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クマさん転生!  作者: アキシチ
第一章 樹海のクマさん
6/7

第六熊 人との遭遇

 迷彩ワニの死闘から一か月から過ぎた。

 名誉の負傷である潰れた肺、折れたアバラ、血が噴き出ていた肩、曲げられた腕は全治し傷だけが体に残っている。

 別に傷を負ったからなんだって話だが、何故かかっこよく見える。

 親友に見せて自慢したい、三時間ぐらい。

 

 そんな俺がこの一か月間の間、何をしていたのかというとフルアーマー作りである。

 当初の計画通り、フルアーマーを着こみ人間に接触するためだ。

 今もそのフルアーマーを俺は着こんでいる。

 材料はオールワニ皮、透明化を解除された渋い緑が、いい感じに渋い。

 舐めたら抹茶味ってぐらい渋い色だ。

 口には喋れないという意味を込めてバッテンを書いてある。

 ガントレットにはこっそりdon't speakとも書いた。

 因みに俺はdon't speak English、元日本人です。

 

(このフルアーマーの名前はステールMKⅡとしよう)

 

 とても重要な事を考え俺は樹海を二足歩行で歩いていく。

 もちろん、人間に出会うためだ。

 ホームレス生活中の記憶を頼りに、できるだけ樹海を離れていく。


(どこも同じに見えるんだよな? ちゃんと樹海から離れて行ってるのか?)

 

 樹海から離れようという考えは、単にここら辺近くに人間が住んでいないからだ。


(ここらのモンスターはたぶん、人間にとって強いしな。人はもっと安全な場所にいるに違いない。もし、いなかったら泣く)


 フルアーマーを作り終わり、樹海の外を目指し始めて一週間は歩き始めている。

 フルアーマーなのでもちろん、兜も付いており視界が悪い。

 おまけに通気性も悪く、熊の毛皮と相まってものすごい蒸し暑い。

 毛皮を脱ぎたいほど暑い。

 おまけに手の部分も皮でできているため、良く手が滑る。

 足も同様で、よくこけそうにもなる。

 関節を動かせれる範囲も減るし、着替えるのに十分かかる。

 おまけに口がふさがっているので、食事どころか水すら飲めない。

 

(鏡虎が噛みついても一切痛くなかったり、いい部分はあるんだけどな。

 それ以上にデメリットが多い。ほんと、せめて毛皮だけでも脱げれば……)


 木々の隙間から差し込む光が薄暗くなってきた。

 夜の時間が来た、体内時計で午後八時。

 よいこは寝る時間だ、でも熊は寝ない。

 

(今日はここいらで、食事にするか。人に会えそうにないし)

 

 獲物を探す為、匂いを嗅ごうとして、やめる。


(ステールMKⅡを着てると鼻が効かないんだよな)

 

 蒸されている影響か、迷彩ワニの呪か、兜越しには聴覚が鈍る。

 せっかくなので俺は全部脱ぐことにする、解放感と言うのは大事だ。

 

(この鎧、もとはあの迷彩ワニから作ったんだよな……)


 全長十メートル以上、ダメージどころか俺の攻撃を与えることすらできず、運が良かったから倒せた相手、そして親の仇。

 親の仇っていうと憎しみの連鎖とか復讐は空しいだけだという言葉を思いだす。

 憎しみの連鎖は、良く分からないが復讐がどうかはわかる。

 はっきり言ってちょっとスッキリしたが本音だ。

 迷彩ワニには家族を殺されたが、代わりにこの樹海で生きるための動機をもらった。

 復讐を果たした俺に迷彩ワニに対しての恨みはない、ステールMKⅡの材料になってくれたことなど少しだけだが感謝もしている。

 だからといって生き返られたらもう一回木の下敷きにするが。

 

 兜、鎧を外し終わり、右手のガントレットを外そうとする。

 グローブがワニ皮のせいでなかなか外れない。


(クソッ、めっちゃ滑って外れない! こういうとこ考えて作ればよかった!

 チクショウ! これ取れないと木の棒ですらうまく持てないんだぞ!

お前も見てないで少しぐらい手伝ってくれよ!)

