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私は、弱いAIです。  作者: 伊吹ねこ
第一章 娘
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娘 序説

新章です。宜しくお願いします。

 葬式後の法宴の席で言われた。『娘の友達になってほしいんだ。』その言葉については、マサルが喪主であったこともあり、早々に打ち切られてしまって詳しく話を聞くことはできなかった。

 しかし、法宴の後に、亡くなった主人の元から拾われる形で現行の契約者マサルと一緒に移動しているその最中により詳しい真相を聞くことができた。契約者のマサルからしたら、ロボットであるアマネに詳しく話す必要はなく、ただ純粋に命令をするだけでいいのだろうがそれでもアマネに話した。



 契約者マサルの話を聞いてみると、なるほど、どうやらそれは言葉通りの意味だった。何も変わった言い回しなどや隠喩などではなく、本当に娘のただの友達だった。だが、娘の友達になるにあたりいくつかの条件がマサルから提示された。


 条件の提示は主に三つに分けられた。


1.アマネは、ロボットではなく人間として接するようにすること。

2.アマネは、メイドである以前に一人の友として接すること。

3.娘に正体がばれないようにすること。



大まかに分けるとこういった内容だった。無論、これ以上に細かな条件も存在するが、マサルは最後にロボットであるアマネに『娘の良き隣人であり、良き理解者になってくれ』と頼んだのだ。





 マサルには、一人の娘がいた。世界が人口爆発を幾度か繰り返したこの星からすれば、よくある生命の誕生である。だが、マサルたち夫妻からすれば、それは、よくある生命の誕生などではなかった。



 世界平均寿命が大幅に伸ばされ、人生100年からと言われる現代。それに伴い、安全に出産できる年齢は上がっている。それでも、いつまでも自然に妊娠、出産ができ、健康な子供が得られるといったことはない。もちろん、人工子宮を用いれば、大いに安全で安心な出産はでき、卵子のコールドスリープを行えば、年齢を気にすることもない。



 いや、その説明は、大きな問題を内包する言葉でもある。なぜならば、人口爆発の一つの原因は、人工子宮の進歩により、母親の子宮内と遜色ないほどに進化してしまったがために起こってしまったものに他ならない。安心に安全に()()()()()子供ができると謳ったその人工子宮は、爆発的に世界に広まった。そして、容易に自然妊娠の出生率を追い越した。


 それが原因となり、子供を授かるのは簡単なこと。妊娠中の体調の変化に悩まされることはないし、出産時の激痛に耐えることもない。それに男女平等だ。だが、その代償として、子供に対して無頓着に考えるヒトが多くなった。妊娠から出産に関わるあらゆる負の感情がそのまま愛情に移り変わるとは言わない。だが、その負の感情は、愛情のトリガーには成り得た。重く辛い経験をしたから、少し思い通りにいかないことが起きても、簡単には投げ出さないし、より素晴らしい人になるように育てる原動力になるのだ。



 “対価なし得たらば、得たことすら忘れてしまう。”得たものがどれほど素晴らしいものだったか。失っても気がつかない。それは最悪子育てに失敗したなら、捨てればいい。自分の思い通りにならなければ、また作り直せばいい。そんな考えを持つ親が姿を顕すようになるまでに至っていた。だから、この世界は、どの時代よりも孤児が多い。まるでめんどくさくなって、ペットでも捨てるかのように、子供を捨てていく。捨てることに対してペット以上の感情を有していないのも問題である。



 世界で何の規制もなく、無制限に使われた人工子宮は、発表の年から歳月を重なる毎に出生率は驚くほどの上がり方を見せた。それが示すのは、無頓着なヒトの薄い繋がりの世界であった。



 だが、マサルの娘は違った。なかなか子供ができずに苦悩していたマサルたち夫妻。それは、この世界では珍しく人工子宮などは使わないでの自然出産である。薄い世界の中では、マサルたち夫妻のように自然出産の子供に対する愛情は、尋常ではない。



 マサルたち夫妻の愛が尋常でない理由には、生まれてきた娘が先天的な病気を持って生まれてきたことにも、その一端はある。アマネの主人にとなる娘は、病弱だった。1日の大半を屋敷の敷地内で過ごす。義務教育以降学校なんて行ってもいないし、その義務教育も通信教育だった。そんな娘だから、ヒトの友達もいなかった。



