若き天才と栄光の美「人」
「はぁ……」
今日も僕の口からため息が漏れた。不満よりも疲れが多めのため息だ。これを出さなければ、僕はパニックで疲れ切って死んでしまうかもしれない。
机を前にそんな事を考えている僕の近くに、1人の男――いや、人間の男に似た感じの姿の生命体がやってきた。そして落ち込んでいる僕に突然、唇を付けてきた。
「そう落ち込むなよ、博士。『俺たち』がいるじゃないか♪」
この男はいつもそうだ。同性なのもお構いなしに、様々に自分をアピールしてきては僕の顔を真っ赤にさせたがる。そして慌てる僕を見て、彼はいつも笑顔を見せて励ましたり優しい言葉をかけてくるのだ。
確かに悪意はないかもしれないが、僕にとってはまだ慣れない行動だ。と言うより、はっきりいって嫌いだ。でもそんな事は言えない。『彼』は――いや、彼を含む面々は、僕の長年の研究成果によって生まれた存在だからだ。
若き天才博士。そんな名誉や栄光を、今の僕はあちこちから得ている。
その一番の功績は、目の前にいる『彼』だろう。まるで芸能プロダクションにスカウトされたかのような美貌を持つ、文字通りのイケメンである彼は人間ではない。生命誕生の手掛かりを探す中で僕が編み出した「人口生命」を作る技法を用いて完成させた存在だ。DNAの代わりに別の物質が備わっていたり、骨を構成する物質も違うけれど、普通の人間と同じように言葉も話せるし、こうやって「好き」と言う感情も出ている――まぁぶっちゃけやりすぎだけど。
皆、僕を見て凄い、格好いいという。素晴らしい栄光を勝ち取った、とテレビ局も新聞も言う。僕はそれに笑顔で答えているけれど、内心その言葉を素直に喜べなかった。『彼』には言えないけれど、正直『彼』は失敗作だったからだ。
ここだけの話だが、本当に僕が創り出したかったのは美貌の『美女』だった。スケベな考えだけど、胸が大きくて優しくて、そして積極的に僕に絡み、毎日楽しませてくれる――仕方ないだろう、僕だってまだ若いんだから。
そのために僕は人間に似せた人工生命、それもとびきりの美女を創り出すために研究に研究を重ねた。そして何度かの練習の末、ぶっつけ本番で僕にぴったりの人工生命を創り出すことに成功した――はずだった。
美女が入っているカプセルの中にいたのは、僕の事がとても大好き、頭脳明晰、容姿端麗な『美男』だったのだ。
「おーい博士ー♪」
そんな彼が、僕を呼ぶ。
創り出してしまった以上、僕はずっと彼の面倒を見る必要がある。過剰なまでのスキンシップ、たまに注意はするけれど、どうしてもはっきりと嫌いとは言えない。嫌い、嫌いと心の中に思っているうちに、もしかしたらそれが――なんて考えてしまう事もあるけれど、もう1つの『失敗』の様子を見ると、その心は吹き飛んでしまう。
確かに『彼』は人間とは違う。僕はそのように設計した。
でもまさか、彼が人間とは全く異なる方法で増えるとは予想もしていなかった。その結果が――。
「よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」よう♪」…
――毎日分裂に次ぐ分裂を重ねた結果、何百人にも増えた、全く同じ姿かたち、同じ構造を持つ美男の『人工生命』の大群、と言う訳である。
「……おはよう、みんな」
こうして、今日も僕の『研究』が始まる。大量の栄光の成果に囲まれながら、振り回されまくるという1日が。
でも、僕は本当にこれが嫌いなのかたまに分からなくなることがある。
結局、栄光なんて他人が決めるものなのかもしれない……いや、あの『彼ら』に決められるのはアレだけど。
お題:僕の嫌いな栄光




