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玉響(たまゆら)の群像  作者: 唐橋遠海
第一章 乱世の若者たち
103/161

十一  立身国射手矢郷・刀祢匡七郎 腕くらべ

 何度かの短い覚醒を経て、ようやくはっきりと意識を取り戻した匡七郎きょうしちろうは、自分が寝床の中にいることに気づいた。

 上衣は脱がされているらしく、下着一枚まとった体に空気がひんやりと感じられる。

 かなり広い部屋で、周囲にはほかにも大勢の人がいるようだ。かすかに身じろぎすると、傍らにいた男が顔を覗き込んできた。髪を低い位置で束ね、小袖の上に白衣を重ねてたすき掛けをしている。年は若そうだが、おそらく療師りょうじだろう。

「やっとお目覚めか」

「ここは……」

「傷病棟だ。西の城のな」

 西の城、と聞いて匡七郎はたちまち青くなった。まだ兵庫ひょうごと会話らしい会話もできていないというのに、鉢呂はちろ砦からよそへ移されてしまったのだろうか。

「し、城って――」

 あわてて起き上がりかけた彼を、療師は片手で制した。小柄な男だが、腕力はそうとうなものだ。肩口を押さえつけたまま、彼は匡七郎の左袖をまくり上げると、やたらしみる薬がついた油紙を腕にぴしゃりと貼り付けた。

「いてえっ」火箸ひばしをあてられたような鋭い痛みに、思わず声が上がる。「てめえ……もう少しそっとできねえのか!」

 眉を逆立てて匡七郎が抗議すると、彼は鼻を鳴らしてせせら笑った。

「痛かったか、そりゃよかった。これにりたら、二度と戦場いくさば下手へた打つんじゃねえぞ。この程度の傷でも、運が悪けりゃ死ぬんだから」

 ぶっきらぼうな言い方だが、その言葉には生死の狭間で戦う者を思いやる真情が感じられる。匡七郎は体の力を抜き、少し決まり悪さをおぼえながらぼそりと言った。

「これからは気をつける」

「ああ、それがいい。どうも、無茶をする性分らしいからな」

「そんなことはないぞ」

「脳震盪(しんとう)を起こしてるくせに、とりを飛ばして戻ったそうじゃねえか」

「あの目眩めまいはそのせいか……」

 愕然としてつぶやき、匡七郎は今さらながらに肝が冷える思いを味わった。一歩間違えば途中で意識を失って、兵庫もろとも墜落していたかもしれなかったのだ。

 黙り込んだ彼にかまうことなく、療師はあちこちの傷に手早く包帯を巻いていった。

「丸二日寝ていたことだし、頭のほうはもうだいじょうぶだ。背中の打ち身は、まだしばらくのあいだ痛むだろうがな。傷はいろいろあるが、いちばん深いのでも数針縫った程度だから心配はいらん。毎日膏薬(こうやく)を貼り替えて、七日経ったら抜糸にくるといい」

 二日と聞いて、目の前が真っ暗になった。もうそんなに経ってしまったのか。

「おれは立州りっしゅう天翔(てんしょう)隊の所属じゃないんだ。だから、七日後にまたここへ来られる保証は――ない」

「そうなのか」療師は片眉をちょっと上げながら言った。「まあ抜糸ぐらいなら、どこででもやってもらえる」

「ひとつ訊いていいか」

 匡七郎は手をついて、ゆっくり体を起こした。背中に力を入れると多少痛むが、たしかに目眩めまいや吐き気はもう治まったようだ。

「さっき西の城と言っていたが、ここは鉢呂砦からはかなり離れてるのか」

「離れちゃいない。山の西側に増設されたくるわだから西の城と呼ばれてるだけで、同じ鉢呂砦の中だ」

 その言葉にどれほど匡七郎がほっとしたか、療師にはわからなかったに違いない。彼は、にわかに目を輝かせ始めた匡七郎を不思議そうに見つめた。

「嬉しいか」

「ああ。望みがつながった」匡七郎は寝床の脇に洗われて畳まれた小袖が置いてあるのを見つけ、手を伸ばして引き寄せた。「おれをここへ運んでくれたのは?」

「第五隊の連中が担いで来たんだったかな、たしか」

 汚れた包帯や薬箱を片付けながら療師が答える。匡七郎は〝第五隊〟という情報を頭に刻み込んで素早く着衣を整え、さりげない口調を装ってさらに問いかけた。

「その中に、ひょ……いや、指揮官の姿はあったか」

緋裏ひうらの人は見なかったな」

「そうか……」

 予期していた答えではあったが、がっかりせずにいられなかった。もしかすると兵庫が何か言伝ことづてを――目が覚めたら訪ねてこい、というようなひと言を残してくれているのではないかと心の片隅で期待していたのだ。

