♂と♀と重要任務
俺が彼女と出会ったのは、とある大学にある部屋だった。
その時の彼女は、まだ何も知らないあどけない一人の少女だった。突然やって来た俺の姿を見ても、ただ慌てふためいて驚くだけで、何もすることが出来なかった。でも、それでも俺を追い返すという事はしなかった。何故なら、俺がここにやって来た時点で、既に追い返すのは不可能だったからだ。
「入っても……いいかな」
念のために俺はそう言って了承を得たけれど、その中に入ることは、最早宿命のようなものだった。彼女自身も、その事は納得しているようだった。でも、最後の踏ん張りがどうしても利かない様子だった。
「あの……」
「……そうだよな、緊張するよな」
ここだけの話、俺と彼女には非常に重要な任務が課せられていた。双方とも、大学の中で何度も何度も選考を重ねて選ばれたエリート中のエリート、そして互いに出会い、関係を重ねることが大事な役割となっていたのだ。去っていく仲間に頑張れ、きっと出来ると応援されたのは、きっと相手側も一緒なのだろう。
「……私、本当に大丈夫なのでしょうか」
とは言え、いくら自分のこれからの役割が分かっていたとしても、彼女にとってはどうしても不安さが残っているようだった。今まで積んできた様々な準備、自分たちをここまで導いてくれた人たちの努力、それが本当にこれから活かされるのかどうか、もしかしたらここで終わってしまうのではないか。
でも、ここで立ち止まっていては、それこそ完全に失敗してしまう。
俺は、不安がる彼女の肌にそっと触れた。その途端、彼女を覆っていた「心の膜」が一瞬で消えたのが分かった。
「……心配ないさ。きっと俺たちは成功する」
彼女は、とても瑞々しい姿をしていた。
その柔らかい肌は、まるで俺を導いているかのようだった。このような姿をして、どうして失敗の事を気にしてしまうのか、逆に疑問に思ってしまうほどだ。そして、彼女自身も次第に自らの持つ力の価値を思い出し始めたようだった。
「……そうですよね……私……ありがとうございます」
「仲間たちがいっぱい応援してくれてるし、それに見合った努力を俺たちはしてきた」
だから、絶対に大丈夫。俺たちに課せられた『任務』は、絶対に上手く行く。
そして、改めて尋ねた俺の質問に、彼女は了承の頷きを返してくれた……
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……その時、母体の幹細胞から培養した精子は、卵子の内部へと潜り込んでいった。卵子を今まで覆っていた膜は消え、一切の外壁が無くなった精子はそのまま卵子と一体になり、我々はとうとう絶滅危惧種の人工授精に成功した。
より詳細かつリアルな解説については後述のものを参照して頂きたい。しかし、この実験の成功によって、世界に僅か数十匹しかいないこの種の未来に光明が差したのは事実である。
我々が生み出したこの未来の結晶が、今後良い形で生かされることを祈るばかりである。
――デカイ大学・A教授・著『絶滅危惧種オオサンショウハオオツブデメチャカライウオ人工受精成功について』より
お題:思い出の関係 必須要素:リアルな描写




