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クマさん転生!  作者: アキシチ
第一章 樹海のクマさん
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第一熊 クマさんに転生!

 目の前に熊がいた。

 身長は百五十センチ程度だ。

 自分の身長より小さいと舐めていた。

 秋の山で俺は熊にねじ伏せられはらわたを食べられている。

 肺が潰されていたせいで苦痛の声も上げられなかった。

 暗くなっていく視界の中、走馬灯が流れていく。

 幼稚園、小学校、中学校、高校。

 そしてついさっきのこと。

(本当、なんで熊なんかに挑んだんだろうな。あいつ無事かな?)

 そして俺は後悔とともに熊に食い殺された。


 死ぬ五時間前、俺は山のバス停のベンチに座っていた。

 理由は簡単、幼稚園の頃からの親友に「ひと狩り行こうぜ!」と誘われたからだ。

 親友とは昔から一緒に蟻にノアの洪水を起こしたり、全長十センチのトカゲを退治したりとバカなことをやってきた。

 親友がいきなりこんなことを言ってきたのも珍しくはない。

 この前も「人類で最強の拳法を作ったんだ、習得しよう!」などと言われて手首を粉砕した。

 因みに親友はコンクリートをぶん殴り指の骨を折っていた。


(クマか、動物園で見たことしかないけど実物だとどうなんだろ)


 そんな呑気な事を考え、俺は膝の銃をなでる。

 なでたのは俺の相棒、改造エアガンのベアラーMKⅡだ。

 昔から俺は工作が得意でこういうものも良く作っていた。

 俺のベアラーMKⅡは設計上の上では人に致命傷も与えることも可能だ。

 怖いから人に向けて撃ったことはないけど。


(たぶん熊にも効くだろう、実践が楽しみだ)


 撫でながらニヤニヤ笑っていると親友がやって来た、三十分の遅刻だ。

 まぁ、いつものことなので気にせず山の奥へと入っていく。

 

 親友のベルトには一つの改造エアガンが刺さっていた。


 名をジョニースペシャルと言うらしい。

 不器用な親友が俺の手を借りず作った改造エアガンだ。

 まだ試し打ちもしてないらしいが、親友はベアラーMKⅡより威力があると豪語している。

 あと「こいつで熊を再起不能にしてやる!」と言っていた。

 だが残念、熊を仕留めるのは俺のベアラーMKⅡだ。

 

 山の中に進み五時間が立とうとしていた。

 結果的に言うと俺たちは迷子になっていた。

 二人とも一時間ぐらいで「もう帰ろうぜ」となっていたのだが道が分からず帰れなかったのだ。

 熊に会うどころかそこら野垂れ死にしそうだ。


「あー、まさか迷うなんて。こんな事なら軽い気持ちで来るんじゃなかった」


 五時間水分を取らず歩き続けた喉でぼやく。


「ホントだな、普通にモン〇ンで狩りしとけばよかった。

 リアルでハントなんてつまんないだけだな」


 生気のない目で親友が相槌を打った。

 熊に出会ったのはその直後だった。

 

「ん? あれもしかして熊じゃないか?」

 

「おお! ホントに野生にいるんだな、クマ!」

 

 最底辺にまで下がったテンションが最高になる感じがした。

 事実テンションが上がっていた。

 俺は腰のベルトから相棒の銃を取り出した。

 その手を親友が止める。


「お前の出る幕はない、自分で十分だ」

「フッ、しくじるなよ。」

 

 俺は相棒の銃を腰にしまい、親友は熊に近づいて行った。

 改造エアガンの射程距離に入ったところで親友が止まる。

 的である熊は地面のどんぐりを食べていた。

 身長は俺より小さい、これぐらいの熊なら爺さんが撃退したといううわさも聞くし大丈夫だろう。

 親友が狙うのは目だ。

 格好つけて片手でジョニースペシャルを構える。


「あばよクマ公、死にな!」

 

 親友が引き金を引く。

 弾丸が発射されると同時にジョニースペシャルが破裂する。


「うあっ」

 

 どうやら改造が不完全でエアガンが壊れたらしい。

 しかもエアガンの破片やら何やらで親友の手はズタズタだ。

 熊より先に親友の手が再起不能になった。

 何故裏切ったんだジョニー!

 

 熊がこちらに振り向いた。

 熊の横の木には小指ほどの穴が開いている。

 どうやら親友の弾丸は木に当たったらしい。

 熊がのそのそとこちらに歩いてきた。

 熊の走る速度は時速五十キロを超えるらしいが、そんな姿を想像できない。

 これならペットのスプリガンジャックハウンド(チワワ)の方が速そうだ。

 

「痛い痛い痛い! というか熊こっちに来てるじゃん! やばいやばいよ!」

 

 親友がなんか言っている、どうやら手をやられ弱気になっているようだ。

 熊はこちらを完全にターゲットと捉えているようで真っ直ぐこちらに向かっている。

 

「まぁ、落ち着けよ。ほい、ハンカチ」

「ああ、ありがとう……って違うよ! 熊来てるだろ熊! どうすんだよ!」


 俺が渡したイチゴ柄のハンカチで手を抑えながら親友が焦っている。

 それとは対照的に俺は冷静だった。

 正確には危機感を感じていない馬鹿だった。


「熊……と言っても所詮は百五十センチ程度の雑魚さ。

 俺に掛かったらひと捻りだ。

 いざとなったらお前が編み出した「熊殺し肉球拳」でぶっ飛ばしてやるよ」


「お前馬鹿じゃねーのか、百五十センチ程度とはいえ熊だぞ!