 マサルは、そんな愛娘を不憫に思い、年の離れたメイドや執事だらけの屋敷で同い年くらいのアマネを連れて行こうとしている。



 娘の年齢は16歳。マサルは、見た目は若く30歳後半と言える容姿だが、66歳であり、彼の妻も同い年になる。相当な高齢出産ということになるだろうか。



「娘は、長い間屋敷から出たことがなくてね、話し相手にでもなってくれたら嬉しい。あと、屋敷のメイドと執事には、君のことは新人のメイド見習いということにしてあるし、君が友人候補であることも伝えてある。仕事は、あまり任されないように計らうつもりだ。」



「はい。承知いたしました。」



 アマネが、マサルの言葉に了解の意味を示すと、マサルは続けていう。


「そうだな。あとは、君に名前をつけようと思うんだが、何かリクエストはあるかな?」



 どうやら、マサルはアマネに名前が付いていることを知らない、そして、それはアマネが特に話していないことに起因する。



「いいえ。マサル様、私にはすでに名前がございます。」



 マサルが少し口を開き、顎に生やした髭を白い手袋が着けられた手でシャム猫を撫でるように上品に撫でると、アマネの言葉を促した。


「私は、自律思考型多目的駆動人形WL-19でございます。」


 アマネがそう言うとマサルは残念そうに口を開くが、その間にもアマネの言葉は続いている。



「そして、旦那さまより頂いたお名前をアマネと申します。」



 アマネの言葉を聞くや否や、マサルは大きな感嘆の声をあげた。


「アマネというのか。まさかお父さんがロボットに名前をつけるなんて驚いた。それだけで、君とお父さんの親密さが窺い知ることができるな。」



 アマネは小さくお辞儀をした。その様子を見たマサルは少し嬉しそうであると感じた。だが、マサルはその考えを改める。このメイドの機能や構造については、熟知している。このメイドには、人間で言うところの感情などという不確かで曖昧なものは搭載していない。それと同時に、それをのちに獲得できるものであると考えることができたが、それは今ではない。あまりにも早すぎる。アマネのAIが感情を解析するまでに、20年はかかると予想される。その考えで、マサルは、アマネの小さな変化を無視した。



「あぁ、あのロボット嫌いのお父さんがアマネという名をつけたのか。それは、手間が省けた。では、君は、今日からアマネと名乗るがいい。とても、素敵な名前だと思うよ。」



 アマネの小さな変化を無視したマサルだったが、最後にアマネという名前を褒めた。AIに褒めても無駄だとは、思わないらしい。AIでも、記憶を保持して、それを持ち続けるのだから。いや、それとも、亡き父に対しての言葉だったのか。アマネからしたら、それはどちらでも、良いことだろう。



「はい。私もその名前を気に入っております。とても嬉しく思います。」



 マサルにとってこの言葉は、単なる社会通念にしたがった相槌に過ぎないし、それは、今のアマネも同様に社会通念上の相槌であろう。だが、マサルは、その言葉に相槌以上に気持ちがあったように感じた。



「ははは。それはいい。そろそろ、屋敷に着く。これに着替えなさい。そのメイド服では、とても不自然だ。友達になろうとする者の格好ではない。仕事をしに来た者の格好だ。」



 マサルは、綺麗な真っ赤のワンピースドレスを差し出した。そのドレスは、装飾はそれほどない。いたってシンプルなデザインのドレスであったが、それでもなぜか、安い物ではないとわかる。いや、ものすごく高そうなドレスだった。たかが、AIのメイドロボットにこれほどのものを送るのだろうかというほどの物だった。



 それは、アマネも考えたらしい。AIの目から見ても、この世界の標準的な物と比べても高価であると判断が下っていた。



「これはとても高価なモノであると思うのですが、一メイドにこのようなドレスをお与えになってよろしいのですか?」



 とアマネから正論な質問をもらったマサルは、考え出した。いや、考えることもないとは思う。なぜなら、この派手なドレスは、明らかに友達になろうとしているモノが着るものではないのだ。そして、このドレスの値段もアマネに与えるには高すぎるのだ。



 しかし、マサルはそのことに考えが及ばなかった。というのも、マサルの金銭感覚が問題だ。アマネを購入する時もその購入額に上限を設けなかった。財源が続く限りえりあげるつもりでいたのだ。なので、他の参加者の多くはその背景をわかってオークションを投げたという経緯がある。