 ふと、いやな考えが頭をよぎった。

 彼が覚えていないということもあり得るのではないか。

 これまでは何の根拠もなく、覚えられているものと単純に確信していた。しかし思い返せば、再会してからまだ一度も兵庫はそれらしい態度を見せていない。普通、あんな場所で思いがけず知り合いに出くわしたら、なんらかの反応を示すものではないだろうか。

 考えていると、本気で不安になってきた。なにしろ、まだ名前すら呼んでもらっていないのだ。

 兵庫が道場に滞在していたひと月半ほどのうち、一緒に過ごした時間はいま思えばわずかなものだった。その間、自分なりに精一杯印象づけたつもりだが、充分だったかと問われると絶対とは言い切れない気がする。そうでなくとも、あれからもう十年以上もの歳月が流れているのだ。もし忘れられていたとしても、彼を責めることなどできないだろう。

 絶対に忘れないでくださいと言って、指きりのひとつもしてもらっておくんだったな――。

 自分の迂闊うかつさを呪い、匡七郎は深くうなだれた。しかしいずれにせよ、いますぐ彼のもとへ出向いていくことに変わりはない。忘れられたのなら、また覚え直してもらうまでのことだ。

 匡七郎は決然と顔を上げた。

「世話になった」短く礼を述べ、勢いよく立ち上がる。「七日後、抜糸をしてもらいにまた来る」

 そう告げると、若い療師は面食らった様子でまばたきをした。

「ここの所属じゃないんだろう」

「ああ、今はな。だが、ここに居座ることに決めた」

「おかしなやつだ」低く笑いながら、値踏みをするように匡七郎を見る。「ほんとにそうなったら、転属祝いに一杯(おご)ってやろう」

「その言葉、忘れるなよ」

 匡七郎は彼に向かって不敵な笑みを投げ、自らを奮い立たせるように背筋を伸ばして傷病棟を後にした。


 寝ているあいだに解かれていた髪が、足を踏み出すたびに鬱陶うっとうしく顔に落ちかかる。それをまとめて手早く結い上げながら、匡七郎きょうしちろうは砦の主郭を目指した。

 上のくるわへ向かう道は木立に囲まれ、ゆるやかな上り坂になっている。そこを軽快に駆け上がり、突き当たりにあるうずみ門を抜けると、土塁に囲まれた広い場所に出た。突き当たりに見える門までまっすぐに道が続いており、右手に大規模なうまや平櫓ひらやぐら、左手には陣屋とおぼしき立派な建物がある。それを横目に眺めながら歩いていると、北のほうから歓声のようなものが聞こえてきた。下層の郭で何か行われているようだ。

 主郭の端まで行って開け放しの門から見下ろすと、森の手前の広場に大勢の人が集まっているのが見えた。あそこはたしか、砦へ到着した際にとりを降ろした場所だ。

 匡七郎は、ちょうど下から上ってきた誰かの従者らしい年若い男を呼び止めて訊いた。

「あれは何の催しだろう」

「先日の砦攻めで武勲を上げられたかたがたが、士大将さむらいだいしょう石動いするぎ博武(ひろたけ)さま主催による腕くらべを行っておられます」

「腕くらべ?」

 戦の最中だというのに、ずいぶんと呑気なことだ。

「そうか。かたじけない」

 匡七郎は軽く会釈すると、門を抜けて階段を下りていった。

 広場の奥には、簡単な見所けんじょしつらえられている。その上座に腰を据えている人物が、試合を主催しているという石動博武だろう。若々しい顔つきの有能そうな男で、明るく涼やかな目をしている。右に陣取っている口元のきりっとした男は、副官か側近あたりに違いない。

 見所の前は広くけられ、二百ばかり集まった人が半円形に取り囲んでいる。そこが試合場所のようだ。

 匡七郎は降り注ぐ陽光に目を細めながら、遠巻きに立つまばらな見物人のあいだをすり抜け、人々が密集しているあたりへ向かって歩いていった。

 試合が現在どんな展開になっているのかは、もう少し近づかなければ見えそうにない。しかし見物衆から時折わっと歓声が上がっているので、それなりに見応えのある打ち合いが繰り広げられているのだろう。

 歩きながら少し背伸びをした彼は、ある人物に気づいて足を止めた。兵庫ひょうごと言葉を交わしていた、あの正信まさのぶとかいう男だ。

 いかついが思慮深そうな面立おもだちの彼は、匡七郎自身よりも十歳ほど年上に見えた。兵庫にも負けない長身で、がっしりした体には力強さが満ちあふれている。腰に帯びているのは二尺八寸ほどもありそうな大刀だ。

 その時、ふいに正信が振り返った。射抜くような視線がまっすぐに突き刺さってくる。しかし彼は匡七郎の姿を認めるとすぐに表情をやわらげ、目に優しい色をたたえて微笑んだ。

