感覚表現は難しい
はい、今回もよろしくお願いします。H20/Lightでございます。
今回は文章表現について、一つ。
よく言われている事ですが、小説に奥行きやリアリティを出すには、視覚以外の、つまり、聴覚・嗅覚・味覚・触覚の情報を提示すると良いらしいです。
そういったこともあって、『ぼくらの、「新世界」を創ろう』でも、所々で視覚以外の表現を出しておりますが、ただ、上手くいったかというと何とも言い難いですね。
そもそも慣れていないと視覚以外の情報を扱うのって難しいです。圧倒的に語彙が足りなくなって、同じ表現ばかり使うことになってしまい、逆に陳腐な感じになってしまうこともあります。
そんな時に役立つのが、これ、『感覚表現辞典』 パンパカパーン
東京堂出版から出ていて、項目ごとに文学作品を中心とする言語作品から集めた凡例が記載されています。読み物としても面白いので、興味がある方は読んでみることをお勧めします。
ただ、これじゃない感も否めない。実際の作品から凡例が出ている以上、そのまま使うとパクリになっちゃいますし。なにより、やっぱり視覚表現が多いのです。困っているのはそこじゃないんですよ。
まあ、もともと視覚的な言葉の方が、他の言葉より多いのでしょうね。人間の感覚は約8割を視覚に頼っているらしいですから、当然、視覚的表現はより多く、より詳細になったのでしょう。
それから、あまり困らなかったのが聴覚です。まあ、人間は音を聞くことを娯楽にしてしまうくらい、聴覚も繊細ですから、表現が多様化するのもわかります。
厄介なのが、触覚・味覚・嗅覚、こいつ等です。これらの三つの感覚って、視覚・聴覚に比べて、語彙が圧倒的に少ない気がするのです。嘘だと思う方は、試しに擬音語や「~の」、「~の様な」を使わない表現を考えてみて下さい。各感覚で10個以上の言葉が浮かんだら、相当なものだと思います。
例えば、触覚。ここでは触覚を含む皮膚感覚全般について考えましょうか。
皮膚感覚は代表的な所で、触覚・圧覚・冷覚・温覚・痛覚などがあるそうです。なので、直接的な表現としては、「滑らか」「重い・軽い」「冷たい・熱い」「痛い」とこれらの強弱などが皮膚感覚の表現です。個人的には「湿りけ」なんかも皮膚感覚かと思っておりますが。
結構、多いとお思いかもしれませんが、視覚なら色だけでも相当数あることを考えれば、雲泥の差です。「赤と青を混ぜ合わせた色」なんて書かなくても、「紫」を使えば良いですが、「血行障害を起こすほどではないが、確実に重いと感じる」という部分を表す直接的表現はありません。
むしろ、触覚はまだマシな方で、味覚と嗅覚は本当に言葉が少ない。
味覚は、厳密に言うと、「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」「うまみ」の五つしかありません。これ以外の感覚は、舌触りか嗅覚で感じている風味ということになります。
私が一番困ったのが嗅覚で、「香ばしい」「芳しい」「鼻につく」「臭い」「刺激臭」「死臭」「血生臭い・生臭い」くらいしか浮かびません。まあ、臭い系は案外汎用性が高いかもしれませんが、良い匂いを表現する直接的な言葉が少なすぎます。
かといって、嫌な匂いばかりを作品内でさせる訳にも行きませんから、間接的な表現として「~の」、「~の様な」という言葉を利用することになるのです。でも、
“雨の匂いがする。外に出ると、やはり、雨が降り出していた”
って、「雨」がかぶっちゃって、あんまりしっくりこないのです。まあ、この辺りは腕を磨けということでしょうか。
ということで、今回は、感覚表現、特に味覚・嗅覚の表現って、語彙が少なくて難しい、という話でした。
読者様を驚かすような、もっとアクロバッティックな感覚表現をしたいものです。




