にゃみ
あれから何日か日がたって、
ご主人はデューイに近づかなくなった。
王宮、とやらにつれていってもらえなかったけれどデューイの護衛とやらは辞められたらしい。
忙しそうにご主人は動いていたけれど、にゃあもはご主人が嬉しそうにしているから幸せだった。
「にゃあも、明日からはエリザベートお嬢様の護衛だ」
のんびりと幾日かぶりにソファに座った身軽な彼とじゃれあいながらご主人はこちょこちょとにゃあもの髭をくすぐった。
「この前な、デューイ皇子に言われたよ。何故辞めるんだってな」
「にぁあ」
こういう胸がスッとするような感覚は人間で言うと、ざまぁとか言うんだっけ?
「国王様にはな、謝られたよ。本当は爵位もすぐに用意できるし騎士にもなれる、デューイ皇子がたったひとりのSSランク冒険者を護衛につけたかっただけの我が儘だった、ってな」
にゃあもは知っていた。
ご主人はとってもつよい。
くにとか、騎士とか、貴族とか、よく分からないけれどご主人は魔法やらをつかわなくてもとっても強いのだ。
メルシアのために騎士になりたかったご主人は、にゃあものために冒険者をやめた。
にゃあもは自分ではただの猫だけど、本当は猫じゃなくて黒天治癒猫とか言う珍しい猫で冒険者のなかにはにゃあもを狙うやつもいるから、一緒にいないときに狙われたら困るから。
小さかったにゃあもはなにもできなかったから。
「でもにゃあもはとても強くなった。もう騎士にならなくても、冒険者じゃなくても、花屋でもにゃあもは大丈夫だ」
ご主人といれないのは寂しいし、離すつもりもない、エリザベートお嬢様が卒業したらお嫁にいったら花屋を継ぐメルシアを支えるんだ、とご主人は言った。
それはとても幸せだろうなぁ。とにゃあもは喉をゴロゴロさせながら思った。
「エリザベート、お前との婚約を破棄する。」
卒業パーティーとやらでエリザベートの側にくっついていたご主人が拳を握りしめていた。
エリザベートが駆け寄ってくるちんまい男に触れられそうになっても
ご主人はエリザベートとちんまい男の間に入って堂々と拳を握りしめて怒りに震えながらたっていた。
「・・・何故ですの?」
「さくらに対する暴言や、いじめの数々とても許せるものではない」
デューイの隣に立って寄り添う黒い髪のメスがサクラだろう。
とても嫌な匂いのする雌だった
ご主人が飲むさけや、小さい頃ににゃあものためにとご主人が買ってきた薬より、何倍も甘くて腐り落ちそうなバミューラのはなより嫌な匂いだ。
「・・間違ったことはいっておりません。苛めなども心当たりがございません。」
「さくらが嘘をついていると?」
「・・・皇子にはいまは何を言っても無駄なようです。またしかるべき時に両家でお話し合いの場を設けたいと思います。皆様、パーティーを続けてくださいな。」
エリザベートはとても大きく、水もたらさず、綺麗な布を翻してで会場から出ていった。
ご主人もそれを追いかけて、デューイはなんだか逃げるのか、とか喚いていたけど
静まってひそひそ話をされる中偉そうな髭を蓄えた人に呼び止められて何処かへつれていかれた。
「にゃあも、どうなるんだろうなぁ。」
ご主人は少し落ち込んで小声で僕に話しかけた。
にゃあもは猫だから
大きくも小さくもなれるし怪我も治せるけど
エリザベートは傷ついて血を流してるように見えるのににゃあもにはなおせなかった。
「なんたることよ・・・。エリザベート。」
広い広い部屋で俯いているエリザベートと、少しばかりエリザベートと似た雰囲気のエリザベートのお父さんだと言う人はいつもならにゃあもに優しく話しかけるし、お菓子もくれるのに今はとっても怒っている。
エリザベートはとっても痛そうで小さく小さくなっているのを心配していてそれでもとっても怒っている。
「申し訳ありません」
「エリザベート、謝るでない。ぁんのバカ皇子が!!!!」
雷が落ちたように、怒りのままに机に叩きつけた拳は真っ二つに机を割った。
にゃあもは思わず毛が逆立ったけど、ご主人が震えている手で宥めるように撫でてくれた。
「申し訳・・」
「いいんだエリザベート。大丈夫だ。お父様に任せなさい。辛かったろう。今は休みなさい。」
エリザベートは俯いて、小さくなっているのに水をこぼしながら部屋を出ていった。
怒りで何倍も大きくなったお父さんにまた、と言われてご主人様もにゃあもを肩にのせて
家に帰った。
「にゃあも、しばらくは休もう」
ご主人は優しく優しく撫でてくれたけど、にゃあもはなんだか胸がざわざわと落ち着かない気分になってお気に入りの寝床に入ったのに中々眠れなかった。