「元気になったようだな」

 そう声をかけられたのを機に、匡七郎はゆっくりと近づいていった。

「わたしを傷病棟まで運んでくださったのは、あなたですか」

「おれと、そこにいるあいつでな」彼は少し離れた場所に立つ若い男に顎をしゃくり、再び匡七郎のほうを向いた。「伊勢木いせき正信だ」

刀祢とね匡七郎と申します。お手数をおかけしました」

「なに、造作もない」気安い口調で応え、にやりと笑う。「それにおまえは、うちの隊長を無事に砦へ連れ帰ってくれた、いわば恩人だからな」

 うちの隊長、という言葉に匡七郎の胸が騒ぎだした。き込む気持ちを悟られないよう、努めて平静を装いながら問いかける。

「あのかたは、いまどちらにおいででしょうか」

「会いたいのか?」

 穏やかに問い返され、匡七郎は危うく大声を出しそうになった。

〝会いたいに決まっている。どれほど待ったと思ってるんだ!〟

 しかしそんな事情は、むろん他人にはあずかり知らぬことだ。爆発しそうになった癇癪かんしゃくを身のうちでなだめ、彼は小さくうなずいた。

「はい。わたし自身、あのかたに命を救われたようなものですから。あのとき声をかけていただかねば、燃え落ちる城砦と運命を共にしていたやもしれません」

「あの人は、もったいないことが嫌いでな」正信は薄く笑いながら、もっと前へ出るようにと差し招いた。「隊長はあそこだ」

 数歩踏みだし、彼が指す先を見た匡七郎は息を呑んで立ち止まった。

 大勢の見物人が取り囲む中央で、兵庫がひとりの男と剣を交えている。正信は匡七郎に場所を譲り、自分は少し下がったところから言葉を続けた。

「すでに五人勝ち抜き、いまは六人目と仕合っているところだ。座興試合ゆえ、いつもならとっくに勝ちを譲っている頃合いだが、少々ご機嫌が悪いので、あるいは最後まで勝ち抜くおつもりやもしれん」

「ご機嫌が悪い?」

 思わず振り向いて問いかけると、彼はかすかに唇をゆがめてうなずいた。

「先の戦で隊士を数名、失ったのでな」

「そういう、おかたなのですか」

「ああ。鬼のように怖いが、お優しい」

 ここでも〝鬼〟と言われているんだな――そう思い、つい笑みをもらした匡七郎を、正信がいぶかしげに見つめる。

 かつて知っていた兵庫と現在の彼とに、どうやら決定的な隔たりはなさそうであること。無遠慮かつ親愛のこもった言葉で評されるほど部下から慕われているらしいこと。そうした一つひとつが、匡七郎には嬉しかった。

「よい指揮官でいらっしゃるのですね」

「おれが共に戦いたいと思う、ただひとりの指揮官だ」

 さらりと言った正信の言葉に、匡七郎はぞくりと身震いをした。同じ思いを共有する相手と出会ったのは、考えてみればこれが初めてだ。

 体をひねり、濃いとび色をした彼の目をあらためて正面から覗き込む。

「そういうかたの部隊で働けるあなたを、うらやましく思います」

 率直な物言いを聞いた正信が微笑んだ瞬間、周囲の人垣からひときわ大きな歓声が上がった。勝敗が決したのだ。

 匡七郎は話に夢中になるあまり、兵庫の立ち合いを見逃してしまったことを悔やみつつ、広場の中央へ視線を戻した。

 抜き身を鞘に収め、見所へ向かって一礼した兵庫に、石動博武がねぎらいの言葉をかけている。

「じつに見事だったぞ。六人抜きとは威勢のよいことだな」

 その声からは上機嫌ぶりが感じ取れた。

「しかし、これで終わりとはいささか物足りん気もする。どうだ、きりのいいところで、もう一番仕合ってみないか。あとひとり打ち負かしたら、褒美は望みのままだ」

「お望みとあらば」

 兵庫の短い返答を聞き、博武が大きく身を乗り出す。

「よし、決まった。誰か兵庫と仕合いたい者はいるか」

 しかし、その問いかけに応える声はなかった。六人もの猛者もさを相手どり、危なげなく勝ち抜いた兵庫を前にして、みな少し腰が退けているようだ。敢えて挑んで恥をかかねばならぬいわわれはなし、と男たちの表情が物語っている。

「意気地のないやつらめ」博武は大げさに嘆息すると、端然と控えている兵庫に目をやった。「おぬしの率いる第五隊は、なかなかの手練れぞろいだったな」

「手に負えぬしたたか者ぞろい、と申すほうが的を射ておりましょう」

 涼しい顔で言い放った兵庫の言葉に、見物人から朗らかな笑い声が上がる。博武もまた相好を崩し、楽しげに目を瞬かせた。

「なれば、上官に挑む気概も持ち合わせていような」

「さて……このような場で指南を受けるなど真っ平ご免、と腹の中でつぶやいておるやもしれません」

「隊長直々(じきじき)の指名とあらば、断れんだろう。誰か選ぶがいい」

 そう命じられた兵庫は、肩をらしてゆっくりと振り返った。人垣を見渡し、見物人に混じる部下たちをひとりずつ見つけ出していく。

 視線が合うと、みな一様に首をすくめ苦笑いを浮かべてみせるが、手合わせに応じること自体はまんざらでもなさそうな様子だ。しかし彼の目は、そんな彼らの上を素通りしていった。