 

 目線の先には、俺の前で突っ立ってる金髪の少女がいた。

 日本では見られない綺麗な金色の目を見開き、開いた口が塞がらないと言った表情だ。

 よっぽど熊がガントレットを外せないのが面白いのだろうか。

 見た感じだと前世の俺より少し低いぐらいの年齢のようだ。

 実年齢では負けてるが、精神年齢では俺の上だ、人生の先輩として敬いたまえ。


「え? え? 何で熊が鎧を!?」

 

 綺麗なソプラノボイスで少女が疑問を口にした。

 

(何で熊が鎧をってか? そりゃ人間に熊田とばれないようにするためだな。

 ……あれ?)

 

 両手にガントレットを付けたまま、目をこする。

 ゆっくりと目を見開く。

 映った光景は同じだった。

 目の前に金髪の少女が立っているだけだ。

 付け加えると、金色の羽のエンブレムが書かれたプレートアーマーにスカートと言った姿だ。

 煌びやかなマントまでつけている。

 

(うん、人間だな。どこからどう見ても人間だな。しかも日本語。

 ……って一瞬で正体ばれた!)

 

「はっ! もしかして冒険者を殺して奪ったんですか! この人殺し熊がぁ!」

 

 しかも相手は明らかに誤解で俺に敵意を向けている!

 少女が俺に向かって右手を向けた。

 武器などを持っている様子などもない。


(あ? 何だ? ッ!)


 一瞬、向けられた手から空気が焦げた匂いがした。

 この匂いの正体を俺は知っている。

 俺の家を焼き、雷熊が纏っているもの。


(雷!)

「ウラァアッ!」

 

 反射的に横にバク転した。

 空気が焦げるにおいが横を通り過ぎるとともに閃光が見える。

 俺の横を雷が通り過ぎたのだ。 

 

(よりにもよって俺のトラウマベストファイブに入る、雷かよ!)

 

 安心できず、もう三回バク転した後に地面に立つ。

 ちなみに他のトラウマは、まずい葉っぱ、ワニ、激怒した親友、ドアノブだ。

 

「嘘! 避けられた!」

 

 三メートルほど前で雷を避けた俺に少女が驚く。

 その後ろ、木に開いた焦げたくぼみに俺が驚く。


「ッ!」


 何も言わず少女の手のひらから雷が次々に出現する。

 槍のように雷が伸び、俺をやけ焦がそうと連続で飛んできた。

 その雷を右っ左っと反復横跳びで回避する。


(遅い! 当たれば痛そうだが、速度は跳ねアザラシより遅い!

 臆さなけらば見える!)


 何十発も飛ばすと少女も諦めたようで、雷を使うのを止めた。

 諦めたか?


「全部、躱しますか! ならこれでどうだ!」


 右手が光り、いままでとは比べものにならないぐらい太い雷が出現する。

 当たれば顔ごと吹き飛びそうだ。

 

「サンダーブーメラン!」

(ブメーラン?)


 言葉とともに雷が伸びる。

 今までより、三倍ぐらい速い。


(でも遅いなぁ! 鏡虎の虎パンチより遅い!)


 サンダーブーメランを余裕で躱す。

 雷は横を通り過ぎ俺の視界に映らなくなる。

 少女がクイッと手招きした。

 同時に俺は鼻に力を入れる。

 

(分かるぞ。通り過ぎた雷がUターンするのが!)

 

 目の前で少女が罠にかかったな、という表情をしている。

 何か癪に障ったので、サンダーブーメランが迫るのをギリギリまで待つ。

 

(今だ!)

 

 俺は雷をブリッジの態勢を取り躱す!

 

「ふぁッ!?」

(めっちゃ驚いてる……)

 

 サンダーブーメランが驚きの声と主に霧散した。

 どうやら意識をしっかり保ってないとこの雷は維持できないらしい。


(いや、雷と言うより魔法か。人間は魔法が使えるのか。俺も使ってみたいな)

 

「ヤバい! 角なしのホーンベアーがここまで強いなんて聞いてない!」


 ブリッジの態勢を戻し、二足歩行で立つ。

 少女と目が合い、そして逸らされる。

 ちょい、ショック。

 

「こうなったら奥の手だ!」

(奥の手!?)


 少女が右手と左手の手のひらを合わせた。

 それはさながら食事をする前のあのポーズだ。


「ブラックアイスカッドライトニング!」


 長ったらしい魔法名とともに少女の手が光った。

 ただ光るだけだった、目が焼けるほどの光で。

 

(目が、目がぁぁぁあああああああああ!)

 

 あまりの閃光に地面に倒れ目をふさぐ。

 目の前で閃光弾をぶちまけられたのかと思った。

 

(奥の手って目潰しかよ!)