 それにその技ってお前が手首を粉砕した奴じゃないか!

 繰り出すのに十秒もかかるし、出来ても小枝を折る程度だし!」


「そうかだったら使わずに倒そうか。

 まず熊に近づき俺のベアラーMKⅡで目を潰す。

 熊が怯んだところでもう片方の目も打ち抜く。

 そして目が見えない相手の攻撃を躱しながらハチの巣にする。

 完璧だな」


「だったらお前やって来いよ、絶対無理だから!

 そのうちに自分は逃げるから! 熊がそこまで来てるし!」

 

 どうやらまだ親友は弱気になっているらしい。

 まるでライオンを前にしたチワワだ。

 それにそこまで言うならやってやろうじゃないか。

 

「いいぜ、やってやろう。その間に逃げろよ」


「えっ、マジ? 逃げようぜ」


「熊って時速五十キロで走れるんだろ。

だったら追いつかれて後ろから襲われるよりこっちから言った方がいいんじゃね」

 

「で、でもだな……」

 

「すぐに追いつくから後で合流しようぜ。それに秘密兵器もあるしさ」


 ちなみにこの時の俺は本気で死亡フラグを立てまくっていることに気づいていなかった。

 たぶん五時間山を歩いて疲れたせいで深夜のテンションになっていたのだろう。

 

「分かった! 絶対来いよ、約束だからな!」

 

 ハンカチを手に親友が去っていく。

 なぜか今生の別れみたいな顔をしている。


(心配性だな、あいつは熊と言っても俺より小さいんだぞ)

 

 熊が至近距離まで近づいてきた。

 断食でもしていたのか荒ぶっている。

 

「まずは一撃!」

 

 熊の目を目掛けてベアラーMKⅡの引き金を引く。

 破裂なども起こさずに弾丸は空中を走った。

 

「チッ」


 弾丸は熊の耳をかすっただけだった。

 けど耳だとはいえ神経は通っている。

 少しぐらい怯むだろうと思っていたところに……。

 

 熊の腕が俺の頭に振るわれた。

 

「るぇ?」


 これは俺の知らなかったことだが、荒ぶっている熊は猟銃で肩を撃たれてもその足を止めることはないという。

 生きるか死ぬかの戦いの中ではこの程度で怯んでいては生きていけないのだ。


 視界が回転しながら、地面に叩き付けられる。

 片方の視界が赤い。

 目の前には紅葉より赤い落ち葉たち。

 手の届かない場所に落ちたベアラーMKⅡ。

 どこか遠くで悲鳴が聞こえた気がした。


(何が起きた?)

 

 次の瞬間右手に思い何かがのしかかった。

 目を追いやると見えるのは黒い手と爪。

 目線を上に向けると熊の顔が見えた。

 何故だろうか熊の顔が悪魔のように微笑んでいるような気がした。

 まるで『丁度いいところにおいしそうな餌がいた』とでも言いそうな顔。

 俺はいまさら恐怖感に襲われる。

 それと同時に痛みを思い出す。


「あぐぅうああっ」

 

 無意識に左ポケットに手を伸ばした。

 ポケットから秘密兵器を取りだす。

 手作りの手榴弾だ。

 熊との距離は目と鼻の先、ここで爆発させれば俺も致命傷を食らうだろう。


(構うものか、自爆覚悟だ! )

 

 ピンを抜こうと手作り手榴弾を顔に近づける。


「がッぁあ!」

 

 熊の牙が俺の腹に突き刺さる。


(痛い、が! そんなの気にしてたら死ぬ!)

 

 ピンを噛み一気に引き抜く。

 手榴弾を持った左手を熊の顔に叩き付ける。

 

「喰らえ、熊野郎!」


 数秒後手榴弾が爆発した。

 必要以上の煙が散りばめられ、前が見えない。

 左手に痛みが駆け巡る。

 きっと左手を見たら後悔するだろう。


(死ぬよりましだ。それより熊は……)


 煙が晴れていく。

 

(マジかよ)


 そこには熊がいた。

 毛が焼けているがそれ以外に変わった様子はない。

 ちょっと驚いたみたい顔をしている。

 

(まぁ、煙が多かっただけで威力は花火の数倍程度だったからな。

 ……けど驚いて逃げるぐらいしろよ)

 

 熊がまた俺の腹に牙を立てる。

 もう抵抗する気力もなかった。

 そして俺は食われていく。

 肺が潰れて息が出来なくなる。

 走馬灯が頭の中に流れてくる。

 そして熊に挑んだことを後悔して。

 俺は……死んだ。



    *



 目を覚ますとそこは樹海だった。

 

(……ん?)

 

 人が中に住めそうなビルより大きい木。

 学校のプールより幅の広い川。

 どこまでも広がっている緑。

 どれもこの世のものとは思えないほど壮大だった。

 俺が金持ちだったらここら辺に秘密基地を立てたい。

 空気はうまいし、川の水は澄んでいる。

 川の水面に映る子熊も小さくて可愛い。

 

(……あれ?)

 

 そこで俺は自分が熊になっていることを気が付いた。


(えぇぇえええぇえええ! 何で熊になってるんだ!)

 

 気配がして振り返る。

 そこにも熊がいた。 

ただし頭から角の生えた熊が。

 

(あれ? ……どうなってんだ?)


 こうして俺は異世界の樹海に転生した。


 

日本に野生の熊は二種類しかいないらしい。


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