壁の目のカンニング
「おい、それってどういう事だ……」
「わ、分かりません……でも、これは確かに……」
カンニングの跡だ、とその試験官は顔を青ざめながら告げた。
彼らが受け持っていたのは、日本を代表する筆記試験。そこではテストの内容や結果は厳重に管理されており、問題用紙はテストが終わればすぐに回収、テストで用意できるのは筆箱や時計のみと言うしっかりとした体制が作られていた。そう、そのはずなのだが、試験官たちの目の前にあったのは、複数人が全く同じ問題を間違え、そして同じ問題を正解にしているというどう見ても怪しいテストの結果であった。
「一体どういう事なんだ……?」
絶対そのような事はあってはならないはずなのに、これはどういうことなのだろうか。試験官たちは頭を悩ませていた。だが、ここで立ち止まっていては事件は解決せず、また再発してしまうかもしれない。
早速、今回問題となった会場で受験をした人たちの名簿が手渡された。皆、それぞれ様々な場所から受験をしにここへ向かってくる真面目な人たちばかりのはずなのに、と思いながら試験官たちが目を通していた、その時であった。
「あ、あの!これって……どういう事でしょうか?」
そう告げたのは、試験官の一人だった。
今回の『カンニング騒動』の元凶である問題用紙を持っていた三人の住所が、どれもみな同じところだったのである。家族や兄弟ならあり得る話かもしれないが、さらに分からないのはその住所の内容だった。この場所にあるのは『家』ではない。
「……あの『学校』じゃないか!」
しかも、もう一つ分からない事があった。ここに書いてある三人は、確かにこの学校を卒業した経歴のある人たちだが、どれも今からずっと昔の事であり、しかも全員とも今はこの世にいない存在である、という事が明らかになったのである。
何が何だかわからない、理解が出来ない謎の事態に、試験官たちは困惑の色を隠せなかった。
と、その時であった。
「あ、あの……」
試験官の集まる会場に、一人の男性がやって来たという情報が入った。普通は出入り禁止の場所だが、今回は別であった。例のカンニング事件の犯人を知っているというのだ。
そこにいたのは、白衣を着た中年の男性であった……。
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「……なるほど、スーパーコンピュータの研究を……」
「ええ、そうなんです……」
今回試験会場になった大学は、スーパーコンピュータの研究で知られる、と言うのは試験官たちもよく知っていた。普通のコンピュータよりも遥かに優れた力を持ち、『心』を生み出す可能性も秘めているというこの研究の一環として、先日までこの大学全体をこのスーパーコンピュータを用いて管理する、と言う実験を行ったというのである。
だが、あの試験が行われた日から、コンピュータの様子がおかしくなった。何かを隠すような反応をし続けた、とその白衣の男は告げたのである。それが意味するものは何か、強制的にハッキングしたとき、それが明らかになった。
「……そんな……!」
パソコンに映された画像を見て、試験官が驚いたのも無理はない。そこにあったのは、試験のマークシートと、その回答だったのだ。
「……今回の犯人は、学校の試験部屋の『壁』そのものなのです」
あの謎の受験生三人も、試験を勝手に受けて高得点を狙おうとしたスーパーコンピュータが生み出した幻だというのだ。あまりにも突拍子もない話だが、目の前にある物体を見た試験官たちは、その話を信じざるを得なかった。
「……しばらく、このコンピュータを用いた研究は中止します。
皆様へのお詫びもありますが、『カンニング』と言う行為を行うというのは……」
「人間のルールを、まだ完全には理解していない、という事ですね……」
その通りです、と申し訳なさそうに白衣の男は頭を下げた。
彼の後ろではカンニングの犯人――スーパーコンピュータ――が、スイッチを切られ、その罰を大いに受け続けていた……。
お題:犯人は壁




