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おとうさんの靴の船

「おとうさーん、いっしょにおふろにはいろー!」


 今日もコータ君は元気にお父さんにおねだり。お母さんが笑顔で見守る中、お父さんはいつも通り一緒にお風呂に入る事にしました。


「ようし、今日はお風呂に新しい仲間を入れてみようか」


「えー、どんなの?」


 いつもお風呂で色々な玩具と一緒に遊ぶコータ君。こうやってお父さんが新しい仲間を一緒に加えてくれるのを楽しみにしていました。ですが、今回お父さんが用意したのは、コータ君にとってはちょっと意外な物でした。


「あれ、これってくつ?」

「そうだよ、いつも頑張ってきたから、今日は一緒にお風呂に入れてあげるんだ」


 お父さんの靴と言う豪華ゲストが、お風呂にやって来たのです。いつもお外で活躍しているはずの靴がやってきた訳ですから、こーた君が驚いたのも無理はありません。

 すると、お父さんは早速靴を外に出し、その中から変な物を取り出しました。まるで靴の中にある影のような物ですが……


「中敷って言うんだ」

「なかじき?」


 下敷きみたいな名前だな、とコータ君が思っていると、お父さんはこの『中敷』や靴をあっという間に泡だらけにしてしまいました。


「お外の汚れは、ここで全部取っちゃうんだ」

「ふーん、そうなんだー」


 ゴシゴシシャカシャカ、靴の汚れを取るお父さんのブラシの音を聞きながら、コータ君はその様子を眺めていました。早く一緒にお風呂に入ってくれないかなと待ち遠しいようですが、特別ゲストは丁寧に扱わないと、と言うお父さんの大人の発言に、素直に従う事にしました。


「れでぃはだいじにあつかうんでしょ?」

「お、よく知ってるな?」

「おかあさんがおしえてくれたんだもーん」


 いつも気の強いお母さんらしいな、と笑いつつ、さっきの言葉は内緒だよ、とお父さんはこっそりコータ君に耳打ちしました。

 そして、いよいよコータ君が待ちに待った瞬間です。


「うわーい!おふろにくつがいっしょだー!」

「それー、ばしゃばしゃー!」


 早速大はしゃぎのコータ君、バシャバシャと波を作るお父さんもそれを見て嬉しそうです。

 すると、コータ君はこの靴を貸してほしいと言いました。そして、右側の靴を持ち、それを浮かべようとしたのです。ですが……


「……あれ、なかにみずがはいっちゃう……」


 コータ君の自慢の大きくも可愛いお父さんの靴の船。ですが、周りからじゃんじゃん水が入って来て、中々思い通りに浮かばないようです。


「うーん……」


 一体どうして、と尋ねられたお父さんは、コータ君にこんな事を教えました。

 船と言うのは全部浮かぶものばかりではありません。南の海には、この靴の船のように、体の半分を水に浸かって進む船がある、と。そうやって、乗ったお客さんが水の中を見れるように工夫をしているのです。


「なんだか、はずかしがりやさんのふねだねー」

「はは、そうとも言えるかもね」


 なんだかかわいいなー、と言いながら、ふわふわと浮き沈みするお父さんの靴船を見ながら、コータ君はのんびりした表情をしていました。


「……おっと、眠っちゃ駄目だぞ」

「あ、ごめんなさーい」


 どうやら、そろそろコータ君も自分の夢の中で船をこぐ時間が近づいてきたようです。


「ありがとう、おとうさん」

「楽しかったかい?」

「うん、またいっしょにあそばせて!」



 ……ただ、その言葉を聞いたお父さんはちょっと言葉を濁してしまいました。


 あまりにもふわふわゆるゆるとお風呂の大海原を進み過ぎたお父さんの靴の船は、元の『陸の船』に戻るのに、かなりの時間を費しそうになってしまったのですから。

※実際の靴の洗い方や扱い方とは異なる場合があります。ご了承ください。

お題:ゆるふわ愛され船 必須要素:靴の中敷

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