俺とおっさんと道端のヅラ
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」
今日は天気が良いので、俺は近くのレコードショップにCDを買いに行くことにした。最近はこういう店はあちこちで潰れていると聞いて大変だけど、幸い近所のこの店は今日もたくさんのものを仕入れていて、俺が見たときも数人の客が品物を選んでいた。
俺が狙うのは、最近流行りのロックバンドの新作CDだ。インディーズで活躍していて、程よい昔っぽい感じが受けているらしいと前にラジオのDJが一押ししていた。まあ、俺はそう言うのは関係なしに音楽が好きだから買っているわけだけどな。
そう言えば、前にその人たちが、自分たちが音楽の道を進むきっかけになった人たちみたいな感じで、凄いギタリストの人の名前を挙げていた。確かどういう名前だったっけ、と思い返そうとしたときだった。
「……?」
俺が道端で見てしまったのは、まさに世にも奇妙な物体だった。
「こ、これって……」
それは、おっさんの被るようなカツラそのものだったのだ。増毛したと相手に見せるような礼儀作法の一つとしてすっかり定着してしまったようなカツラだけど、こんな道の真ん中に堂々と落ちているなんて、信じられなかった。
すると、道の向こう、ちょうどCDショップに進める曲がり角から、慌てた様子で一人の男の人が走って来た。その髪は、まさしく太陽のように光り輝いていた。
「あ、なんだここに落ちていたのか!」
でも、その男の人、たぶん50代くらいのおっさんだったと思うけど、妙に爽やかな良い声を出しながら、俺が手に持っていたかつらの方を向いた。そして、そのまま俺から堂々とかつらを受け取り、頭にかぶせたのだ。
「そ、それは……」
「いやー、このおっさん、自分のかつらを落としちゃうとはねー」
サンキュ、助かったよ。
その喋り方からは、頭がきれいに輝きだす中年の年頃の人とは思えないほどの若々しさを感じた。そのまま俺が唖然とする中、男の人はふさふさの髪の毛を取り戻したことの嬉しさを表すかのように、そのまま道の向こうへと消えていった。
俺がしばらく道の真ん中で唖然としたのは言うまでもない。
いったい、あの人は何者なのだろうか。何のためにこの道を歩き、うっかりかつらを落としてしまったのだろうか。
その答えを知ったのは、意外にもその夜のテレビ番組だった。
『さて、今日も始まりました『MUSIC EXPRESS』……』
若手からベテランまで登場する俺の大好きな歌番組、父さんと母さんと一緒にいつも見ているのだが、今回のゲストは日本のロックシーンに名をはせた名アーティストだという。そして、呼ばれて登場したその顔を見て、俺はびっくり仰天した。
「ど、どうしたの?」
「い、いや……な、名前をようやく思い出したから……」
それくらいで大げさな、と母さんは大笑いだったが、正直俺はそれどころじゃなかった。
あの時かつらを拾い、さわやかな笑顔で挨拶をした中年の男の人が、テレビの中にさっそうと現れ、司会の人と和気藹々と会話していたからだ。
そして、その名前を聞いた俺は、とうとう思い出した。大好きなロックバンドが尊敬するアーティストは、まさしくこの『おっさん』だったのだ!
それからもう一つ、今回の番組の中で、彼は一枚のCDを見せた。最近実力を伸ばしているという新人ロックバンドのCDを、レコードショップで購入したというのである。
「……やっぱり、ベテランって凄いんだな」
ついそんな独り言が、俺の口からこぼれてしまった。
確かに頭は綺麗に光り輝く状態なのかもしれない。でも、その中に詰まっている音楽の頭は、きっとふさふさの若い毛並みで覆われているのかもしれない。
お題:そ、それは・・・おっさん 必須要素:CD




