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青い海、黒い海  作者: 石森ライス
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話し合い


午後の授業は休んだ。昼休みの終わり間際に僕はジャージを取りに教室へ戻るとクラスのみんなの視線が


突き刺さったが、このままの状態では授業を受けられない。再度屋上へ上がり、ジャージに着替える。制


服は汚水の臭いでとても家に持ち帰れるものではなかったので、屋上に備え付けられていた水飲み場の水


道でひたすら洗っていた。その間に僕は考える。なぜ奴らはあんなことをするのだろうか。


僕はてっきり僕とアヤの関係を引き裂きたいのだとばかり思っていた。アヤは“美しすぎる”。だから幼馴


染である僕を排除して、あるいは情けない奴だとアヤに思わせて自分たちがアヤに近づけるように僕を攻


撃していたのだと思っていた。けれでも、さっきの大輔の捨て台詞からはアヤすらも標的にすることを匂


わせている。それでは本末転倒だろう。原因が別にあるとしてそれは一体何なのか。制服を洗っている間


ずっとそればかりをかんがえていたけれども僕にはどうしてもわからなかった。




わからなかったから、僕は直接大輔に聞いてみることにした。




「大輔」


僕は放課後、沖田大輔に声をかけた。6時間目の終了後ホームルームが終わった直後だった。石田と須郷


は別のクラスでまだ教室にはいない。僕は午後の授業を休んだこともあり、一人ジャージだったことも手


伝って奇異の視線にさらされた。アヤはいないようだった。


「気安く名前で呼んでんじゃねえ」


僕の方に振り返った大輔は叫ぶようではなく、獣が低く唸るような、威嚇しているような声だった。ここ


で言い合いになっても話がすすまないので、大輔の威嚇を僕は無視した。


「今から屋上で話し合おう」


「はっ? 何言ってんだおめえ」


「僕にはお前の考えがわからない。わからない以上、問題に触れるべきではないかもしれないけど、僕の


個人的なことを言わせてもらえればもううんざりだ。“他人”に迷惑もかけたくない。だから早急に問題を


解決したい」


「意味がわからねぇ。おめえ、何様のつもりなんだ?」


「だから、問題を解決したいといっている」


「それがわからねえつってんだろ!」


今の大輔の声は今までとは異なり、クラスどころか1フロアまるまる響くような大声だった。それにつら


れて同学年の生徒もこのクラスに集まりだした。大衆の注目にさらされる。大輔もこの状況が気まずかっ


たのか、いったんは申し出を引き受けた。


「わかった。屋上だな。じゃあ10分後に来い。ただし、おめえから言い出したからには怖気づいて逃げ


るんじゃねえぞ」


なぜ10分後なのか、なぜ脅し文句をわざわざつけるのかは見当がついた。つるんでいる2人を呼び出す


つもりなのだろう。無論こちらとしても3人別々に話をつけるのは面倒だったので好都合だった。いった


んその場は解散となった。




「大丈夫なの?シュウ、わざわざ人気のないところを選んで」


騒ぎに気付いたのか、いつの間にかアヤが隣にいた。


「大丈夫だ。別に屋上に監視カメラがないわけじゃない。そんな簡単には暴力に頼ってこないだろうさ。


それよりも僕は話し合いが中断される方が嫌だ。やるからにはきちんと決着をつけないと」


「シュウは話し合いになるとでも思ってるの? アイツらに話し合いなんて平和的なことが通用するはず


ないじゃない!」


「それを通じ合えるようにするのが、僕にできる対抗手段さ。暴力はてんで苦手だけど、話し合いという


土俵ならなんとかなるはずだ」


「できるわけないじゃない! リンチされるのがオチだよ。それよりも先生を呼ぼうよ。これはいじめな


んてレベルじゃないのよ、犯罪よ。私たちの手に負えるものじゃない」


「いいや、そうじゃない。彼らだって同じ人間だ。教師介入なんて事態になったら、内申にも影響が出て


大学に行けなくなるかもしれない。そんなことになったらーー」


「そんなことになったら何? シュウはヤツらと同じだなんて思っちゃいけないのよ。やつらはケダモノ


よ」


「そうじゃない、アヤ。人間誰だって間違いはある。話し合いでそれを解決すれば一番平和じゃないか」


それをいうとアヤの表情が陰って押し黙る。


「そうね。あなたは生まれつきの平和主義者だものね」


その言葉には諦めのようなものが感じ取れたが今は気にしていられない。そろそろ10分が過ぎようとし


ている。早く待ち合わせ場所の屋上に行かなければ。


「じゃあ、行ってくるよアヤ。絶対にアヤは来ないでくれ」


そういって何か言おうとするアヤを振り切って僕は屋上へとかけていった。


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