう切り出すか。

 それを考えながら、パイプ椅子に腰掛け、弁当を搔き込む。


 良いや。

 真っ直ぐ切り込もう。


「部長」


 掛けた声にわずかに顔を上げ、迷惑そうな顔をこちらに向ける。


「昨日、何処で何をしていましたか?」


 返事は無い。

 構わず続ける。


「溜池山王にある、レアーという胡散臭い企業。

 その関係者と会っていた。

 名はハナ・ウィラード」


 ここまでは、事実。

 昨日、歩道の上から見た景色。

 とはいえ、一瞬の事。

 確信は無いけれど。

 そして、ここからは俺の想像。


「貴方は、俺を監視するために送り込まれたラングレーのS」


 ラングレー、つまりはCIA。

 Sはスパイのエス。


「想像力が豊かね。

 その話は……いずれ機会を改めて」


 彼女がニヤリと口角を上げる。

 それと同時に昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。


 ◆


 月曜は二人とも顔を出す。

 とは言えその辺はユルユルなので大里は現れないかも知れない。明日は絶対に来ない。

 なので「機会を改めて」、と言うのはその日の放課後、もしくは翌日だと勝手に思い込む。


 当番であった掃除を終え部室に顔を出すとそこに既に大里の姿。

 部室のドアを開けた俺を見て、ニヤリと笑う。

 その向かいに見慣れぬ、いや、見慣れた人物。


「紹介します! 新入部員の夏実杏」


 そう、大里が手のひらを上に向け夏実を示す。

 はにかむように笑う夏実。


 その奥で部長は我関せずでシャーペンを走らせる。


「よろしくー」

「えっ……と、よ、ようこそ」


 予想だにして居なかった新入部員の登場。

 取り敢えず、彼女の向かい、大里の横へ腰を下ろす。


「……え、何で?」


 一拍おいて当然の疑問。


「私もちょっと本格的に取り組もうと思って」

「SF研究に?」


 軽い冗談にジト目を返される。


「……冗談だよ」

「まあ、何かあったときの情報交換の場はあった方が良いでしょ? お互い。

 クラスの中だと話しづらいし」

「御楯が拒絶オーラ醸し出してるから?」


 そんな事無い。


「アハハ。

 大里はよく踏み込んでいけるなって思うもん。いつも」


 そう言って笑う夏実。

 そこまでか?


「僕は、好きな人なら構わず近づくよ。

 それで離れないなら相手も僕のことを好きってことだろ?」


 そう言って俺に笑顔を向ける大里。


 ……え?


 今の、告白とかじゃないよな?

 とりあえず、聞き流すことにした。

 そういえば、好みは金髪らしいから、俺は範囲外だろう。


「情報交換、か。

 タブレット?」

「あ、あれは良いや」

「ん? 何それ?」


 断る夏実と存在を知らない大里。


「御楯がね、今まで遭遇した敵とか全部イラストに残してるの。

 コメント添えて。

 すごいんだけど、御楯の言ったとおりだった」

「ん? 何かあった?」

「スライムみたいな奴。

 体にまとわりついて、火傷させるって書いてあったじゃん?」

「ああ」


 去年の夏。

 俺がG Playに通い始めた頃に見たやつだ。


「違った」

「ん?」

「なんか、酸みたいな液体を飛ばして攻撃してきた」

「へー」

「ひっどいの! 服が溶けるの!!」

「え!?」


 溶かされる衣装。

 それは、異世界ヒロインの宿命……。

 なんて……けしからん!


「……なんか、にやけてるよ?」

「……大丈夫だった? それ?」


 真顔を取り繕い、心から彼女を心配する。


「白雪の裾が溶かされちゃったわよ。

 元通りに直ったけど」


 想像した様な惨事にはなってないのか。


「それで、なるほどなと反省したの。

 なので、あのタブレットはもう良いわ」


 じゃ、交換する情報とか無くね?

 大里ともG Playの話なんてほとんどしてないし。


「じゃ、僕も見るのは止めておこう。

 ところでさ、阿佐川君から誘いあっただろ?」

「ん、ああ。

 断ったけど」


 オペレーション・ハルファスの事だろう。


「一緒にやらない?」


 この前、Aが言ってた仲間とは大里の事か。


 俺は首を横に振る。

 Aは、俺を過大評価しすぎだ。

 俺がAを止める?

 何処にそんな根拠があるんだ。

 天津甕星の時に、俺は全てをかなぐり捨てあの神を屠りに行ったんだ。

 しがみつく風果を払い除けて。

 止めようとした実姫をこの手で引き裂いて。

 結局、ライデンに止められたのだけれど。

 それは、俺よりライデンが強かっただけの話。

 あの場でAが立ちはだかったら殺していてもおかしくは無い。

 それ程までに、俺は憤怒で我を忘れていたのだ。


 誘いは無理。

 そう悟ったのだろう。

 それ以上は口にしなかった。


 彼は、相手が離れないギリギリのラインを保つのが上手い。



さあ!青春の時間!

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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