皇国哀史 第六話 R-15版
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霊装の威力たるや凄まじく戦況は日に日に好転した。一度戦場に出ればその凶悪で巨大な外観は味方を勇気づけ、敵の闘志を打ち砕き圧倒的な力で打ちのめす。戦場で空を翔けるその姿に、皇子はいつしか「黒竜の君」と呼ばれるようになっていた。騎士も地上戦で獅子奮迅の働きを見せ、男爵の地位をあたえたれた。彼らの名声は日に日に高まっていった。
しかし周囲の喜びと裏腹に、戦いに出た日の夜はいつも皇子の顔色は冴えなかった。
「これで良かったのだろうか」
アルフレッドは王子をなだめた。
「殿下はお優しい。敵を倒すことに心を痛めておられるのでしょうが、戦いとはそういうものです」
「勝利の神、か。呪われた血だ。今日も戦場で私の操る霊装はどれだけの命を奪ったことか。今なら、母上の言っておられた意味がよく分かる」
アルフレッドは皇子の頭を腕で包み込み、口付けた。
「何をおっしゃいます。殿下がおられることで、前線で戦う者たちがどれほど心強いか。私とて例外ではありません」
「そうか、お前がそう言うなら」
眠ってしまった皇子の頭を撫でながら、アルフレッドの顔色は優れなかった。
「ヴァルナリスに勝機はない」
イエルダの祭儀師が最期に漏らした言葉はずっと気にかかっている。ヴァルナリスに対する敵愾心から出た言葉にしては、どうも確信に満ちていた。それに霊装に大した抵抗もせず撤退していくイエルダ兵の様子も気になった。
(いかんな、悩んでも仕方がない。第一、殿下のお力を疑うなどあるまじきこと)
また明日も戦地に出なければならない。騎士は体の力を抜き、目を閉じた。