 かなりの時間をかけて隊士の集団をひときした兵庫の視線が、ある一点まで来てようやく止まる。その揺るぎない目が見据える先にいたのは、匡七郎だった。

 一瞬で射竦められ、呼吸もままならなくなった匡七郎の頭の中を、〝まさか〟という言葉が駆けめぐる。こんな事態はまったくの想定外だ。

 そこへ追い打ちをかけるように、笑みを含んだ正信の声が背後から低く囁きかけてきた。

「ご指名のようだな」

 返事をする余裕もなく、ただ立ち尽くす匡七郎の背を、彼の手がそっと押す。

 まだ状況がうまく呑み込めないまま、匡七郎は足を少しもつれさせながら群衆から抜けだし、広場の中央へと進み出た。無言でそれを見ていた兵庫が、博武のほうへ視線を戻す。

「この男は先日の戦の折、わたしと共にしんがりを務めた剛の者。わが隊の士ではありませんが、ここで刃を交えてみるのも一興かと」

「おもしろい」打てば響くように博武が応じる。「見物し甲斐のある試合になったなら、おぬしら双方に褒美をやるぞ」

 その会話を意識の隅で聞きながら、匡七郎は兵庫の真意を必死に探っていた。

 対戦相手として自分を指名したのは、単に言葉どおりの理由でだろうか。それとも、かつて親好を持った相手と理解した上で、再会の挨拶代わりに稽古をつけてくれようとしているのか。だが、いくら彼の背を見つめていても、何も読み取ることはできなかった。

 やはり、おれに気づいてはおられないのだろうか……。

 悄然と肩を落としかけた時、突然何かが手元に降ってきた。反射的に掴み取って見れば、全長九尺あまりの十文字槍だ。

 はっと顔を上げると、いつの間にかこちらを向いていた兵庫と目が合った。どうやら、試合用に集められた打ち物の中から彼自身がそれを選び出し、投げてよこしたらしい。

 なぜ刀ではなく槍を――混乱する頭の中でそうつぶやいた瞬間、突如として何もかもがに落ちた。

 覚えているぞ、と彼は言っているのだ。

 七草さえくさ(ごう)の道場で出会い、ひとときのなごやかな時間を分かち合ったこと。百姓の村落を蹂躙じゅうりんする狼藉者たちを、ふたりで協力して追い払ったこと。師匠から槍の手ほどきを受け始めた匡七郎を励まし、折々に槍術のおもしろさや奥深さを語ってくれたこと。

 彼は何ひとつ忘れてはいなかった。そして十数年ぶりの邂逅かいこうを果たした今、成長した少年に手ずから試練を与えようとしている。

 どれほど腕を上げたか、見せてもらおう――そう言いたげに兵庫の双眸が挑発的な輝きを帯び、匡七郎の体をしびれるような緊張感が走り抜けた。

 あまりにも思いがけない展開だが、こうなっては逃げも隠れもできない。手練れぞろいと言われる彼の部下や、大勢の見物人が見守る前で、いきなり腕前を試されるのだ。

 幼いころは、彼に武芸の手ほどきをしてもらうことに憧れていた。充分に修練を積み、腕を上げて自信をつけたら、いつかは剣を交える機会を得たいとも思っていた。だが、いざそれが現実になってみると、〝まだ早すぎる〟という思いばかりが浮かんでくる。

 しかしこれは、再会してから一度も兵庫にいいところを見せられていない匡七郎が、うまくすれば一挙に名誉を挽回できる好機だった。

 勝てないまでも、彼を相手にまずまずの内容で立ち合えたなら、ここに置いて使って欲しいと願い出ることもできるだろう。あるいは兵庫は、その機会を作ってくれようとしているのかもしれなかった。

 でも、こんなやり方は、ちょっぴり意地悪ですよ……。

 心の片隅で、少年時代を未だどこかに引きずったままの自分が、少しねているのがわかる。しかし、もう子供ではないのだ。あのころのように、ただ無邪気にまとわりついているだけでは、兵庫の傍にはいられない。

