表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/39

『へいわ』と言う名の列車

「こんにちは、おじさん」


 今日もその娘は、私の元にやって来た。優しい笑顔を見せる彼女に、私も感謝の気持ちを込めて笑顔を返した。


「はい、おじさん」

「おぉ、いいのかい?こんなのを貰って」

「いいの、私いっぱい貰ったんだもん」


 正直、娘より私の方が、こういうお菓子をたくさん食べることのできる環境にいる。でも、彼女はそれでも私に優しくしてくれる。こういう嬉しい気持ちには、絶対に応えなければならない、そう私は考えていた。


 彼女が暮らすこの場所は、最近まで続いた戦争で負け、荒野と化した国の中にある。ボロボロになった町は、しばらくの間狂乱や混乱に包まれていた、と聞いたことがある。外から戻ってきた人たちや、勝利した国からの介入もあり、まだその混乱は完全には収まっていないようだ。

 それは、私がこうやって佇む場所の近くを走る『鉄道』も同じだった。


 勝利した国の人たちが豪華な列車たちに乗る一方で、敗北したこの国の一般市民たちには、遠出するにも古くなった列車に乗り、長距離を混雑する中で乗らなければいけない。しかし、それでも少しづつ情勢が落ち着きを見せ始める中で、国の『鉄道』も少しづつ元の活気を取り戻していた。


 もう間もなく、その象徴がこの場所を通り過ぎる。


「おじさん、今日は来るのかな?」


 戦争が近づく中、一時全滅したこの国の『特急列車』が復活するという話題は、この娘の家族をはじめとする多くの人たちに希望を与えたという。私は、その姿を自慢のカメラに収めるべく、この場所を何度も訪れている、と言う訳だ。


「きっと来るさ。『へいわ』になったんだからな」


 その列車の名前は『へいわ』。

 長く辛い戦いからの絶望を乗り越えるため、懸命に頑張る人たちを後押しするような名前だ。


「おじさん、本当に列車が大好きなんだね」


 この私もこの娘も、あの戦争がずっと続いていたならばこうやって会話する事すらできなかっただろう。最悪、この手で命を奪っていたかもしれない。私の手に握られているのが、趣味であったカメラに戻って、本当に良かったと思う。そして、この国の可憐な少女と、こうやって会話する事が出来るのも。


「……あっ、来た!」


 娘に教えてもらい、私はその方向を向いた。


 そこにやって来たのは、茶色の電気機関車に牽かれて走る、豪華な特急列車の姿だった。

 白い帯を纏い、後ろに展望車を従えた、この国に蘇った特急は、猛スピードで私たちの目の前を突っ切って行った。幸い、迫力に押されながらも私はファインダーにその姿を収めることが出来た。


「……ふう、ちゃんと撮れたかな?」

「写真が出来たら私にも見せてね!」


 もちろん、今回の功労者に成果を見せないわけには行かない。



 そう言えば、来年からあの列車の名前が変わると聞いた。

 この国に『へいわ』が戻って来たのをしかと見届けるかのように、特急列車の名前は戦争が起きる前に伝説級の活躍をしたという列車『つばめ』に生まれかわるという。


 少しづつ、この国も長い戦争の記憶が薄れ始めていく。確かに良い事なのかもしれない。でも、悪い事である可能性もある。一体、この国の象徴たる特急たちの未来は――


――きっと、良くなっていますよ。

――世界一のレベルにね。


 いったいそれは誰の声だったのか、私にはわからない。

 ちょっとだけ通り過ぎた、まるでチョイ役のような声。しかし、私はその声の言う未来を、信じてみることにした。

 いつかここにいる娘がおばあちゃんになったとき、この国の鉄道は世界最高だ、と語る未来を……。 

お題:平和と娘 必須要素:チョイ役

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