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静寂の芦ノ湖④

 ……。


 ……。


「イデェ!!」


 首から電流に似た激痛が走った。


「次、ふざけたら本当に眠らせるわよ?」

「……すいません」


 ショタパワー、通じず!

 おかしいな。この手の女性は大抵これでOKって書いてあったんだけど。どこかに。


『たららん たららん たららんらん たららん たたらんらんらん。

 お風呂が、沸きました』


 リンコさんが、『お人形の夢と目覚め』を口ずさみながら告げる。

 ウチの風呂と同じ。


「とりあえず、汚れ落としてきて」


 アンコさんが、廊下の奥を指差す。


「脱衣所にタオルと浴衣があるから適当に使って。

 下着は……変えを用意しておくわ」

「あ、はい」


 混浴ですか?

 確実に電撃が飛んでくるであろうその言葉は言わないことにした。


 ◆


 浴場に置かれていたボディソープとシャンプーで全身を丹念に洗う。

 そして鏡を見ながら首に嵌められた黒い首輪を確かめる。

 中央、喉仏の下あたりに小さなディスプレイの様な物があるがそれに以外に繋ぎ目の様な物は無い。多分金属なのだろうけれど、材質も不明。

 外れないかといじりながら、少し熱い湯に浸かり足を伸ばす。


 やっぱり……匂ってたんだろうな……。

 今まで気にしてなかったけど服の洗濯なんてしてないもの。

 いや、でもそんな事気にしてたら生き残れないんだよな……。


 まあ良い。それより今は状況の整理が先。

 女性と宿で二人。

 まず、優先すべきは門を探す事。

 だが、話が噛み合わない。

 全く。

 彼女の言葉を鵜呑みにすると、ここは八年後。

 そして、現実とは切り離された空間。

 この建物の外で音が聞こえないのはそのせいだろうか。


 ……そんな些細な事よりも優先すべき事!

 男女が二人。

 先に、風呂に入れと言われた。


 まあ、そう言う事だよな?


 よし。

 うん。

 覚悟を決めよう。


 湯船から出て、もう一度下半身を中心に丹念に洗い、浴室から出る。


 脱衣所の床にビニールのパッケージに入ったままの男性用下着が置いてあった。

 ……使って良いんだよな?

 脱衣所に置かれていたバスタオルで体を拭き、真新しい下着を身に着け浴衣に袖を通す。


 アンコさんの元へ戻る前に、一つ確認。


「創造する手・無の化身

 紡ぐ、縦横に

 拒絶する柔らかな結界

 唱、(さん) 現ノ呪(うつつのまじない) 白縛布(はくばくふ)


 手拭い大の布が出現。

 うん。

 術は扱える。

 ここならば。


 それを頭に巻いて先ほどの応接スペースへ。


 立って俺を待って居たアンコさんはわざとらしく手に持って居た物をテーブルに置く。


「これ、使って良いから」

「あ、はい」

「私、出かけるけど、君は外に出ない事」

「え、何処へ行くんですか?

 夏実さん(・・・・)


 グラスを嵌めたままで、素顔はまだ見てないけれど、目の前の彼女は……八年後の夏実。

 過去に俺と会って居るかはわからないけれど。

 そして、リンコさんは風巻さん。


「……誰のこと?」


 彼女は眉間に皺を寄せ、首をかしげた。

 ……違った!!


「ついでに言うと、アンコじゃなくて、アンナだから。

 じゃね。もし、外に出たら……」


 彼女はストールを巻いた自分の首をトントンと指差す。

 外に出たら電撃の餌食……か。

 そして彼女は手を振り出て行った。


 消臭剤の香りのするソファに腰を下ろす。

 テーブルの上に残されたのは消臭スプレー。


『さっぱりした?』


 おおう。

 びっくりした。


「ええ」


 天井を眺めながら返事をする。


「えっと、リンコさんは何処に居るんですか?」

『私?

 東部方面軍の作戦司令室だよ。

 溜池山王の』


 この建物に居るのでは無いのか。


「監視カメラ?」

『まあ、そんな様な物。

 あんま具体的な事は民間の人には言えないの。

 ごめーん』

「はあ」

『ライチ君は何処から来たの?』

「俺も……溜池山王です」

『ほほう?

 この辺に住んでるとか、すごいね。

 ひょっとしてどこぞのおぼっちゃま?

 それがどうして一人で箱根に? 自転車旅?

 何日かお風呂入ってなかったの?』

「風呂は入ってましたよ」


 現実で。

 昨日も。


『でも、絶望的な臭いがしたって言ってたよ?』


 ……さーせん。

 アンコさん、そんなの微塵も顔に出さなかったな。

 逆になんか申し訳ない。

 取り敢えず、服を洗って鎧とブーツは消臭スプレーをかけるか……。


「洗濯機とかあるかわかりますか?」

『うん。

 洗剤も使って良いよ』


 なら、使わせてもらおう。

 俺は極力匂いを嗅がない様にして、浴室の脱衣所に置きっ放しになっていた衣類を洗濯機に放り込む。


 ◆


「あのー、外出ちゃ駄目なんですか?」

『駄目だよー。

 暇だと思うけど大人しくしててねー』

「外に出るとどうなるんですか?」

『チョーカーから電流が流れて即座に行動不能になります。

 そして、気絶した君をフォボスが見つけて襲いかかってきます。

 ああ、大変。食べられちゃう!

 でも大丈夫!

 アンコが助けに来るから!

 あっと言う間にフォボスを駆除するアンコ。

 そして、アンコは眠ったままの君をお姫様抱っこでここまで運んで来ます。

 しばらくして目を覚ました君がまず目にする物は、フォボスより恐ろしい怒り心頭のアンコです!!』


 成る程。ヤバそうだ。


「フォボスって、何ですか?」

『え? 本気で聞いてる?』

「……どうやら、本当に記憶が無いみたいなんです」


 と言う事にしよう。

 この世界を知るために。


『嘘乙』


 あっさりバレる。


『発声パターンから大体の嘘はバレるよ?

 ライチ君』

「だったら」

『うん、そう。君がフォボスを知らないのは本当ぽいのよね。

 不思議。

 よろしい。

 では、ヴェロスの広報資料を転送するからそれを見てね。

 ついでに何かおやつとかいる?』


 おやつか。


「外にコンビニあったので自分で選んで来て良いですか?」

『駄目!

 ブランチ世界の物を勝手に利用するとマージに影響あるから絶対やめてね』

「え?」


 用語の意味はわからないけど、今までより口調が強い。

 本当に駄目なのだろう。


「あの、既にお茶一本と、ビニール傘を一つ壊してます」

『うん。

 それは把握してる』

「え?」

『窓の外、見てごらん。

 ちょうど飛んでると思うけど』


 言われるままにソファから腰を上げ窓から無人の町を眺める。

 空に……小さな飛行物体。


「ドローン?」

『そう。ヴェロスご自慢の戦術航空偵察部隊!

 上空からすべての作戦戦闘行動を監視する目。

 今、この領域内を十六機のドローンちゃんが飛んでる』


 へー。


 戦術偵察部隊か。

 SF研の部室で読んだ文庫本を思い出す。

 もっとも、あちらは有人だったけれど。


『その情報を元に作戦行動を立案、指示するオペレーターが私であり、実行する戦闘員がアンコなのだ!』


 そう言ったリンコさんの声はとても誇らしげだった。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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