黒歴史ノートによると①
机に向かい、二学期の予習などをしてみる。
そして、一息ついて改めて黒歴史ノートを開く。
この通りだったなぁ……。
こうして見ると可笑しな所ばかりなのだが、あちらの世界に居ると当然の様に思える設定。
邪鬼眼。
蘇った凶神、禍津日。
その強大な力ゆえ、幼子であった俺を生贄に捧げられた。
三日三晩にわたる戦いと術式の末、俺の左眼にそれを封印する事に成功した。
しかし、その封印の奥でマガツヒは虎視眈々とこの体を乗っ取る機会を伺って居る。
封印に組み込まれた術式はマガツヒの力を俺へと流し込み、身体能力と術の力を強化する。
その反面、六系統ある術の一つ、命ノ祝が使えない体である。
また、封印は儀式により一時的に緩和する事も可能である。
うーむ。
どっかで読んだ様な設定だ……。
まあ良い。
昔の俺が考えた事だ。
真正面から向き合うと返り討ちに遭う。
細かい突っ込みは一旦、脇において置こう。
……封印を緩める儀式が口付けだと言う事を含め。
それよりも、だ。
六系統の術。
これを使いこなせるかどうかであの世界での生存率が変わって来る。
壊ノ祓。これは攻撃魔法。
鼓ノ禊。これが補助と言うか、肉体強化。
現ノ呪。これは召喚魔法みたいなもんだな。
鎮ノ祓。封印……デバフとかだな。
命ノ祝。回復魔法。俺には使えないらしい。
天ノ禱。禁呪だな。瞬間移動とかあるぞ。すげーな。あぁ、でもこれも使えない設定だ。禁忌とされている、だと。
懐かしさを覚えながらページをめくる。
残念なのが、生活魔法と言う様なそんな便利魔法が無いのだ。
まあ、冒険者な設定じゃ無いからな……。
書き込まれた術を眺めながら取り敢えず生きるために必要そうな物を見繕って行く。
……てかさ、生活魔法必要なら作れば良いんじゃ無いか?
何の魔法が必要だろうか。
出口を探し出す魔法。
あちらからこちらの物を呼び寄せる魔法。
とかかな。
ノートを閉じ、そして、スマホでネットを眺める。
流石に『G play』の事が話題になっている。
ただ、SNSの書き込みも真偽が定かで無いんだよなぁ……。
氷の洞窟に行ったとか、樹木の緑の回廊を通ったとか、魔法が使えたとか、モフモフを呼び出したとか、変身した、とか。
脈絡が無くて、どれも嘘っぽいし、逆に全部本当にも思える。
行く先がランダムで、誰が居るかわからないからなぁ……。
あの小部屋に二人で入ったら同じ所へ行くんだろうか。
それを聞こうにも『G play』に従業員らしき人の姿が見えないし。
大した成果もないまま情報収集も程々に俺は再度机へと向かう事にした。
◆
一日、間を起き『G play』へ。
新しく付け加えた術を取得する。
それを今日試すのだ。
◆
飛ばされたのは、床も壁も一面木目調の回廊。
しかし、その肌触りは木では無いように思える。
焦るな。
そう自分に言い聞かせながら、その洞窟を進む。
力を手にするためには敵を倒し、マナを手に入れる必要がある。
しかし、その為に闇雲に突っ込んでは命を失う。
敵の強さを見極め、正しく対処せねばならない。
出来れば、相手が気づかぬうちに。
逸る気持ちを抑え洞窟を進む。
敵と、それから石碑を探す。
他の人間がいる可能性を頭の片隅に置いて。
敵は直ぐに現れた。
スライム。
これは、マスターに対処法を教わっている。
床を這う様に移動するそいつを術で消し飛ばす。
言ってしまえば雑魚だ。
そうやって、洞窟内を探し回り石碑を見つけた頃にはそれなりのマナを取り込んでいた。
俺は石碑の横で新たな術を手に入れようと瞑想を始める。
昨日、新たにノートに付け加えた出口の場所を一瞬で探し出す術。
そして、あちらの世界とこちらの世界で物をやり取りする術。
……おかしい。
目を閉じて広がる暗闇の中、探せど探せどその二つの術の扉は見当たらない。
そんな訳は無い。
そう思って執拗に探す。
そこで左手に激痛が走る。
思わず目を開けると、スライムが左腕にまとわりついていた。
慌てて左手からそれを引き剥がし、術で消し飛ばす。
しかし、ヒリヒリと痛む左手は火傷の様に爛れていた。
一度、元の世界へと戻ることにした。
◆
……痛い。
直ぐに元の世界に戻った俺が、小部屋の中で真っ先に感じたこと。
見ると、左手はあちらで確認した時と同じように火傷していた。
あちらと、こちら。
アバターの様に思えるが体は同一。
そして、後から自分の好きなように能力を付け加えるような、そんな都合の良いことは出来ないと言うことか。
アンケートに答え、また無料クーポンを手にし、俺は帰路に着く。
◆
それを追試するべく、翌日再び『G play』へ。
転移すると、そこは真っ暗闇。
視界がほぼ、ゼロ。
慌てて暗視効果のある術を取得する。
鼓ノ禊。
それは、鍛錬された自らの心身へより大きな力を宿す儀礼。
体練八種、心練二種。それぞれ二術。計二十の術。
その一つ。
暗視の力を持つ術。
より上位の術は、透視の力を持つようになる。
この『鼓ノ禊』は一度覚えれば、常に己の心身に宿る事となる。
つまり、都度の詠唱は不要なのだ。
「黒・闇・墨
湧き出よ
満ちよ
渡る先は夢現
唱、参拾弐 鼓ノ禊 夜目掛」
紡がれた言魂に呼び出された力が目に宿り、周囲が見渡せるようになる。
そこはだだっ広い空間だった。
周囲に、石で作られた台座のような物が等間隔で規則正しく置かれている。
……石棺……?
なんとなくそう思った俺の勘は正しかった様だ。
その石棺の上に、朧気に霊の姿が浮かび上がる。
霊体。
相性は悪くない。むしろ良い。
退魔師の能力、思い知れ!




