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青い海、黒い海  作者: 石森ライス
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ことの発端

 

 あんな状況の後でも冷静に授業を受けていられることに僕自身も驚いた。2時間目は事情聴取で授業を受けられなかったが、3,4時間目はもとに床に脚を下ろした机とともに授業を聞いていた。ただ、集中して授業を聞いているというよりはぼんやりと今までのことを思い出していた。

 

 僕は「普通」の高校生だ。少なくとも自分では思っている。一年の頃から性格も行動も変わっていない。変化したとしたら周りの方だろう。荒唐無稽な物語の中でならともかく、他人の机を天井に磔にするなんて常軌を逸している。昨日の放課後いっぱい使ってあんな大掛かりなことをしたのだろうが、そんなしょうもないことに時間を使うくらいなら部活に行くなり、勉強するなり、ゲームをするなりやるべきことはたくさんあるだろうに。

 

 僕は黒板から、右手に持っているシャーペン、隣にいるアヤをチラと盗み見て、それから斜め左の方に視線を移す。窓際の列の前方の方の集団。学ランを三つめまで外した、だらしのない恰好をした犯人たち、石田恭弥、須郷亮、そして沖田大輔の3人だ。3人は教科書を見るふりをしながら、スマホを机の物置の中で触り、時々こちらの方に視線を向けていた。どうやらLINEで僕のことについて会話しているようだった。その中でも大輔は一層悪意のこもった目つきを僕に向けていた。

 

 沖田大輔。このグループのリーダー格。最初は笑顔で近づいてきた。高校一年の間は仲がよく部活のない日などはよく一緒に近くのマックに寄り道したりしたものだった。けれども大輔は一年の最後の頃から徐々に僕に対する態度が冷たくなり、からかいや嘲りの対象にした。なぜ僕と大輔との間に溝ができたのか、今でも考えるけれどもいまだにわからない。

 

 奴は僕がからかわれても力で反撃してこないとわかると真綿で首を絞めるように、徐々に僕のクラスでの位を下げにかかった。からかい、嘲り、嘲笑、失笑、噂、罵倒。2年のクラスになってからはクラスメイトに僕のいらぬ噂を吹き込み陥れ、僕を孤立させていった。

 

 僕も僕でアヤに対して危害が加えられることのないならそれでもいいかと見過ごしていって、何度も何度も何度もそんな品位のない行為をやめるように大輔達に諭したが、受け入れられず、「いじり」は「いじめ」へとエスカレートしていき、今に至る。


 僕の高校生活を説明するにはもう一人の紹介が必要だ。目を大輔達から隣の席へと向ける。視線に気づいたのか彼女はこちらに顔を向けるが表情はどこか悲しそうだ。最近めっきり彼女の笑い顔を見られなくなったのは僕も悲しい。


 時任彩香。僕の幼馴染。現状唯一の親友といえる存在だった。他のクラスメイトは僕と大輔との軋轢の余波を受けないように遠巻きに見てるだけで話しかけても来ない。そんな中で彼女だけは一緒にいてくれるし話し相手にもなってくれる。今日も4時間目の終わりのチャイムが鳴り響き、クラスでは各々が授業で強張った体をほぐすように手を組んで伸ばしたり、腰をねじって後ろの席のやつに話しかけたりしる中、アヤはすぐに僕に話しかけてくる。


「シュウ、お昼ご飯、屋上で待ってるから」


 シュウは昔からアヤ――僕の方は彩香のことをアヤと呼ぶ――が僕のことを呼ぶときにつかうあだ名だった。そしてアヤがそのあだ名を口にするといつも周りはざわめく。正確にはアヤが僕と話していると周囲がざわめく。理由は簡単だ、僕とアヤがあまりにも不釣り合いだからだ。彼女は美しすぎた。現状でそんなことをすればまた攻撃の口実になりかねない。二人きりで昼ご飯をたべようと誘ったならなおさらだ。だから彼女は終礼の喧騒のさなか、僕にだけ聞こえるような声量でささやいてお弁当をもって先に教室を出ていった。


 僕は数分自分の席でじっとした後にアヤを追って屋上へと向かった。


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