爆破シーンは男のロマン
また野外か。
飛んだ先は乾いた土が砂に舞う荒野。
地の上に転がる盾。
突き刺さる槍。
鼻をつく異臭。
地の底から響くうめき声。
戦場跡。
流れた血と共に大地に染み込んだ無念。
それが、再び力を持って蘇る。
禍にまみれた者共が、溢れ出て来る。
その遥か彼方に小さな門が見える。
……良いぞ。
そう。
こう言う単純な世界で良いのだ。
戦って、勝って、帰る。
そう言う、単純な世界で。
試作品を手に地を蹴る。
ここ暫くの鬱憤を晴らしてやろう。
俺の気合いに答えた試作品の刀身が灼熱を帯び白い輝きを放つ。
その刃が武器を手に向かい来る幻影を焼き切る。
無念を全て置いて、黄泉へと向かえ。
◆
音の無い世界で朧げに掴んだ亟禱。
体の内にある力を術の扉へと流し込み言霊の力を借りずに発現する。
ただ、術の扉は無数にある。
だから、戦いの中で咄嗟にどれかを選び力を流すのは中々に難しい。
長い修練を納めた熟達者であれば、あるいは、この前の戦いの様に魔力が絶え間無く供給されていれば、もしくは禍津日の様に無尽蔵の力があれば、矢継ぎ早に繰り出すことも可能だろうが。
ただ、そのどれもが今の俺には無いものなのだ。
なので、亟禱で扱う術をまずは一つに絞る。
戦いの中で、力を流す所を一つに定め、心の内でその扉の前に立ち続ける。
そうか。
風果は、飛渡足をその一つに選んだのか。
……災難から逃れる為に。
成る程賢い。
御天の血を引くアイツならではの選択だな。
翻って俺の選択。
鳳仙華。
紅蓮の花を咲かせる爆破の術。
まあ、術としては初歩の術で、射程もさほど無い。
見た目の派手さはあるが、威力は他の術に比べ一歩劣る。
だが、これで良いのだ。
爆風に疾る灼熱と氷霧の妖刀使い・ライチ、爆誕!
さあ、亡霊達。
俺の戦いに付き合え!
◆
漆黒の鎧。
相手は巧みに手綱を操り、馬上で間合いをコントロールする。
生前であれば、俺を射竦める様な眼光を放っていたであろう、その強者の首は存在しない。
デュラハン。
首無しの騎士あるいは死の妖精。
頭上から繰り出される激しい馬上槍の連撃を捌き一呼吸。
再び距離を取った相手の狙いは突撃による串刺し。
幾度と無く繰り返されたその一撃に朧兎は耐えきれず消滅した。
だが、タイミングは覚えた。
手綱を引いた。
来る!
俺の左側から回り込む様に、右手の馬上槍を俺に向けながら突撃。
剣を構え、彼我の距離を図りながらタイミングを合わせ、左後方へステップ。
相手の死角へ。
そのまま文字通り空を蹴り三角飛びで相手の突進の威力をそのまま灼熱に揺らめく剣の餌食とする。
馬の首もろとも騎士の胴を両断。
そのまま五メートル程跳躍し、着地。
振り返らずに背後へを鳳仙華放つ。
立ち上る爆炎を背景にして立ち上がり、静かに剣を納める。
そして、カメラを一瞥。
……決まった!
まあ、カメラは無いのだけれど。
さ、帰ろう。
◆
現実へと帰還。
そうだよ。
これで良いんだよ。
程良い緊張感と達成感。
これぐらいの世界で良いんだ。
楽しむ分には。
スマホを確認。
……三日もあそこに居たのか。
まあ亟禱も扱える様になったし、成果としては十分。
レポートは次回にまとめて書いて提出しよう。
さって……帰る前に……髪切るかな。
恐る恐るハナに紹介して貰った美容室、ピエーラへ電話。「閉店間際なら大丈夫でぇす」と、いきなりの連絡にも快い返事。良い人だな。
だが、その時間までちょっと時間があるな。
折角だから、少しこの辺を散策しながら徒歩で向かおう。青山まで。
そう決めて、まずは目と鼻の先の日枝神社へお参りに。
そこへ向かう途中。
外堀通りから神社へ繋がる参道は歩道橋になっており、その下の車道はレアーが入る溜池山王のビルの地下駐車場の出口と繋がって居る。
だから、そこをテスラが走って居たらまあ、ハナかなと思う訳で。
ゆっくりと進むエスカレーターの上から何気なく目を向けたその運転席には、やっぱりハナが居て、そしてその助手席に座る人物は多分知り合いだった。
だが、確信が持てなかった。
見たのは本当に一瞬だし、二人に繋がりがあろうなんて思いもしなかったから。
あの人もレアーの関係者?
だとしたら、一体いつから?
その疑問の答えはどちらかに尋ねるしか無いのだけれど、果たしてどう切り出した物か……。