 十年余にわたり積んできた、修練の成果を見ていただこう。そう思った瞬間、迷いが消え去り、ざわついていた心が静まった。

 決意を示すように唇を固く引き結び、槍の柄をしっかりと握り直す。

 その様子を沈黙のうちに見守っていた兵庫が、わずかな目の動きで匡七郎を広場の中央へといざなった。


 睡眠をたっぷりとったお陰で、気力体力ともに充実しているのがわかる。しかし、休ませすぎて筋肉の動きは鈍っているかもしれない。

 匡七郎きょうしちろう兵庫ひょうごと共に広場の中央へ出ると、ゆっくり深く呼吸をしつつ入念に屈伸運動をおこなった。そうしながら、目まぐるしく頭を働かせる。

 技術ではとうていかなわないだろう。体格や体力、膂力りょりょくでも明らかに劣っている。もちろん実戦経験に至っては雲泥うんでいの差だ。

 だったら、何でなら勝てる。勝てないまでも互角に持ち込めそうなのは何だ。

 どうせ負ける、などという考えを持つのは禁物だとわかっていた。どんな戦いでも負けぬつもりで臨むこと。それが鉄則だ。

 匡七郎は全身を伸ばし終えて立ち上がると、一間半ほど離れて佇んでいる兵庫の表情を上目づかいに窺った。瞳の色は穏やかで、体には微塵の緊張も見られず、憎らしいほど落ち着き払っている。

「防具はらんのか。備えあれば憂いなしというぞ」

 ふいに横から声がした。目をやった先で、石動いするぎ博武(ひろたけ)が微笑んでいる。

「は。必要ありません」

 淡々と答えて軽く会釈をすると、匡七郎は槍を立てて右手で持ち、兵庫のほうへ視線を戻した。

 まっすぐに相手を見据え、互いに一礼。周囲のざわめきがぴたりと静まる。

 抜き打ちにくるか、それとも――ひそかに推し量る匡七郎の眼前で、兵庫があっさりと鞘を払った。構えは型どおりの正眼だ。

 何か奇策をろうするのではと身構えていた匡七郎は、いささか拍子抜けする思いだった。しかし油断はできない。彼の老獪ろうかいな戦い方はよく知っている。

 少し腰を落とし、槍を両手で軽く握って下段に構えながら、心を決めた。敏捷さと読みの鋭さ、そのふたつには自信がある。ここは先に仕掛けるのが上策だ。

 口をすぼめて鋭く息を吐き出し、匡七郎は兵庫に向かって一気に突進した。三つ叉になった槍の穂先をやや斜めに寝かせて、眼前に立つ男の脇腹を狙う。

 兵庫はその場に両足を踏ん張ったまま、わずかに上体をひねって迫り来る刃をかわした。

 匡七郎が軸足を滑らせながら、身体が触れ合う直前でぐっと踏み止まる。そうしながら、即座に右へ跳んで槍を反転させた。最初の突きをかわされるのは想定のうちだ。

 彼は回した槍の石突で兵庫の左胴を払い、さらに右へ跳んで再び槍を回すと、今度は穂先を立てて胸元へ突き入れた。右へ右へと回り込みながらの息をもつかせぬ攻撃に、見物人からどよめきが上がる。

 兵庫は受け流しながら少しずつ立ち位置を下げ、突如攻めに転じた。

 長躯がふっと沈み、沈んだと思った時にはもう右側面に回り込んでいる。匡七郎がたいを引く間もなく、肩口へ垂直に斬撃が降ってきた。

 ――速い!

 匡七郎は目をき、とっさに上げた槍の胴金で弾き返した。

 それは身を守ろうとする本能から出た、ほとんど無意識の動作であり、頭で考えていたらとても対応できなかったに違いない。それほどまでに兵庫の剣尖は速かった。

 この距離はまずい――背中に冷や汗がつたうのを感じながら、素早く後方へ退く。自分から踏み込んで間合いを支配したつもりだったが、いつの間にか引き込まれていた。

 三間向こうで、右脇構えをとった兵庫が動き出すのが見える。

 くそっ、後手を引いた。

 匡七郎が歯を食いしばりながらかすみ下段の構えをとった時には、兵庫はもう互いの影が交わるほどの位置にいた。

 彼の振るう剣尖が横から襲いかかり、顎先すれすれに通り過ぎていく。そのあとを追ってきた刃風も、二度斬られたかと錯覚するほどに凄まじかった。次いで頭上で刃が返され、触れれば左耳を削ぐ位置に振り下ろされる。

 頭をらし、肩を引いてその斬撃をしのいだ匡七郎は、下げていた槍の穂先を素早く引き上げた。双方の刃が激しく噛み合い、骨の髄まで響くような軋み音を上げる。ふたりは肉薄したまま互いに譲らず、得物を持つ両腕に力をみなぎらせた。

 せめぎ合いの中、ほんの一瞬だけ視線が交わる。と同時に、共に足をさばいて後方へ飛び退すさった。両者のあいだの距離は約一間半。それぞれ正眼に構えた刀と槍の切っ先が、あと少しで触れ合うという近さだ。

