ご主人との日々
にゃあもは特に何てことのない、黒い毛並みが艶々で誇らしいただの猫である。
ご主人にもらった赤い首輪もとても気に入っている、使い魔でもなんでもないただの猫である。
「にゃあも~」
この現在変な匂いを撒き散らせている無駄に立派な体つきのご主人を少しは好きでいるし、人間で言うところのさけと言うものに溺れて息が臭くても多少我慢するのも仕方ない程度には普段は良くしてくれている。
「にゃあー(ご主人たらばかだよね~)」
抱きつかれながら思わず遠くを見てしまう程には、うんざりするがどうやら好きな人とまた喧嘩をしたとかなんだとか言う愚痴に付き合うのも別に嫌いではない。
「慰めてくれるのかにゃあも!」
検討違いも甚だしい。
伝わらないのはいつものことだが。
そのまま一層強く抱き締められながら眠りに落ちたご主人をみながら今日という1日をことを思い出した。
「貴方はなんだっていつもそうなの」
あれは、お日様がらんらんと真上で輝いていた絶好の日向ぼっこが気持ちいい時間帯、八丁目のマリーにゃんと塀の上でデートしながらご主人たちを眺めていたときのことだった。
揺れる金色をぼんやり太陽みたいだにゃあ
と思いながらご主人のつがい(候補らしいがよくわからん)と楽しげにデートをしていたのに、いつの間にやらご主人とそのつがいらしきメスが口論になっていたのだ。
「なんだってあのこばっかり構うのよ?!」
「メルシア、何度も説明しただろう」
「・・・ええ、そうね」
「仕方ないんだ!仕事「貴方は仕事と言うけどね、私がなんて言われてるかわかる?お母様やお父様に貴方との婚約は本当に大丈夫かなんて聞かれてる私の気持ちも少しは考えて欲しいわね」・・すまん」
金色をふわふわさせながらつがい候補はさっさと帰ってしまった。
それを追いかけたつがい候補の使い魔の白い毛並みの青いお目がチャームポイントなマリーにゃんも申し訳なそうに帰ってしまった。
にゃあもも少しがっかりしたのである。
元はと言えば赤い毛が素敵な無駄に体がデカイご主人が悪いのである。
このくに?の偉い人の子供であるデューイを守るのが仕事のご主人は立派な仕事についているらしいが
やたら大きくて、ちんまい子供たちが通う学園とやらに通ってからご主人もついていくしかなく
そこでそのデューイがつがい候補がいるのに他のメスにアピールしているものだから、ご主人もついていかねばならず取り巻きのようになってるのがご主人のつがい候補のメルシアは気に入らないらしい。
「にゃふー(人間はよくわからんにゃあ)」
ご主人の赤い毛を前足でちょいちょいとお仕置きとばかりにパンチしてからにゃあもは、専用の寝床に入る。
マリーにゃんとの市街地日向ぼっこデートを思い出しながらにゃあもは眠りについたのだった。
「おはよう、にゃあも」
今日も昨日の変な臭いをおとしたご主人は、やたらとじゃらじゃらなにかをつけた服を着ながらにゃあもを肩に乗せた。
にゃあもはご主人の肩に乗るのが好きである。
ご主人目線で見れる景色はとても普段とは様子が違うし、デューイの頭のてっぺんまで見下ろせるのも悪い気分ではない。
デューイは昔から好きではない。
ご主人とデューイがあるいてると、人間のメスの声がきゃいきゃいとうるさいし、デューイは甘い蜜花のような匂いを撒き散らしてるし、何よりも雌好きでご主人とメルシアの時間を邪魔するのもにゃあもの勘に触る。
一度かおを引っ掻いてやろうと何度も隙を狙っているのにご主人が辞めてくれ、と言うからやめているのもなんとなくいやだ。
「今日もにゃあもがいるのか」
何よりにゃあもを見る目が嫌だ。
そこら辺のネズミを見るような、取るに足らないものを見るような気持ち悪い目で見るのが癪に触る
「にゃあもと共にある、と言うのが雇用の条件でしたので」
ご主人はにゃあもをとても大事にしてくれている。
まだ歩くのが儘ならないときだってにゃあものために仕事を辞めて一緒にいられる仕事を探してくれた。
すごうでの冒険者とかなんとか言われていたらしいご主人様が、今このいけすかないデューイといるのだって
にゃあもと共にいれるために冒険者をやめて偉い人に雇われたからだ。
だからにゃあもは我慢するのだ。
例えデューイの顔を自慢の爪で引っ掻いてやりたくても、マリーにゃんとのデートを中断しても、メルシアの味方を心ではしていても我慢している。
「ふん、今日もサクラと出かけるからついてくるように」
「・・・分かりました。」
サクラとやらにデューイは夢中だ。
一時のにゃあもが小さくてご主人の手のひらくらいの時のように、べったりとついて回って離さない。
それをデューイのつがい候補のエリザベートがいつも注意するのが最近のお決まりで
にゃあもは少しも面白くない。
今だってサクラに駆け寄ったデューイをたまたま見かけたエリザベートが大きな目を水で貯めて滑り落ちるんじゃないかと思うほど大きくさせてうつむいてどこかにいってしまったのに気付きすらしない。
「にゃあ~」
ご主人ちょっといってくるー、とエリザベートを追いかけるのだってデューイは気付かない。バカであほでどうしようもない。
「にゃあ~」
エリザベートを追いかけて、足に体を押し付けるとエリザベートはいつだってふわふわの毛を軽く撫でる。
哀しそうに目から水を垂らしてにゃあもに語りかけるのだ。
「・・にゃあも、いつもごめんね。」
そしていつも謝るのだ。
エリザベートはいい人間だ。
撫でる手は温いし、ご主人よりとても小さいのにたまにとても大きくみえる。とてもきれいだ、と周りのオスが褒め称えてるし、彼女こそおうひに相応しいといつだって誉められてる。
でもたまにすごくすごく今みたいなときは
にゃあもの小さいときみたいに小さく見える。
「デューイ皇子は、サクラさんがとても好きなの。この国の未来を背負っていらっしゃるお方で、私とのことも国との約束であって、気持ちまではどうにもできないわ」
エリザベートはにゃあもを膝にのせて優しく撫でながらいつだってそう言う。
エリザベートが頑張って勉強したこと、苦手なダンスも痛い足になりながら学んだこと、ほんとはとてもサクラが羨ましいこと、だっていつだって優しく撫でながら話してくれた。
にゃあもはただの猫で、少しばかり他の猫からは変わっていると言われるけれどなんにもできないのに、エリザベートは話すのだ。ご主人にさえ見せないようにしている秘密を。
「ありがとう。にゃあも。私授業に戻ります」
そういって胸を張って、ご主人より大きいようにまっすぐ歩いていくエリザベートはとても眩しい。
間違ってもデューイなんかには似合わないけれど
それは仕方ないんだろう。