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私は、弱いAIです。  作者: 伊吹ねこ
第一章 娘
22/23

娘 Ⅻ

宜しくお願いします。こちらは、かなーりマイペースに投稿しています。

「私の名前は、ミンディ=コントロールよ。気軽に“ミンディ”と呼んでくださいね」


 ミンディはアマネに握手を求める。アマネがそれに応じ、自身の手を差し出してミンディの手を取る。


「はい。宜しくお願いしますね」


 アマネとミンディが“友達”になると、一気にその手を中心に輪は広がりを見せる。それは、この会に初めて顔を見せる“アマネ”という人間と関係を築きたいがためにこぞって近づいていくのだ。

 近づくものは番号の低い人達が顕著なのではなく、アマネと近い番号のもの、つまり、マサルとの関係が近いものの拡がりが顕著であった。


 それは、この会の目的がマサルと参加者で違うためだ。マサルは、純粋にサクラを祝って欲しいと思っているが、他のものからしてみたら、サクラのことを祝えども、ただのコネクション作成の場である。それだけの意味しか持たない。


 この時代では、外見で年齢を判断できないが為にその者の本来持っていると思われる権力・経済力・関係コネクション力を年齢から簡単に判断できない。それがこの会場にいる誰も見たことがない若いアマネというただのAIとコネクションを作ろうとしている愚かさだった。


 だが、アマネとマサルはこの場が格好のコネクションの場であるとよく理解している。だからこそ、アマネとサクラがただの友達であるということをいうことをしない。

 別にいってしまってもいいことだったが、アマネはこれが使えるのだろうと判断を下した。

 それは、マサルの命令の裏には、アマネの存在を知らしめて、そこに広がる波紋を読み取ろうということであり、敵対分子の洗い出しにあった。


 今、ここには、数百もの人が集まり、それぞれの思惑が交差する。このうちの誰もが社会という世界において、過分とも言える権力や財を占めていた。だが、その中には、自らの取り分を増やすために、相手を蹴り落とそうとする者がいることもこれまでの歴史をみれば明らかだった。



 一つ、ミンディ=コントロールという女は、この会場の誰よりも強い力を持っている。その女がわざわざ自ら下手に出て、アマネの友達になろうとしたこと、実は、とても怪しいことだった。


 アマネは、この今日のこの会場に招待されている重鎮の名前、顔とその他の特徴を把握している。


 その中で、アマネはミンディについて、話を広げるべく、ある話題を話した。


「ミンディさんって、もしかして、映画に出ていたことがありませんか?」


「……ええ、そうよ。よく知っているわね。相当、昔の話なんですけど、お若いのによくご存知なのね」


「ええ、とっても有名な映画ですもの。でも、今は、この世のどこにもその映像がないのが残念です。とてもメッセージが強い映画でしたのに」


「少し恥ずかしくなって、処分したの。でも、そう言ってもらえると嬉しいものね」


 ミンディは、さらっと言いのけたが、この全世界の映像情報を消すことを一個人がしたことにアマネは、驚いたふりをした。


「ミンディさんがあの映画を?」


「あら? ここにいる人なら、映画の映像どころか人一人をこの世界から存在していたこと自体を消すことなんて簡単なことじゃない! おかしなことで驚くわね。あなたもその力を持っているでしょう?」


 とミンディは、大きな声で言ってしまう。その言葉に笑いながら、賛同するものやそんな力があるのかと驚きを隠せないものなどの注目を集めた。


「はい、そうですね。よく考えれば、私もその力がありました。でも……、ミンディさんのように過去をなかったものにしたり、生きている人の人生をなかったものにすることなんてしません。それはあまりにも卑劣なのです」


