大丈夫だよ、迷惑なんかじゃない
「お疲れ様でしたーお先に失礼します」
「はいお疲れ様ー」
バイトを終えて店を出ると、午後の10時を過ぎていた。ただでさえ冷たい空気が、風によって運ばれてくると肌に刺さるようで本当に痛い。
「うぅ、風が冷たくて痛い……」
冷たい手を擦りながら、家に帰ろうと足早に住宅街を歩いてると―――
「クゥーン……」
「えっ?」
どこからか犬の鳴き声が聞こえてきた。いや、犬って決めつけるのは悪い気がするけど猫はニャ~って鳴くし……
周りを見てるともう一度クゥーンと鳴き声が聞こえてきた。その声は足元から聞こえてきていて……
「白いふわふわの……綿!?」
に見える白いふわふわのその子犬は、茶色いダンボールの中から、体を震わせて黒いつぶらな瞳でこっちをジーッと見つめていた。
「……あなたも寒いの?ちょっと待ってね!温かいお茶があったはずだから!」
そう言って、カバンをガサガサと漁ったけど確かにバイト前にカバンに入れたはずのお茶の入った水筒は出てこなくて
「ロッカーの中に置いてきちゃったかなぁ…」
でも、だからって寒くて震えているこの子を放っておけるわけが無かった。
―――ペロッ
小さいワンちゃんがダンボールから体を乗り上げて私の手を舐めてくれた。
それはまるで「大丈夫だよ、気を遣わなくてもいいよ」っと言ってくれてるように感じて
「……ごめんね。身勝手かもしれないけど……これは私のわがままだから」
そう言って私は白いふわふわの子犬を抱きかかえて家族のいる家へと走った。暖かい家庭の待つ我が家へと。