暴力沙汰は高くつく
【注意】
一部暴力的な表現が含まれています。ご注意ください。
「ただいまー」
今日も私の彼氏が帰ってきた。いつも通りの呑気で明るい声を聞いて安心する私だけど、今日だけはそうはいかない。ちょっとこっちにおいでよ、と言うと、どうしたのかと彼氏がこちらに寄ってきた。
そして、彼氏がこっちに近づいてきたところを見た私は、行動に出た。
「うりゃぁぁぁぁぁっ!!」
「ぎゃあああああ!!」
一気に相手にスープレックスを決めた私、結果は勿論一発KOだ。
これで自分が何をしたか分かっただろう、と言った私だけれど、彼氏は逆に私に怒ってきた。一体なぜ突然こんなことをするのか、いきなり暴力を振るうなんて、と。でも、私の方はそれ以上に怒っていた。昔鍛えたスープレックスの技を再び披露するほどに。
「思い出しなさい!昨日私になんて言ったか!」
「そんなこと……愛してるって言ったぜ!?それが悪いのかよ!!」
あー、やっぱり。彼氏は全然覚えていないみたいだ。
私が指差したのは、家の中で飼っている一頭のカメ。今は何とか体調が戻り、甲羅から顔を出してのんびり歩いているけれど、先程までは本当に命を落とすかもしれない状況だった。その原因は、ずばり昨日の彼氏にあった。
「貴方、全然覚えていないかもしれない……か、泥酔していたからね」
「で、泥酔……」
その単語を聞いて、彼氏の方も次第に冷静さを取り戻し始めた。
昨日、家の中でたっぷりお酒を飲んだ私と彼氏。勿論二人とも成人なので、たっぷり思う存分飲んだのだが、その時に彼氏がふと立ち上がった。一体何をするのか、と動いた私の目の前で――。
「さっきの痛み、覚えているでしょ?」
「お、おう……凄い痛いんだが、それがなんだよ……」
「あのカメもね、昨日同じくらいの事をされたのよ!あなたに投げつけれられて!」
おいでおいで、と亀を誘い、うりゃあっ、と勢いよく壁に投げつける、酔っぱらって何度も投げつけた彼を見て、酔いが一気にさめた私は何とか止めようとした。でも、暴走する彼を止めることは不可能だったのだ。だから、もう一度会うこの時を使って、大事なカメが味わった痛みを味あわせた、と言う事である。
「……そ、そうか……」
私の言葉を聞いて、彼氏もようやく納得し、そして私にごめん、と謝罪した。亀の甲羅についたかすり傷が、昨日の大暴れを表す証拠であることを、彼氏も理解したのである。
すまない、と凹む彼だけれど、これ以上私は彼氏を責めない事にした。幸いカメの方の命に別条はなく、骨が折れたりすることも無く、平穏に毎日が過ごせるようになっている。
「これからは気を付けるよ、あまりお酒は……」
「うん、そうしてね……ってどうしたの?」
そう言った私は、彼氏が後ろの方を指さしている事に気が付いた。振り向いた私の顔は、あっという間に青白くなった。
「……」
だってそうだろう、私の先程の大暴れのせいで、家の中の様々なものが破損してしまっていたからだ。机に至っては大きなヒビが入ってしまっている。
「……」
「……ま、やっぱり暴力は良くないって言う事かもしれないな」
二人揃ってしょげる私と彼氏を見ながら、カメは呑気に歩き続けていた。
お題:おいでよ「うりゃぁ!」