 動きを止め、そのままの形で対峙たいじすることしばし。

 兵庫の闘気を真っ向から受けた匡七郎の額に、ふつふつと汗の玉が浮かび上がってきた。

 こうしてただ向かい合っているだけでも、心身共に消耗していくのがわかる。眼前にそびえ立つ六尺ゆたかの体躯が、よりいっそう大きく見えてきた。一瞬でも気を抜けば気迫に呑まれて膝が崩れそうだ。

 戦慄せんりつにうなじがそそけ立ち、それが奇妙な懐かしさを呼び起こす。

 少年の日、兵庫を初めて怖いと思った、あの時の感覚を彼はいま鮮明に思い出していた。しかし不思議に恐れはない。代わりに心を満たしたのは、たまらないほどの高揚感だった。

 なんて――。

 匡七郎の口許に、抑えきれない笑みがにじんだ。

 なんて楽しいんだ。

 歓喜の輝きを帯びた瞳が見つめる先で、兵庫もまたわずかに頬をゆるめる。その瞬間、彼の足が地を蹴った。

 肘を引き、八双の構えをとった兵庫が、大きく一歩踏み込んでくる。またたく間に匡七郎との間合いを詰めた彼は、空気を唸らせて水平に刀をぎ払った。研ぎ澄まされた斬撃が青白い光芒を引く。

 そのわずかに下をかいくぐった匡七郎は、ここを勝負のきわと見て重心を低く落とし、引く手も見せぬ連続攻撃を仕掛けていった。

 相手の胸元に突き入れたまま穂先を止め、踏み込みながらさらに連続で突く三段突きは得意の必殺技だ。一度目と二度目は浅く、三度目は深く。これをすべて完璧にかわされた経験は未だにない。

 だが、兵庫を捉えきることはできなかった。ふたつの突きを刀の鍔とつか尻で弾き、最後の一撃を懐を開いて迎え撃った彼が、身を深く沈めながら逆巻く激流のように斬り込んでくる。

 斜め下からすうっと頸筋へ迫った切っ先が、皮膚まで半寸という位置でぴたりと静止した。鋭敏になった肌の表面に、その冷たさがちりちりと感じられる。

 ぎゅっと目を閉じて弾む息を整え、匡七郎は「参りました!」と叫んだ。

 呼吸をするのも忘れて見入っていたらしい見物人が一斉にうごめき、大きくため息をつく。

 刀を引いて構えを解いた兵庫とあらためて正面から向き合い、匡七郎は万感の思いを胸に深々と一礼した。

 終わってみれば短かったようにも思えるこの打ち合いを、彼がどう評価するかはわからない。悔しいが、こちらが繰り出した技はことごとく見切られていた。

 ここが戦場いくさばで、ふたりが敵同士であったなら、おそらく二合と斬り結ばずに打ち倒されただろう。しかし最善を尽くしたという確信はある。

 そんな彼の思いを裏付けるように、見所けんじょから賛辞の声が響いた。

「双方とも期待以上、まさに堂々の試合だったぞ。約定どおり、褒美は望みのままだ。兵庫、おぬしは何を望む」

 問いかけた博武を見て、兵庫は静かに言った。

「第五隊の者がみな、今宵したたか酔えるだけの酒を」

 淡々と述べられた大胆な要望に、人垣から笑い声と歓声がどっと上がる。

「よかろう、話を通しておく。酒保からいくらでも持っていけ。望みはそれだけか」

「おそれながら、いまひとつ」

「聞こう」

此度こたびの戦で、手塩にかけて育てた隊士を三名失いました。ゆえに、ぜひとも早急な補充をお願いいたしたく」

煩雑はんざつな手続きなしに、か」

 博武はさも愉快そうに、双肩を大きく揺すった。

「早くも次の戦を見据えているのだな。わかった、不足の三名はおぬしの裁量で好きに補充するがいい。何なら、いまこの場にいる隊士の中から、これと思う者を分捕ぶんどってもかまわんぞ」

「では、再編成の対象となった三州さんしゅう天眼(てんがん)組から、若い隊士を三名」

 許可されるのを予期していたと思わせる滑らかな口調でそう言うと、兵庫はふいに匡七郎のほうを見た。

「うちひとりは、この男を」

 その瞬間、匡七郎の全身を稲妻に打たれたような衝撃が走り抜けた。

 博武が笑いながら、品定めがどうのと言っているが、ろくに耳に入ってこない。

 いま聞いた言葉は現実か。そうなのか。そうであってくれ――。

 頭の中で必死に念じながら、まばたきもせずに兵庫の横顔を見つめ続ける。

 そのうちに、彼が再びこちらへ顔を向けた。真面目な表情で、何か目配せをしている。その意味を考えていると、博武のれたような問いかけが聞こえてきた。

「おぬしは何が欲しいかと訊いているのだ。早く言え」

 はっと我に返り、匡七郎は体ごと見所のほうへ向き直った。礼を失したことにいささかあわてたが、幸い、言うべき言葉はもう決まっている。

「まことに、ありがたきおおせですが――」軽く頭を下げ、彼はきっぱりと答えた。「わたしは何もいただきません。望みはすべて叶いました」

 見物人たちがざわめき、博武もいぶかしげな表情をする。

「叶った、と?」

「は。いまこの場で望むことは、もはや何ひとつありません」

 その言葉の意味をはっきり理解した者がいたとしたら、それは兵庫だけだったに違いない。正面を向いたまま視線だけこちらによこした彼の唇に、かすかな笑みがよぎったのを匡七郎はたしかに見たと思った。