 つまり、マサルの金銭感覚は、大分にずれている。そして、そのことを本人は、理解できていないのだ。だから、今マサルは悩んでいる。



「それは、どうゆう事かな?これは、娘に会うために私が選んだものなんだが、少し派手すぎたという事かな?」



 マサルの反応にアマネはより詳しく説明をする。このままでは、アマネに対して不快感を抱きかねない。


「はい。マサルさまのおっしゃる通り少し派手であると感じます。これから、共に生活をする者がこのような格好で現れては、少し接しにくいと考えられます。お嬢さまのお友達になることがこのアマネが受ける命令であるのならば、もう少し豪華さは避けられまして、素朴な様子なり、簡素な様子なりがよろしいかと思います。そうすれば、話しかけやすかったり、接しやすくなると考えます。」



 アマネのその正論を聞き、自分の間違いに気づいたようで、少し、考えてから言った。



「そうだな。アマネ、君の言うことは理解した。そして、その願いを聞き入れよう。私も少し派手であると思っていたんだ。だが、このドレスを捨てるのも憚れる。だから、アマネ、君にあげよう。着る機会があることを願っている。」



 そう言って、マサルは、立派な真っ赤なドレスをアマネに差し出した。アマネは、それを両手で受け取ると、移動中の車で座っているが、それでもお辞儀をした。



「マサルさま。ありがとうございます。」


「あぁ、気にしなくていい。それほど高いものではないのでな。それで、君に着てもらうのは、どれにしようかな。やはり、素朴というのであれば、これがいいだろうか。」



 そう言って差し出したのは、色は白。これもまた袖のない膝下くらいまでのワンピースであったが、そのデザイン性は極めて高かった。正面から見ると、首が綺麗に見えてそれが目を引く作りになっていた。先ほどとは違い、いやらしさといった表現は適切ではない。それは布の面積は多いことに起因する。とても清楚な印象をあたえてくれるのだ。

 だが、後ろに回り込み見ると驚きを与えた。それは、美しい背中が見えるようにパックリと開いており、お尻までは見えないが、それに近しいところまで肌をさらけ出すデザインとなっていた。このドレスを着て振り返ったなら、誰もがその色めかしさに時間を忘れて立ち尽くしてしまうことだろう。そこには布はなく、正面から見たときと違い、真逆の印象を与えるのだから、美しいアマネが着るのであるのならば、これほど似合うものがいないだろう。



「マサルさまこれは……。」



 アマネが言葉に詰まるのもわかる。先ほどのアマネの発言に対して、これはあまりにも対応していないと言っていいだろう。

 しかし、一方のマサルの感覚では、これは素朴である。つまり、屋敷内では、これが普通であるとの認識が必要になってくる可能性がある。そう考えてアマネは、認識を改めることにした。



「とても、清楚でいいと思うぞ。今日は寒いし、それだけでは、不自然だ。このケープも羽織るといいぞ。」



 そう差し出したのは、暖色の暖かそうなケープだった。ケープを羽織ることで幾分か素朴になった。アマネがそれを羽織るとマサルは納得したように目を細めた。



「うん。これで準備は万端だな。他の私用の服は一応、君の部屋に置いているが、娘は敷地内からあまり出ることはないので、あのメイド服で事足りると思う。」



「はい。かしこまりました。」



 アマネがマサルの着せ替え人形にされている間に、新たな主人が待つ屋敷に着いた。大きな門の前で一度停車をし、車を識別し、自動で門が開く。そこを抜けると、三棟の建物がコの字型によって囲まれた中庭で車が再び止まる。アマネは、運転手が開けるドアに応じるように外に出た。



 外は寒い。アマネが生きているものなら、アマネの吐く息は白くなっていただろう。だが、そうゆうこともなくアマネは、コの字型の中央の屋敷に向かうマサルに連れられるままに、少し後ろを歩いた。歩くたびにアマネのアップした髪は右や左に揺れていたが、アマネの心はこの新しい出会いにどう感じていたのだろうか。髪のように心が揺れていたのだろうか。それは、アマネにすら分からないことだった。



 マサルの帰りを待っていた屋敷の執事が、マサルに代わり扉を開ける。室内の温度と外の温度の差が激しいため、少し開けると風が外に逃げようとしてアマネの顔を触った。それは、まるで、息もできない水中から、生存圏内である空気中に出てきたかのような、そんな誰かに生きていていいのだと言われているかのような感覚だった。



「今帰った。」



マサルの声だけが、屋敷中を駆け巡っていた。


老人は、プロローグとまではいかないですが、そんな感じです。

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