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思考実験物語

さよなら ブルーマンデー

作者: かげる

 明日はもう月曜日。

 憂鬱になるだろうと推測できる。

「あと一時間で日付が明日になっちまう」

 鬱宮喪多うつみやそうたの絶望までタイムリミットあと一時間だ。お盆休みはほとんど実家に引きこもっていたから、パソコンで実況動画を観たり全然エロくない十八禁のエロゲ(つまり良作)をやって遊んだりするだけで終わった。

「夏が青春なしでおわっちまう」

 椅子に腰掛けていた体重をさらに背もたれにのしかける。すると天井が見えた。白色のはずの天井が、今はもやもやにくもった脳内によって灰色に見えた。

「いや、案外この色が本当の白色なのかもしれない。たしかクオリアっていうイメージは正確に伝えることはできないって哲学的思考があって……ぁぐ」

 体重を後ろにあずけ過ぎたせいで、見える世界が反転してしまった。というか、椅子から転げ落ちた。運が悪い、というよりはたんに注意不足なだけだ。鬱宮喪多が悪い。

 頭を少しぶつけた。痛い。

「は……」

 ため息がでてきた。なぜこんなにも疲弊しているのか自分でもよくわからなかった。人と接することが疲れるのかもしれない。

 嫌われないように気を使うのが嫌でここ最近、昔の友人と遊ぶこともめっきり減った。それは良いことだと思う反面、安定しすぎて味気ないとも感じる。こんなうれしい涙も悲しい涙もでてこない無感動な毎日を繰り返しているうちに愛という名のエネルギーがみるみるうちに削ぎ落とされてしまったのかもしれない。自分自身を愛する心が。

「ふ……」

 とりあえず立ち上がり倒れた青い椅子をおこした。ん。

「青かったっけ?」

 よく覚えていない。普段の日常でよく使うだけど、たしか木製の茶色だったはずだ。いや、ついさっき椅子から転んだひょうしに頭をぶつける前まではたしかに茶色だったはずだ。それに、視界全体がおかしい。おかしいぞ。

「椅子だけじゃない……」

 目に見えるものすべてを絵の具で塗りつぶしたかのようになにもかもが青一色の世界だった。

「天井も灰色じゃなくなってる。これはいったい」

 頭が真っ白になった。いや、冗談じゃなくて。

 なんだか身の恐怖を感じた。とりあえず自室から出よう。そして階段を下りてみたらなにか発見があるかもしれない。良い発見を期待しよう。

 しかし、なにひとつ事態は好転しなかった。まるでこれまでの人生が元々、青かったかのようにいくら場所を移動してみても同じ色が続くだけだった。

 見晴らしのよい公園のベンチでひと休みすることにした。途方に暮れながら空を見上げる。これまでみずみずしいという印象だった青空も周りと同色化して味気のないものになってしまった。まるで自分の境遇みたいだ。思わず皮肉な笑みを浮かべた。

「シニカルな笑みを浮かべながらしにたくなった。なんてね」

 空は青が濃くてなんだかとても冷酷な色のように思えた。世の中は案外こんな色なのかもしれない。無慈悲にその人に見える色を与えられ否応無いやおうなしにその色の人生を生きていかなくちゃならない。

 思い通りに色を変えられない、真っ黒で真っ暗闇な人生の人だっていたかもしれない。そんな人が可哀想だと思えたが、これはただ自分のことが可哀想だといっているようなもので誰かに(あわ)れんでほしいだけの世迷いごとでしかなかった。

 公園に設置してある時計を見たら明日までタイムリミットがあと二分をきっていた。あと二分で零時になる。いつもと変わりばえのない憂鬱な週始めだ。

「ああそうか。世界の色が元に戻ろうが戻らまいがこの卑屈な自分の心が変わらなければずっとこのままだ」

 今更になって気づいた。

 今まであまりにも色にこだわり過ぎていたということに。


 カチっと分針が動いた。零時になった。


 この世界が何色だろうとどうやら歩みをとめないで流れ去ってしまうのが時の流れというやつらしい。自分が何者だろうが、見える視界が何色だろうがそれは本人にしかわらないようだ。

 今日は月曜日。

 灰色ではないつまらないこの日を乗り越えたさきに、反動で楽しい色がまっているかもしれない。そう信じて待ってみるのも良さそうだ。

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