 広場から引き揚げる隊士たちが、口々にねぎらいの言葉や賛辞を投げかけていく。それに如才なく受け答えをしつつも、匡七郎きょうしちろうは視界に捉えた兵庫ひょうごの背中から一瞬たりとも目を離さなかった。もう見失うのは真っ平ご免だ。

 じりじりする思いでなんとか人あしらいを済ませると、彼は一目散に兵庫の傍へ駆け寄った。配下の隊士たちに囲まれて談笑していた彼がその気配に振り向き、穏やかな笑みを浮かべる。

「縁があったな、匡七郎」

 深みのある声で昔のように名を呼ばれた瞬間、匡七郎は軽い目眩めまいに襲われてぐらりとよろめいた。

 なんとあっさり、歳月の淀みを踏み越えてくれることか。

「兵庫さま」こちらは、ようやく声に出せたその名が震えないようにするだけで精いっぱいだ。「覚えていてくださったのですね」

「忘れようはずもない。しばらく会わぬうちに、ずいぶんと大きくなったものだ」

 感慨深げにそう言って、兵庫は匡七郎の姿をつくづくと眺めた。

「およそ十年ぶりか」

「は。十……と、二年」

 内心のこだわりが、思わず口をついて出る。そこを耳ざとく聞きつけた正信まさのぶが、兵庫の横でうっすら微笑んだ。

「では、おふたりはお知り合いだったわけで」

「この男――刀祢とね匡七郎は古くからの友人でな」

「ならば積もる話もおありでしょう。我々はひと足先に失礼を」

 さらりと気をかせる彼に、兵庫は小さくうなずいて見せた。

「四、五人連れて酒を取りに行くがいい」

「は。いかほど持ち帰りましょうか」

「明日には補給の予定だ。酒保をからにしてかまわん」

 兵庫の言葉に、隊士たちがどっと沸いた。大将からの言質げんちを得ているとはいえ、そこまでやっていいものだろうか、と匡七郎がひとり不安な面持おももちになる。

「あとでおとがめを受けるようなことは?」

 豪放な笑い声とともに去っていく隊士たちを見送って、彼は隣に立つ男の表情を上目づかいに窺った。兵庫は気に留める風もなく、涼しい顔をしている。

「博武さまは、けちなおかたではない。心配は無用だ」

「こちらの部隊には、闊達かったつな気風がありますね」

「水が合う者にとっては、居心地のよい場所やもしれん」兵庫はつぶやくように言うと、匡七郎を横目に見た。「おぬしの古巣……三州さんしゅう天眼(てんがん)組の隊長荒城(あらき)雅俊(まさとし)どのは先の戦で討ち死になされた」

 ああ、そうなのか――というのが匡七郎の頭に最初に浮かんだ言葉だった。先ほど兵庫が三州天眼組が〝再編成の対象となった〟と述べたことから、あるいはそうなのかもしれないと予想していたので、さほど驚きはない。

 しかし、隊長が死んだからといって、部隊が丸ごと再編成されることはあまりないはずだ。ということは、自分の想像以上に多くの仲間もまた、あの場所で命を落としたのだろう。

「わたしは……存外、命冥加いのちみょうがな男だったのですね」

「よいことだ」兵庫が淡々とした口調で言う。「命がいくつあっても足りぬ稼業ゆえ、それぐらいでなくてはいかん」

隼人はやとは稼業ですか」

「病のようなものでもある」

「さぞかし長患ながわずらいをするのでしょうね」

 匡七郎のあっけらかんとした物言いを聞いて、兵庫は低く笑った。

「おぬしはここに馴染めそうだな」

「そうだといいのですが。兵庫さま――」あらためて真っ直ぐに向き合い、深く頭を下げる。「お取り立ていただき、ありがとうございます」

「最前線での勤めはなにかと労苦が多く、そのわりに旨味は少ない。三月みつきも経つころにはうらごとを並べているやもしれんぞ」

 苦笑をにじませる兵庫に、匡七郎は黙って微笑んでみせた。

 あなたの傍で働けることが最大の旨味だなどと馬鹿正直に言ったところで、きっとこの人を戸惑わせるだけだろう。ここに来ることをどれほど望んでいたか、この成り行きにどれほど満足しているか、それは今後の働きぶりから察してもらえばいいことだ。

