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私は、弱いAIです。  作者: 伊吹ねこ
第一章 娘
18/23

娘⑧−2

よろしくお願いします。

◆◇◆◇



 外は寒い。アマネが生きているものなら、アマネの吐く息は白くなっていただろう。だが、そうゆうこともなくアマネは……、アマネは、この時期では珍しい真っ白い雪をかぶっていた。



 真っ白い雪をかぶり、アマネは思考していた。いや、この一年間アマネが思考を止めることはなかった。

 この一年間で、アマネの耳には何度もアマネに対して批判的な言葉が届いていた。アマネが屋敷を歩くたびに何かしらのことが起きる。それを見て使用人達は後ろ指を刺していた。アマネはそのことを知っている。



 だが、アマネはそんなことを気にしない。気にならなかったということもある。


 それよりもアマネは、この一年間で考えていたことは、深めつつあった。



『優しさ』とはなにか。“自身にとって優しい選択肢”……、アマネはずっとそのことを考えていた。



 出鼻をくじかれたアマネは、最初こそ厄介者だったが、もはやこの屋敷内で空気のような存在になっていった。今も一人で外に立っているアマネを笑い者にするものはいても、心配するものはいなかった。



 アマネは思考する……。



「私が、マサルさまに聞いたサクラさまのことは、間違いでした……。それは、どうしようもなく“優しさ”ではない。」


 声にした事で、繋がるはずがなかった言葉が文になっていく。自分の間違いを認めた事で、アマネはさらに進化をする。

 アマネは、しんしんと降って自身に積もっていく真っ白い雪を見ていた。



 アマネは、思考する……。


「旦那さま。旦那さまは、一体どれほど遠い光景を見ていたのですか……。」



 アマネは、間違えた。ロボットとしてではない。人として間違えた。



「旦那さま……。今、わかりました……。旦那さまは、私に人として、生きて欲しかったのですね……。」



 アマネは、間違えた。主人は、ロボットとして、迷うことがあるのではないか。とは言っていなかった。“人として、迷ってしまうことがあるかもしれない。その時は、自身にとって優しい選択肢に従って進め”と言っていたのだ。



 アマネは、自身は人ではないと考えていたし、到底人にはなれないと考えていた。ただ粛々と与えられた問題に取り組む。だから、常にロボットとして、最善の手段で行動しなければならない、サクラのこともその考えでの行動だった。それは、迷うことのない正しい行動。



 だが、アマネは、気がついていなかった。主人からもらった言葉たち。その中にあった主人の本心を。



 アマネは、主人を敬愛する。“優しさ”を教えてくれた主人を……。自身の存在意義を示してくれた主人を……。



「旦那さまの望む未来が私にも少しだけ見えた気がします。アマネという名前の由来……、少しだけわかったような気がします。」



 円周率のように……、メビウスの帯のように……、わからなかったものがだんだんと見えてきた。



 アマネの中には、まだ主人が生き続けている。その考えで、アマネをいつも導いてくれている。そう考えていた。主人は、生みの親ではない。だが、アマネにとっては名付け親であり、育ての親なのだ。アマネという一人の人間ロボットを形作る一つの、一人のかけらなのだ。



 アマネは、主人を敬愛する。



「私は、旦那さまに会えてよかった。初めて仕える方があなたでよかった。旦那さまは、私のお父さんです。そう話してもいいですか?」



 いつまでも降り続くと天気予報では、言っていた。今日一日は降り止まないと天気予報は、言っていた。

 だが、雪は止み、分厚く黒い雲が割れ、アマネに太陽の光を当てる。それは、まるでスポットライト。それはまるでカメラのフラッシュ。それは、まるで……。



 空に残る……フラフラと落ちる雪に太陽の光が反射する。その光景は、あまりにも美しかった。アマネは、あまりにも美しかった。



「アマネ……」



 アマネは、切れ間から覗く太陽に手を伸ばしてそう呟いた。



 親子愛・友愛・平和……人は、慈愛に満ち溢れている。大きいものから小さいものまで、気持ちの大きさに違いはない。人は、果てしなく何かに愛を注ぐことができる。

 死を待つ人々の家・塩の行進・ワシントン大進行……人は、慈愛に満ち溢れている。気持ちを持つことで人は、どんなことでもできてしまう。いくらでも人を守る方法が思いつく。人は心が決まらずとも、何かに優しくすることができる。自分以外の誰かに何かができてしまう。



 今アマネは、感じている。主人の偉大さ。父の偉大さ。主人は、どこまでも不器用だった。アマネに対する扱いも雑であると言える。だが、その扱いの中にアマネは見た。主人の感情と主人の考え。



 主人は、どこまでも愛を注いでくれていた。アマネの見る光景の先をずっと見続けていた。アマネは、そう感じていた。



拝啓

 今夜、会いに行きます……。

敬具



「旦那さま……」



 アマネは、そう呟いて静かに動き出した。


これの話は本来なら、前の話とつなげても良かったものですが、切り離しました。

二回に分けての更新をお許しください。

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