 

 視界が元に戻り、樹海の夜特有の黒が戻ったころには少女はいなくなっていた。

 

 

   *

 

 

 のそのそとほふく前進で前に進む。

 兜を手に持ち、他はすべて装備している。

 ブラックアイスカッドサンダーを食らった俺はあの後嗅覚を頼りに少女の跡を付けていた。

 つけられている少女本人はまだ熊のストーカーが後ろにいることに気づいていない。


(いきなり正体がばれたのは計算外だったけど、結果オーライだ。

 俺にビビった少女は今、帰路についているはず。

 このままついて行けばおそらく人間の町に付ける!)


 ワクワクしながらほふく前進する。

 少女に俺のことがばれたら一貫の終わりなので、例えステールMKⅡが苔で汚れても気にしない。

 ほふく前進なのは、ばれないようにと言うだけで他に意味は断じてない。

 

(それにしても、だいぶ景色が変わってきたな)

 

 周りを見渡すと、樹海特有の大きな木はなくなっており代わりに前世の山のような細い気が並んでいる。

 小さいが見たことのないモンスターもいた。


 そのまま少女の後を追っていると前方に光が見えた。

 急いで兜をかぶる。


(おお! これは町の光!)

 

 前方には点々とそれでいて暖かい光がいくつもあった。

 その光を囲むように二メートルほどの土の壁がそびえたっている。

 入り口らしき隙間に少女が入っていくのが見えた。

 俺もこっそり後に続き壁の中に入った。


 壁の中はまごうことなき町だった。

 中には白い色が塗られたウッドハウスが立ち並んでおり、石で道も作られていた。

 街の至る所に松明が置いてあり、人も活気だっている。

 布の服を着て談笑する人、鎧に身を包み自慢話をしている人、酔っ払いどうしでのみあっている人。

 まさに町、町に来たという実感がする。


(十年……長かった! やっと俺は人のいる場所にたどり着いた!)


 感動でただでさえ狭い視界が歪んだ。

 俺は気づくと泣いていた。

 

(あれだな、うれし涙ってやつだな)

 

 フルアーマーで道の真ん中を堂々と歩く。

 周りの人が時々チラッとこちらを見るが、すぐ目を離す。

 どうやら俺の正体はばれていないようだ。

 安心しながら町を観光していて、俺はあることに気づいた。


(獣人とかエルフとかいないっぽいな)


 耳がとがっていたり、猫耳の人がいない。

 髪の色が赤色だったり、青色だったり、ファンタジーではあるが人間は一種類だけのようだ。


(これじゃあ、俺実は突然変異で生まれた熊の獣人って言い訳ができないな。

 もし熊って正体がばれたら、やっぱり狩られるんだろうか……)

 

 そう思うと熊ってばれたときのために知り合いを作っていた方がいいと思えてきた。

 熊でも話は通じるのだと、仲間になればばれても俺の言い分を聞いてくれるかもしれない。


(異世界から転生ってよくあることなのかな?

 まぁ、何にせよ、人間の知り合いを作りたいな。どうしよう?)


 悩みながら適当に歩いていると一つの看板が見えた。

 『冒険者ギルド デルミナ城下町 西支部』

 冒険者ギルドの看板だった。

 三階建てはありそうな巨大な建物、入り口は開けっ放しにしてあり、屈強な男たちが出入りしている。

 中は明るく、まだ営業しているようだ。

 

(冒険者ギルドか、ここでなら知り合いどころか仲間もできるかもしれない。

 うーん、どうするか……)


 俺が入り口付近で迷っていると、二人の屈強な男たちが喋りながら出てきた。

 どちらも百八十は超えているかという高身長で、銀色の鎧に着いた傷が歴戦の戦士だということを語っている。


「たくっ、せっかくいい気分で飲んでたってのによー、デモニックの禿げ野郎がいたんじゃ酒がまずくなるぜ。五大貴族様がギルドの支部に来るなっつの」

 

「しかし、デモニックにぶつかった女の子が可哀想だな。ありゃー、難癖付けられてどうなるか分からねぇぞ。新顔だったし、これは体でお払いコース決定じゃねぇの」


「あーあ、運が悪いなあの子も。ギルド登録時間がもうすぐだからって、もうちょい冷静になっとけばデモニックにぶつからずに済んだのに」


「新顔だから仲裁してくれる知り合いもいないっぽいし、今日に限ってギルドマスターも他の五大貴族の奴もいないし、本当に運悪いな。今度無事だったらなんか奢ってあげようかな」

 

(ギルドの登録時間ってもうすぐなのか!?