 兵庫は何も言わない匡七郎をしばらく見つめていたが、やがて「ついて来い」と声をかけて歩き出した。

「あとへ回すと面倒になる。すぐにも転属のことを書面にしよう」

 話しながら彼は主郭への階段を上っていき、先ほど匡七郎が横目に見て通り過ぎた陣屋へといざなった。

 玄関がある北側のいちばん大きなむねは、通称〈一ノ棟〉。広い武者溜まりと板敷きの囲炉裏いろりの間、大広間、二十畳ほどもあるくりやと土間などが配されている。棟の最奥に位置する小書院脇から伸びた渡り廊下の先が〈二ノ棟〉で、兵庫はそこに執務用の小部屋を与えられているらしい。

「何を見ている」

 ふいに問いかけられ、匡七郎は自分が説明を聞きながら彼をじろじろ観察していたことに気づいた。

「いえ、その……ずいぶん、髪を長くされたのですね」

「入軍後の数年は比較的まめに切り整えていたが、その後はほったらかしだ」

 兵庫はそう言うと、胸元に落ちかかった髪を首の一振りで後ろへ払った。

ってはいらっしゃらないのですか」

「毎朝結うのは面倒くさい」

 かつて似たような会話を交わしたことを思い出して、匡七郎はこらえきれずに笑った。何が可笑おかしいのか、と兵庫が怪訝けげんそうに眉を上げる。匡七郎は咳払いをひとつして、再び居住まいを正した。

「お許しください。少し、舞い上がっているようです」

「何がそうも嬉しい」

「とてもひと口には申せません」

「試合でも、ことのほか嬉しそうに槍を振るっていたな」

 水を向けられたとたん、匡七郎の胸にあの高揚感が蘇ってきた。

「ひさびさに血がたぎりました。試した技をどれも簡単にあしらわれてしまったことは、少し残念でしたが」

「おぬしの技は、思いのほか素直だったのでな」

「素直――ですか」何となく、複雑な気分にさせられる言葉だ。

「なかなか巧みではあるが、いささか定石じょうせき通りに過ぎる。おれに冷や汗をかかせたいなら、三段ではなく四段突くべきだ」

「それは難しいですよ」

「できないか」

 挑むとも試すともとれる彼の口調に、匡七郎は腹の底から沸き立つものを感じた。

「もっと修練します」

「昔から熱心なほうだったが、そこは変わっていないようだな。面差おもざしも子供のころのままだ」

「兵庫さまも、昔の面影を留めておられたので助かりました。あまりにもお姿が変わってしまっていたら、お会いしてもすぐには気づかなかったでしょうから」

「すぐに気づいたのか」ふと足を止め、意外そうに兵庫が振り返る。「そのようには見えなかったが」

 少し不満を感じ、匡七郎は唇を尖らせた。

「気づきましたよ。兵庫さまこそ、いつわたしだと気づかれたのですか」

「見知った者だろうというのは、座り込んでいる姿を見た時から感じていた。おぬしだと気づいたのは、近くで顔を見てからだ」

 では、声も出せないほど驚いていたあの時、彼のほうもすでにこちらが誰なのかを認識していたのか。

 匡七郎は呆気にとられ、まじまじと兵庫の顔を覗き込んだ。

「ならば……なぜ、名前を呼びかけるなりしてくださらなかったのです」

 意図した以上に、強くなじるような口調になってしまう。

「おぬし、脇虎口から出てきたおれに気づいた時、首をろうとしかけただろう。あれを見て気後きおくれしたのだ」

「そ――」

 思いがけない言葉に虚をつかれて絶句した匡七郎の脳裏に、あの時の場景が蘇ってきた。

 もしも敵ならば刺し違えても、と一瞬猛々(たけだけ)しい思いに駆られたことをたしかに覚えている。しかし、その程度で兵庫がひるむなどということがあり得るだろうか。

 言葉のぎ穂を失ったまま狼狽うろたえる匡七郎の傍へ、兵庫が静かに歩み寄って屈み込んだ。

「冗談だ」

 平然と言った声が笑みを含んでいる。

「……兵庫さま」

 からかわれたことに気づいた瞬間、匡七郎は両足から力がけるのを感じ、思わず横の柱に手をついて体を支えた。そのまま大きくひと息ついて、兵庫の顔を見上げる。

「しばらくお会いしないうちに、ずいぶんお人が悪くなられたのでは」

 眉間に深く皺を寄せて問えば、記憶にあるよりもさらに強くなったばかりでなく、より手強てごわくもなったらしい男がぬけぬけとうなずいてみせる。

「おぬしがそう言うなら、そうなのかもしれんな」

 軽くいなすような調子で言い、兵庫はさも愉快そうに朗笑した。

聳城国マップ https://13604.mitemin.net/i136505/

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