 アマネは、ミンディの言葉を笑顔で肯定した。のちに、笑顔でその考えを否定した。ミンディ=コントロールは、アマネに対してねめつけるような視線を向けた。


「そう、なのね。あなたなら私の考えを理解してくれると思っていたのに、残念で仕方がないわ。あなたの考えはわかりました」


「ええ、私もミンディさんは、公平盛大な正々堂々とした姿を思い浮かべていました」


「ふん!」


 そう言って、ミンディは、アマネのそばから怒って立ち去った。ミンディの考えに賛同する人たちがミンディの後を追った。

 その様子をアマネは、記録した。


「アマネさん。あんたよく言ったよ。ミンディ=コントロールって奴は、なんでも思い通りにしようとする女だ。ああ言ってくれてスカッとしたよ」


 と、アマネの周りに止まる人たちもいた。それは、歴とした反ミンディ派だと誰から見てもわかってしまうことだった。


 世界一の権力者の催し物で、優先順位1位のアマネが2位のミンディほどに力があることをアマネが示したことで、反ミンディ派が大きく己の立場を示すことにした。


 この会場の内で、歴然と三つの派閥が生まれた。


 一つは、ミンディについていった。ミンディ派閥。

 一つは、アマネのそばに集まってきた。アマネ派閥。

 一つは、そのどちらにも属さない、傍観派閥。


 今、荒く分けると、三つの勢力がこの会場内に存在している。

 アマネは注意を払わなくてはならない。


 ある程度の派閥が生まれると、それを察したマサルは言葉を発した。


「さあ、これからが楽しくなりましょう。オーケストラも用意しました。ダンスなどをして、過ごされますよう。サクラも化粧直しから戻ってきます。ダンスに誘ってくださいませ」


 総勢100人ほどのオーケストラがシックな音楽を奏でる。奏で始めると、サクラが衣装を変えて戻ってきた。シックな音楽に合うように、真っ白なドレスに身を包まれており、まるで一輪の純白のバラのように儚いながらも力強く訴えかけ、引き込む。サクラを見るものは、息をするのを忘れた。


 シックな音楽が鳴り響いているのに、誰もダンスに誘おうと動き出さない。いや、誰も動き出すことができなかった。誰もサクラをダンスに誘うことができなかった。

 なぜなら、サクラが見つめているのは、ミンディだったからだ。


 一人動き出していたミンディ=コントロールを会場内のヒトたちは固唾をのんで見守った。

 その様子に反感を持つ者がいる。もちろん、アマネ派閥のダンディな男だった。


「アマネさん。ミンディが先にダンスに誘っているようですが良いのですか?」


「ええ、もちろんです。私は、ほどほどに新参者ですので」


 女なのに、女をダンスに誘うの? と言う疑問はここでは無意味なものだ、疑問にもつことはない。ここでの主役は、サクラであり、それ以外は脇役でしかない。主役と踊ることは、この催し物での最大の誉れであり、最大の宣伝効果を呼ぶ。自らの力の誇示をするのだ。


 ミンディは、サクラに手を差し出す。


「サクラさん、お久しぶりです。体の調子はどう?」


「ミンディおばあちゃん、お久しぶりです。最近は、とても気分がいいんです。ミンディおばあちゃんのおかげです」


「うふふ。それは、本当に良かったわ。あなたが元気で、楽しく、その最後を迎えられるのなら、私は、泣きながら笑ってあげましょう」


 ミンディの手をサクラは取った。


「ええ。今がとても楽しい」


 サクラとミンディは、言葉を話すよう踊りを踊る。それは、緩やかに、流れるように息を潜め、息を合わせ踊っていた。

 二人の踊りと会場に流れる音楽が完璧に調和した瞬間、会場は再びサクラの虜になる。


「ああ、サクラ。今、あなたは他の誰よりも美しく輝いています」


 アマネは、サクラをそのまま記録した。いつでも思い出せるようにと¬¬¬————。


 会場を支配しているのは、喜びの感情だろうか。悲しみの感情だろうか。楽しみの感情だろうか。それとも、怒りの感情だろうか。たくさんの色が会場に彩を与えた。


 二人の踊りで鮮やかに彩られながら、二人の踊りが終わった。会場の男たちは、色めき立った声のように色のついた拍手を二人に送った。


 サクラとミンディがダンスを終えると、サクラは次にアマネと目を合わせた。

 アマネは、それを指名と受け取って、ミンディと入れ替わるとようにサクラの前に立った。


「お誕生日おめでとうございます」

「うふふ。ありがとう。私は、今年はアマネと二人で過ごしてもいいとお父様に行ったんだけど、無情にも否定されたわ」

「私は、今の時間を独り占めできるだけでも、嬉しいですよ」

「そう言ってくれて、嬉しいわ。————さあ、踊りましょう。私とあなたを見せつけたいわ!! 素晴らしいあなたのことを!!」


 サクラがアマネの手を取った。

 先ほどの踊りとは、打って変わり、サクラとアマネは、本当に楽しそうに踊った。

 それに合わせて、オーケストラの指揮者は、先ほどまでの、ゆったりと体の周りを掠めていくような心地よい音色から慌てて曲調を変えた。二人の踊りにあわように、軽快に、早く、若々しい曲を選んだ。


 サクラが踊っていた時の顔は、この会場の誰もが初めて見る顔だった。これほどとは、と誰もが思った。それほどにサクラとアマネの仲の良さが確かなものだったと誰もが感じていた。

 なんと言って、ミンディと踊っていた時よりも生き生きと踊っているのだ。傍観派閥の幾人かがアマネ派閥に動く瞬間でもあった。

お楽しみいただければ、幸いでございます。

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