大草原
ガタガタガタ。
―――――――緑の大平原を1台の馬車と数人の人間が整備された道を進んでいく
黒い髭を生やした面構えの悪い御者が馬車の中にいる私にいやらしそうな声で話しかける。
「ところでぇ。どうしてあんな場所にいたんだい?お嬢ちゃんー。俺たちがたまたま、見つけたから良かったが、あのまま、あそこで夜を過ごす気だったのかい? ハハハハ 」
話しかけられた私は気持ち悪そうに答える。
「・・・いえ。助かりま・・した。・・・うっぷ。・・・・どうしようかと思っていた所・・・です。・・・すいません。少し酔い・・・ました。」
馬車を止めてくれるとありがたいが乗せてくれている手前言いづらい。
でも、もうそろそろ限界かもしれない。出来れば止めて欲しい。
「馬車酔いかい。初めてじゃあ仕方ねー。・・おい!今日ここで休むから!」
御者の黒髭が馬車の後ろを歩いている犬人間に声を掛ける。
二匹の犬人間は元気よく答え、馬車から降りる私を手伝ってくれる。
「姉さん。大丈夫ですかい?おいチー!」
私を降ろしてくれた犬人間がもう一匹を呼ぶ
「あいあいーこっちに用意できてますよー」
草原の草の上に布(麻で出来た汚い土嚢袋)が敷かれていた。
犬人間が私をそこまで運んでくれてゆっくりと降ろしてくれる。
・・う。犬人間の抜け毛が服に大量についた。
「・・・ありがとうございます。」
私は手を貸してくれた犬人間に礼を言う。
「今、水持ってきやすから。待っててください。」
この犬、出来るな。しつけがキチンとなっているのか気配りがよく出来ている。
「ルー!親分が荷物降ろすから少し手伝えって!あ、これ水ですよー」
もう一匹が小走りやっきて木で出来たコップを渡してくれた。
もう一匹は走って黒髭のところに向う
「ありがとう」
私は礼を言い、この・・・少し濁った水を飲んでみる。
土の味がした。
・・・・・
・・・
・・
・
私が、この黒髭と犬人間にあったのが約5時間くらい前の事になる。
トカゲの頭をした怪物に襲われ、身動き取れないでいると、草原の向こうから人が大声で叫んでいるのが聞こえた。
私は嬉しさのあまり、痛みを忘れて立ち上がり手を振り呼びかけに応じた。
だが、近くまで来て私は言葉を失う。
大声で呼びかけてきたのは、なんと1匹?の犬人間。
犬が二足歩行で「ハァハァ」しながら近づいてきたのだ。
「姉さん。どうしたんですかい?こんな所で? うわぁ足まで怪我しちまって。ちょいと待ってくだせい。」
犬人間はポシェットから布(汚れてる)を取り出し、私の足に巻いてくれようとしたが、叫び声と共に犬人間を突き飛ばしてしまった。
しまった。と思った時にはもう遅い。
「あいたぁ」
犬人間は急に押されたことにより尻餅をつく
「いつつ・・・なにするんでぇー!」
今にもワンワン言いそうな顔でこちらを見てくる。
「あ、あんた何者よ・・・・」
震えるような声で言い返すが、頭の中が混乱して上手く思考できない。
「ルー?どうしたの?親分待ってるよー」
またもう一匹、犬人間やってきた。
「あー。ルー。また、なんかやったの?だめだよ人間様に変なことしちゃ!すみませんでしたー」
語尾が長くあんまり、謝罪の気持ちが入っていないような喋り方をする犬人間だ。
ルーと呼ばれた犬人間が反論をする。
「なにもやってないっすよ。急に突き飛ばされて。オレッちはただ怪我してたから傷の手当をしようとしただけなのに・・・」
「怪我?ふとももに?ああー。ルーは分かってないなぁ・・・女の子の身体にいきなり触ろうとするからでしょ?最初に断りを入れなくちゃ!すいませんでしたー」
やれやれ。といった感じにもう一匹が答える
「そんなぁー」
耳と尻尾がシュンとさがる。
「とにかく、怪我人はほっておけません。親分の所に連れいくよー。親分なら怪我治せるおもうし。」
「そうっすねー。じゃあそういうことだから、よいしょっと!」
突然、犬人間にお姫様抱っこされる。
あまりに色々な事が有り過ぎて、もう頭の中が整理し切れない。
私は、目を閉じてなにも考えない事にした。
5分くらいたったあと犬人間の歩みが止まる。
目を開けると黒い髭を生やしたいかにも悪そうな大男が1人待っていた。
ああ、人がいたぁぁ。
失礼な話だがどんな形でさえ人と会えたことに、余りの嬉しさと安堵感が込み上げてくる。
「親分!この人間、足怪我してやした。」
私を運んできた犬人間が怪物に噛みつかれた怪我の跡を黒髭に見せる。
「おう。やっぱり怪我人だったか。じゃあ馬車に連れて行け。薬さがしてくっから」
私はそのまま、馬車の中に連れて行かれる。
馬車の中で座らされると程なくして黒髭が黒いビンをもってきた。
ビンの中に棒が入っており、黒髭がかき混ぜ、棒を持ち上げる。
すごくネバネバしていた。
「お嬢ちゃん。足出せ。塗ってやるから」
「え、・・・そ、それなんです?塗るんですか?」
凄く気味が悪い。排水口にたまったヘドロに似ている。
「ああ。」
「!!!!!!!!」
黒髭の返事をすると傷口べっちょりとネバネバした物を塗られた。
余りの気持ち悪さに、悲鳴を上げてしまった。
この悲鳴が、今日一番の私の叫び声だった。