分身探偵・丸斗蛍 青い秘密会議
「ほう、それは面白そうだな……」
「だろ?」
そこで繰り広げられていたのは、傍目から見るとあまりにも異様な光景であった。
地毛と言われても信じられないであろう、ブルートレインを思い起こさせる青い髪に、20代後半にしては幼げな顔、そして長身の体は灰色や青を基調にしたスーツに包まれている。そのような男の姿が、一つだけではなく、何人、いや何十人も、一つのテーブルを中心に取り囲んでいたのだ。全員とも、服についたしわや髪のくせ毛まで、何一つ違わない。
そして、現在話し合われている内容に関して、各自で心の内で思ったことについても。
「とりあえず、この『業者』が色々とアレなんだろ?」
男の一人が、他の自分自身に改めて今回の議題を尋ねた。
警察で刑事をしているこの男には、不思議な力がある。自分と全く同じ存在を際限なく増やすことが出来るという力だ。それを活かし、彼はあらゆる職場やあらゆる場所に分け入り、何気ない顔で働いている。しかし、彼の本業であり、一番の楽しみは、その職場の中で『悪人』を見つけ、それを始末する事である。
今回彼がターゲットに選んだのは、とある古いビルに本社を構えているという企業。一応ちゃんとした真面目なしごとをしている、と言う報告は毎月なされているようだが、その裏で彼らが『オレオレ詐欺』を働いている、と言う事を、既にこの刑事の男はつきとめていたのだ。
「この前も酷かったんだよな……」
「あのお婆さん、騙されて数千万も取られちまったからな……」
生き別れた旦那さんからの大事な財産、それをしっかりと安全に保管しておきましょう。その甘い言葉に騙されたお婆さんがいくら連絡をしても、大事なお金は返ってこなかった。
確かに騙される方が悪い、と言う意見もあるかもしれない。だが、そのような責任を作ったのは、まぎれもなく『騙す方』だ。それが、ここに集う数十人の刑事の男――全員とも同じ名前、同じ記憶を有しているので実質「一人」かもしれないが――の考えであった。特に、そのお婆さんは近くでスーパーの店員を務めている『彼』がよく話し相手になっている優しい人、そのようなものを騙すという事への怒りもあったのだ。
しかし、ここで騒いだとしても、それが解決することは無い。
「……ま、やる事と言ったら一つだよな」
「そうだよな」
「当然だ」
「全くだな」
各自様々な返事をしながら、数十人の刑事の男は、例の詐欺師集団を追い詰める策を既に頭の中に決めていた。
言葉を巧みに操る彼らとて、所詮は人の心を利用するしか能のない集団。本家の『騙す』力を持つ者たちには到底及ばない、と言うのを、男はしっかりと認識していたのだ。そう、騙す力を持つのは人間だけではない、と言う事実を、彼は知っているのである。
そして、『彼』が集う秘密の部屋は、全く同じ微笑みと笑い声に包まれた。彼らの心に宿っていたのは、詐欺師に対する怒りと、自分自身の『業績』がまた一つ上がる事への喜び、そして胸糞悪い連中をボッコボコに出来る、と言う彼の欲望が満たされる事への嬉しさだった。
『彼』はいつもこの調子であった。自分自身の持つ特性を生かし、何千、何万もの自分と協力しながら、自由気ままに『悪党』を粉砕する、それがこの刑事――『有田 栄司』と言う名の男の趣味であり、そして生きがいなのであった……。




