キャラメイキング(下)
気がつくと俺は光に包まれていた。
白の下地に、まるでオーロラのような様々な光の筋や点が散らばっている空間。そこに俺は浮かんでいた。服は白い半そでシャツに、半そでズボンという格好である。次に身体を見てみると、普段と変わらない大きさの腕、足が有った。これに驚きつつも、説明書に、入力されたバイタルデータと、身体を流れる電流を測定することでおおよその体格を判断しています。と書いてあった事を思い出し技術の凄さを身を以て体感する。
しばらくすると、目の前の空間に文字が浮かび上がってきた。
<これから、設定を再開します。画面の指示に従って身体を動かしてください。>
こうして、俺は拳を開いたり閉じたり、歩かされたり、走らされたりなど色々な事はかれこれ10分近くさせられた。そして、
<お疲れさまでした。これで設定は終了となります。引き続きRegnum World Onlineの
設定を行いますか? YES/NO>
今度は文字の下にY/Nと半透明のボタンが表示される。俺はYの方に手を伸ばし、指で触れる。
<Regnum World Onlineの設定を開始します。まず、キャラクターネームを設定してください。>
文字の下に今度は半透明のキーボードが表示される。
(どうするか、まあ普通にトシヤでいくか?それじゃ、そのまんますぎるしな。木野、キノならちょっとニックネームっぽくて良いか)
と心の中で結論を下し、名前を打ち込んでゆく。
<Kino この名前は使用できます。よろしいですか? Y/N>
名前が重複しなかった事に安堵しつつ、Yを選ぶ。
<次に種族を設定します。下記より希望する種族を選んでください。>
すると、薄い青色で半透明な6つの小さな立体フィギアのような物が現れた。フィギアは各種族の平均的外見が示されていて、エルフなら、長耳。ドラゴニアなら、角や尻尾という具合である。だが、基本的にヒューマンに何かついたような外見である。
左から順に、ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ドラゴニア、ビースト、ピクシーである。
一番左のヒューマンのフィギアに触れると、フィギアが拡大され、その横に説明文が現れた。残りの物にもそれぞれ触れ、説明文を表示させる。説明文は以下であった。
ヒューマン 人。全ての能力値において偏りがなくプレイヤーの自由自在に成長
させられる。
エルフ エルフ。森の民。DEXとINTとAGIの値が成長しやすく、魔法職が推奨される。反面、HPとDEFの値が成長しにくい。
ドワーフ ドワーフ。石の民。DEXとSTRとLUCの値が成長しやすく、生産職が推奨される。反面MPとINTの値が成長しにくい。
ドラゴニア 竜人。空の民。HPとSTRとDEFの値が成長しやすく、近接戦闘職が推奨される。反面MPとDEXの値が成長しにくい。
ビースト 獣人。地の民。HPとSTRとAGIの値が成長しやすく、近接戦闘職が推奨される。反面MPとMDEFの値が成長しにくい。
ピクシー 妖精。光の民。MPとINTとMDEFの値が成長しやすく、魔法職が推奨される。反面、HPとDEFとSTRの値が成長しにくい。
(んー。どうしようかな)
全部の種族の説明を読み、特徴を把握したが、考え込む。この種族選びは今後のプレイスタイルに大きく影響するであろうし、重要な選択だと言えた。
(近接でいくか、魔法でいくかも考えて無かったしな。ぶっちゃけ、どっちも使いたいけど……。待てよ、これならうまくいくかも。)
とある種族の説明文をもういちどじっくり読みなおして、踏ん切りをつけるとフィギアに触れた。
<エルフでよろしいですか?Y/N>
Yを選ぶとともに、次の文字が表示される。
<髪型および瞳の色は変更できます。変更しますか? Y/N>
Yを選ぶ。種族設定の後は、容姿変更の設定が出てきた。
ReWOでは、髪型と眼の色は初期設定から変更できる。また、基本的にプレイヤーの容姿は、現実の自分の顔をスキャンされて、更にそこに多少のデフォルメ化がされた格好になっている。だから、ここで派手な色を選んだりしても現実ほど似合わなかったり、浮いたりする事は生じない。このシステムは、βテストの時は、中々好評だったらしく、製品盤でも実装されたらしい。こういった知識は和馬から教えられたものである。
俺は髪型はいじらない事にした。現実でも今の髪型を気に入っているからそうしてるし、似合っているとも思っているからだ。だが、色は変えてみようということで、目の前にあるサンプルカラーが表示されているページをめくり、目当てのカラーが表示されているページを探す。サンプルカラーは、小さな四角形で一ページに9個表示されている。髪型の設定の後、目の前には四角い画面が表示されていた。俺は目当てのカラー―――ホワイトを見つけるとそれを指で押すと、横に現われていた全身を写す鏡を見て、自分の耳くらいまで掛っているソフトモヒカンが、白くなっているのを見て、
(まあ、そこまで変じゃないよな)
と思い、続いて現れた設定終了のボタンも押す。
次は、瞳の色だ。再びサンプルカラーのページをめくり灰色を見つけ出す。設定を終えると目の前の文字が変わり、次の設定が始まる。
<SPを5入手しました。スキルの習得が出来ます。スキルの習得を行いますか?Y/N>
と表示されると、スキルの一覧表が現われた。
画面には、アーツ系、ギフト系、ステータス系、と表示されていた。一つを押すと樹形図上に項目が広がった。
(なんだ。これチンプンカンプンだぞ。)
すると、画面の端に「?」マークが見えたので、俺は押してみた。
現われたヘルプの文を読み進めていくと、大体の事がつかめてきた。
(アーツ系は、剣の技や、魔法などのスキルの事。ギフト系は、特定の条件下で効果を発揮するスキル。ステータス系は、そのままステータスを上乗せするスキルか…。)
一覧表をザーッと全部流し読みしつつ、気になった物の説明を読んでいく。
(さっき思いついたスタイルをするには、これと…これと…、……これが必要か?でも、今SPが5しかないから多くても5つしか取得できないし)
スキルには、それぞれ獲得するために、必要なSP数が決まっており、取得した後は、使い込むことで熟練度が上がっていき、スキルも強くなっていく。
(まあ、取りあえずアーツ系取って、ステータス系か?ギフト系はよく分からないし)
そして、無数にあるスキルの中から5つの初期スキルを選び終わると、設定終了の問いかけにYESと答える。
画面に総合的なパーソナルデータが表示された。
名前 Kino
種族 エルフ
種族特性 【DEX上昇Ⅰ】【INT上昇Ⅰ】【AGI上昇Ⅰ】【HP減少Ⅰ】【DEF減少Ⅰ】
HP 80
MP 100
STR 20
INT 20
DEF 5
MDEF 10
DEX 20
LUC 10
AGI 20
スキル 【片手剣】【メイス】【STR上昇】【HP上昇】【AGI上昇】
<上記のステータスで、ゲームを開始します。よろしいですか? Y/N>
Yに触れようと手を伸ばす。そろそろ設定が終了する。俺の胸はこれ以上ないほど高鳴っている。ふーっと息を長く吐き出し。指を突き出す。空中にあるYのボタンに押し込まれる。
<ようこそRegnum World Onlineへ>
世界が再び光に包まれた―――。