 早く入った方がいいな、だけどそのデモニックってやつ恐そうだな)

 

 どこの社会にも権力を盾にする悪いっぽいのはいるらしい。

 もし前世ならここでギルドに入るのが怖くて帰るのだが、今は違う。


(町の中を歩いて分かったけど大きい人でも二メートルを超えている人はいない。

 対して俺の身長は二メートル五十センチはある。大男に絡まれてもへっちゃらだな)


 二メートル五十センチという大きさがあまり浮かばない人は部屋の高さを見たら良く分かる。

 日本の大体の家の天井はだいたい二メートル五十センチぐらいだ。

 これでどれだけ俺の身長がでかい分かると思う。


(それに今はデモニックに女の子が絡まれてるらしいし、今しかないな。

 女の子には悪いけど)

 

 決意とともにギルドの中に入る。

 

(おおっ!)

 

 中の広さに思わず声を上げてしまう。

 入る前に三階建てと予想したがその予想は合っていた。

 ただし、一階の天井と二階の天井の真ん中が吹き抜けになっており二階と三階も見える。

 一階は食事処兼受付、二階は食事処兼パーティーの待ち合わせ場所、三階は情報交換の場としているようだ。

 食事処としているが実際は冒険者がテーブルを囲み酒を飲んでいる割合の方が多い。


(さっそく、ギルド登録するか)


 受付まで真っ直ぐ行こうとしたところで、前の方からもめる声が聞こえてくる。

 それを回りが困ったような顔や気の毒そうな顔で見ていた、どうやらあいつ等がデモニックと難癖付けられた少女のようだ。

 二メートルを超えるスキンヘッドの大男、デモニックが少女の襟元を掴み持ち上げた。

 自分がデモニックの身長を超えているとはいえ前世の影響か恐い。


「ああ!? だから今すぐクリーニングを出せって言ってるんだよ! 金貨十枚だ!」


 持ち上げられた金髪の少女がソプラノボイスで答えた。


「いや、でもですね。金貨十枚何てそんな簡単に用意できませんよ。銅貨十枚で勘弁してください」


「勘弁するわけないだろ! しかし金貨を十枚は払えないのか、なら違う方法で返すしかないなぁ、こりゃ」


「ま、まさか体で支払えとかじゃないですよね。もしあっても一時間肩たたきとかで済みますよね……」


「残念だがそのまさかだ。今すぐ払わないとな! 別に喧嘩でしたっていいんだぜ」


「D級の私じゃ、B級のデモニックさんに何てどうやっても無理ですよ。

 喧嘩はやめてください」


「じゃあ、おとなしく払うしかないよな! 夜の町おひとり様ご案内だ」


「いやー、嫌ですよ。今すぐ帰りたいです」


「じゃあ代わりに金貨十枚払える知り合いか、俺に喧嘩を挑める馬鹿を連れてくるんだな」


「分かりました。十分で連れてくるんで持ち上げるのやめてください、お願いします」


「そうかい、オラぁっ」


 デモニックが少女を投げ飛ばして手を離す。

 近くのテーブルに少女がぶつかる。

 テーブルを囲んでいた人たちが驚いている、料理もテーブルの上でひっくり返っていた。

 なんかこの展開不良漫画で見たことある。


「ただしな、十分はダメだ。十秒で見つけな。

 あとこれがラストチャンスな」


「えっそんな無茶な」


 半分涙目で少女があたりを見渡す。

 みんな気まずい顔をするだけだ。

 

「あっ、居ました! あの人です」

 

 だがどうやら運よく知り合いがいたようだ。

 無事解決したし、俺は早く受付を済ませよう。


「あの、めっちゃでかくて、渋い緑のフルアーマーを付けた人です!」


(ん?)


 ふと少女の方を見ると目が合った。

 今日で二回目だった。 

 金髪金眼で二枚の金の羽のエンブレムのハーフプレートアーマーを付けた少女。

 

(あれ、この子樹海で会った子じゃ……)

 

「へぇ、お前が俺に金貨払ってくれんのか? それとも喧嘩しようってのか?」

 

 ずんずんとデモニックがこっちに来た。

 

「どちらにせよ、相当の覚悟はあるんだろうなぁ、ああ!?」


(OH……)


 入り口で迷ったとき、帰っとけばよかったと思った。

 


熊肉っておいしいんですかね?

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