にゃあ
にゃあもは、久しぶりに小さくなることにした。
にゃあもはただの猫だけど他の猫ができないことも少しはできる。人間の言葉を分かること、小さくなること、少し大きくなること、そしてご主人の怪我を治せること。
少しだけだけどご主人は、それを魔法だと言って驚いたし喜んでくれたこと。
「今日はにゃあもはいないのか」
ポケットに入ったにゃあもに、いけすかない声が聞こえるけどご主人はポケットに入ったにゃあもに気づかれないように
いつだってそっとなでてくれる。だからたまに小さくなるんだ。
「今日はお母様に呼ばれている。授業が終わり次第馬車に乗るのでお前はそこまでだ」
「はっ」
ご主人のことをお前と呼ぶのもいけすかないが、ご主人がなにも言わないからにゃあもはご主人のポケットであくびをする。
今日はマリーにゃんと会えるといいなぁ、エリザベートが水をこぼしてなければいい、ご主人もメルシアと喧嘩しないといいなぁと思いながらご主人の温もりを感じながらポケットで寝るのだ。
「・・メルシア」
「あら。どうしたの?」
「今日は早く仕事が終わった。食事でもどうかと思って・・」
「ふふっ、少し待ってて」
「ぁあ、あとこれを花束にしてくれないか」
「サーベラね、私の好きな花」
「贈り物にしたいんだ。」
何やら頭上でご主人の低い落ち着いた声が耳に心地よく落ちてくる。
いつの間にかメルシアのところに来ていたらしい。
デューイの顔を見なくて良いなんて得したような気分になるけど、ご主人のデートを邪魔するわけにもいかない。
「どなたに送るのかしら?」
「・・愛しい大事な俺の恋人に」
「まぁ・・・」
何やらからだがむず痒い。
気持ちいいはずのご主人の声が蜜飴が体に引っ付いたときみたいに煩わしいのは何故だろう。
二人が仲良くしているときに時々このようなことになるのがにゃあもはいまいち分からない。
バリバリと毛繕いをしたくなるのだ。
「わっ、にゃあも!」
思わずポケットでバリバリと耳の裏をかいているとご主人が慌てたのか振動に揺れる。
「あ、マリー呼んでくるわね」
ふむ。甘ったるい空気もどこかにいったようだし、外に飛び出してお日様を眺めながらマリーにゃんを待つことにしよう。
「にゃあも、起きたのか」
大きくなったにゃあもをご主人は撫でてくれるけど
少しばかり焦ったような気まずいような声だったのは気のせいだろう。
にゃあもはただの猫だから。よく分からないのだ。
「にゃう」
今日も美しい毛並みでお日様を浴びて光っているようなマリーにゃんは、使い魔というらしい。
メルシアの。
元々はその豊かな毛並みもここではない寒い所からメルシアに召喚されて一緒にいるといっていた。
八丁目で花屋をしているメルシアは、魔法が少し使えるまさに才色兼備だ、とご主人が美味しくなさそうな酒をのみながらなにやらにゃあもにいっていた。
ご主人は魔法をそんなには使えない。
それがとても嫌で、気にしていた、とご主人は言うけれどにゃあもは別に自分が使えるものも使えないものもご主人が嬉しそうに笑うからそれでいいのだ。
人間とは全くもってよく分からない。
「んなぁー」
「にゃあー、にゃあ、みゃぉん」
マリーにゃんは、とてもかわいい。
いつだって幸せに気持ちになるし、隣を歩いていて五丁目のボス猫にからかわれたって守ってあげたいと思っている。
だからメルシアとご主人が幸せでいられれば
マリーにゃんとにゃあもだって幸せなのだ。
とっぷりとお日様が闇にのみこまれて少しだけ気温が下がった時間になってご主人が久しぶりに喧嘩をせずにメルシアとお別れ擂るときに
ご主人は意を決したように真剣にメルシアに話し出した。
「デューイ皇子の護衛を辞めようとおもう」
「えっ?」
「俺はあまり学がない。魔法だって身体強化だけで、騎士にしていただけると約束もしていただいていた。」
「・・なら、どうして」
「・・・ゴディス家で雇ってくださると、今よりも良い条件で。」
「エリザベート様のお家?」
ご主人はよく分からないけれど、冒険者の時に頂いた重そうな勲章の数々は本来とっくに騎士になってしかるべきものであり、本来ならばデューイ皇子の護衛は関係なく爵位がもらえるはずである、そして騎士になりたいと思ったのもメルシアと一緒になるためでメルシアを失う危険性がある現在は全く本末転倒である、と説明していた。
「そんなに私のために」
「本当は、騎士になり、しかるべき時にプロポーズしたかったが俺は君以外いらない。だからもういらないと思ったんだ」
「私は、騎士なんてならなくてもあなたが好きよ」
「小さい頃にパレードで、メルシアが騎士をかっこいいと言っていたから・・」
「ふふっ、小さい頃のはなしじゃない」
耳が痒いにゃあ。
にゃあもはなんだかよく分からないけどやっぱり蜜飴が体にへばりついた気がしたけれど
マリーにゃんが隣にいるから毛繕いもできずくらい闇のなか重なりあった二人を見ていた。
にゃんだかにゃあ。