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試合の夜の表と裏で

日本時間、今は夜の真っただ中。

 空には満月が顔を出し、金色の光を辺りにまき散らしている。


 こういう日には明りを消して、月の光だけで過ごすというのも乙なものかもしれないけれど、今日は別だ。俺の大好きなメジャーリーグの試合がテレビで生中継されるからだ。

 早速テレビを付けると、そこでは既に試合が盛り上がっていた。


「お、やってるやってる……」


 そんな事を考えていると、携帯に一通の電話が入った。俺の古びたガラケーは、今も立派に地球の裏側からの電波を受信してくれている。


「もしもしー」

『あ、今見てるー?』


 何を見ているのか、それは言わなくても分かる。

 アメリカに渡り、大学に通っている俺の彼女は今、アメリカのメジャーリーグの試合を球場で楽しんでいるところだ。


『いやー、今日は朝早くで大変だったよ』

「こっちは夜ふかし気味で辛いんだけどな……」


 互いに同じものを見ても、体で感じる事は違う。遠距離恋愛の辛いところかもしれないけれど、こうやって一緒に声を交わすと、それは逆にうれしさに変わる。

 頭の良い彼女の夢を壊すわけには行かない。だから、ずっとこの場所で帰りを待っている。あの時の俺の決心は何度も揺らぎかけたけれど、今改めてその決意が心の中に――。


「あ、打った!打った!」


 その時だった。俺と彼女、二人が応援するチームのエースが、特大のホームランを放ったのは。

 地球の中心を挟んだ表と裏、双方で興奮が収まらないが、俺の方は騒音が怖いので静かに盛り上がることにした。だけど、携帯から聞こえるのは興奮冷めやらぬ生の球場の音だった。


 そして、突然彼女の声が聞えなくなった。


 いったい何があったのか、どうしたのか。俺が何度も尋ねた瞬間――。


「やったああ!!おおおおお!!」


 彼女が突然盛り上がった訳はすぐに分かった。何と、先程のホームランボール、見事に彼女の目の前に落ち、そして今、柔らかい掌の上に乗っかっているというのである。周りからも羨ましい、おめでとう、と言う声が聞こえているのは何となくわかった。


「凄いなぁ……」

「えへへ……今日はずいぶんついてるみたいだな、私」


 

 しかし、その会話はもう少しで終わろうとしていた。俺の古いガラケーはすぐに電池が切れ、彼女の方は電話よりも試合に集中するのが大事。

 試合が終わった後に、改めて電話をかけなおそうと決め、俺たちは試合をじっくりと見届けることにした。


「じゃあな」

「うん、またね!」



 ――そして、再び俺の部屋の中には、テレビの音のみが響き始めた。

 だけど、そこにいるのは決して俺一人だけじゃない。俺と一緒に、大事な人も試合を見続けているからだ。



 ちなみに、試合の結果は、勿論……。

お題:メジャーな夜 必須要素:携帯

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