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収穫祭の翌日①

 天上に輝く真っ赤な大きな三日月。

 周囲に置かれた無数の石碑は墓石だろう。

 ハロウィンは昨日終わったよな……。

 足元に転がるショニンから送られて来た荷物を確かめる。


「雨乞いは涙となり果たされた

 灯火

 消えてなお、消えぬ

 唱、漆拾参(しちじゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 神寄(しき)

 喚、実姫みのりひめ

「ヴモォォ」

「はい、ストップ!」


 現れると同時にこちらに殴りかからんとする実姫に対し右手を突き出して静止をかける。


「この前は悪かった。これをやるから許せ」


 ショニンから送られてきたドライフルーツを差し出す。

 砂漠で暴れてちぎり捨てた事へのせめてもの贖罪。


「…………まあ、良い」


 数秒の沈黙の後、ガキの姿に変わりドライフルーツを受け取る実姫。

 俺が適当に作ったものと違いちゃんとカットした後に加工したようだ。

 何の果実かわからないが。


「……この前のやつが良いがの……」


 ドライフルーツを頬張りながら文句を言う実姫。

 それには取り合わず、御識札に封をする。


「食ったら行くぞ」


 周りから敵の気配が漂いだして来た。

 木片を仕舞い、左手に目を落とす。

 入れ墨が二つ。

 蒼三日月と金色猫。

 残りの一つ、陽光一文字は俺が左手に封じ損ねた天津甕星に持ち去られた。

 烏墨丸に代わる刀もショニンに言えば用立ててもらえただろうが、自分の命を預けるに足る武器なのだから自分の目と手で選びたい。

 出来れば、風果に持って行かれた大太刀に負けない様な物を。


オン


 実姫が槍を手にする。


「……それ、持ってきたのか」


 天津甕星が使っていた槍だ。

 戦いのドサクサでパクってきたのか。


「良いじゃろ。やらんぞ」

「満足に振れるのか?」

「刮目せい!」


 ほぼ、自分の二倍ほどの槍を手に走り出す実姫。

 その先に、浮かぶオレンジの塊。

 三角に目と鼻、小馬鹿にしたように笑う口元から光が漏れる。

 ジャック・オー・ランタン。


 ……ハロウィンは昨日終わったんだけどな。


 ◆


「暮れない夜

 怠惰なる夢を夢と為せ

 羽落ちるその束の間

 唱、拾陸(じゅうろく) 壊ノ祓(かいのはらい) 赤千鳥(あかちどり)


 上から飛び来る蝙蝠の群れを迎え撃つ炎。


「遅い!」


 だが、実姫から叱責が飛んで来る。

 確かに一拍反応が遅れたのは認めよう。

 だが、こちらにも言い分はある。


「術は言葉を使わないと繰り出せない。

 どうしたって出足は遅くなる」


 まあ、刀が無いのもあるけれど。


「それは、主の修行が足らんからじゃ!」


 槍を振り回し、蝙蝠を切り落としながら実姫が言う。


「何も知らない癖に簡単に言うな

 零れ落ちる記憶の残滓

 遠路の先の写し身

 爪を赤く染めよ

 唱、(いち) 壊ノ祓(かいのはらい) 鳳仙華(ほうせんか)


 術でジャック・オー・ランタンを弾き飛ばす。

 続けてもう一体。


「儂とて直毘の端くれ。

 それぐらいは分かる」

「……は?」


 実姫の言葉に耳を疑う。

 尚も迫るジャック・オー・ランタンから一歩距離を取る。


「何言ってんだよ」

「これでも御ヶ迎(みかげ)の生まれ。

 主と同じく直毘であるぞ!」


 ミカゲ……?

 何だそれ。

 そんなの、俺の設定に無いぞ。


「風止まる静寂

 溢れる鬼灯

 涙は涸れ、怨嗟は廻る

 唱、(はち) 現ノ呪(うつつのまじない) 首凪姫(くびなぎひめ)

 祓濤(ばっとう) 蒼三日月」


 少し困惑しながらジャック・オー・ランタンを狩りに行く。

 お前ら、ちょっと邪魔だ。

 とっとと一掃して、実姫を問い質さねば。


 ◆


「じゃから、御ヶ迎(みかげ)だと、そう言っておろう」

「ミカゲ……?」


 知らぬ単語に混乱する俺を他所に実姫は得意げに講釈を続ける。


「主が、亟禱きとうを使えぬのはの、それ以前に思延天しのびてが出来ておらんからじゃ」

思延天しのびて……」


 それはわかる。

 手を打ち合わせ、音により邪気を祓う禍仕訳天かしわでと違い、無音で祈り乞うことで邪気を祓う儀式。


「なるほどな……」


 そう言ってみたものの、どうにも釈然としない。

 何故、実姫はそんな事を知っているのか。


 だが、その疑問もそろそろ一旦棚上げにしなければならない時間だ。


 俺は手にした木片の出来を確かめる。

 Fの文字の頭に点を乗せた字形。天名地鎮アナイチと言う神代文字で『六』を表す一文字。

 裏には止める偏に天、ミタテの一文字。

 拾った木片に小さなナイフで彫り込みを入れた。

 そして、右手の人差指にそのナイフの刃を当てる。

 小さな痛みの後、指先にぷっくりと赤い血。

 その血を彫り込みに沿って塗り込み赤い字を書き上げる。


「石連なる先

 戻ること無い道の半ば

 孤独を残すしるべと成る

 唱、伍拾捌(ごじゅうはち) 現ノ呪(うつつのまじない) 枝折(しおり)


 術を使い、作り上げた木片に力を宿す。

 御識札の完成である。


 既に持っていた三の御識札の封を解き地に置く。

 そして、人が現れるのを待つ。

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