第六話 カドデリック、始動
「――ということなんだ、ハナコ」
「わかってる。わかってるよ……」
雄一郎は、ハナコにきちんと「あのえっちな本は花蜜のもので、自分は預かっていただけ」ということを説明した。
花蜜は後ろでそんな二人を見ていたのだが、突然何かに気がついたようにハナコを指差した。
「あ! こいつ、カドデリックのアンドロイドじゃねぇか! しかも最新型! 雄一郎、お前いつのまに買ったんだよ〜。――にしてもさすが最新型、会話用の人工知能の技術もずいぶん進歩してんだなぁ」
花蜜は空気が読めない。
「お前な、人が必死で女の子慰めてるのにそりゃないだろ」
「女の子って。機械だろ? 機械相手に何を言ってるんだお前は。変態か?」
花蜜の反応も当然ではある。むしろこれが普通の人間のアンドロイドに対する接し方だ。雄一郎は何も言い返せなかった。
「じゃあ、俺はこのえっちな本も返してもらったし、もう帰るわ」
「おい! 待てよ!」
花蜜の靴の音はだんだん遠ざかっていった。
「(ハナコは……ただの機械なのか? こんなに、人間みたいに怒ったり、拗ねたり、笑ったり、泣いたりするこの子は……ただの機械なのか?)」
「ゆーいちろー。どうしたの? わたしのせいで落ち込んでるの?」
日はとっくに落ちていた。
* * *
「本当に大変なことが起きる前に、なんとかしなくては。――もしもし。僕だ。至急、ここに戦闘用ロボットを何体か送り込んでくれ。紛失した、我が社のアンドロイドを回収しなくてはならない。逃げるようなら…………壊してしまってかまわない」
* * *
朝露がキラキラと、日の光に照らされ輝くころ。テレビを観ていたハナコと雄一郎は驚愕していた。
「カドデリックからのお知らせです。先日発売いたしましたKD:HW-GR型アンドロイドに重大な欠陥が見つかったため、その回収を行っております。アンドロイドに取り付けられたGPSから位置情報を調べ、該当するアンドロイドがいる家庭に我が社のロボットが参ります」
そのとき、部屋のドアを叩く音がした。